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黄泉❛心縁  作者: 紡縁永遠
一章怪奇休夏縁〜貮❛夏に集まる怪異の夢語〜
7/13

安集海岸

 「観光地というだけあって景色がいいな、潮風も気持ちいい……表面上は」

 「死神なら余計に感じるかもな、安集海岸(あんしゅうかいがん)夏に魑魅魍魎が集まることを指した怪談〈夏に集まる怪異の夢語〉に深く関わりがある場所だ、怪異がその魂を癒しにやってくるということから『安らぎに集まる』という意味がある」

 「なるほど、その中に人魚が入るってだけだ。亡霊が魂を癒やしに」

 「いやそうとも限らない、別に人魚そのものに怪談があるわけでもねぇ、未練を残した亡霊や魑魅魍魎が魂を癒しにやってくるというだけで、人魚単体を指す怪談はねぇ、そこから一人歩きに島の地形に名前があるけどな」

 「今思うと私達が七不思議のどれかに会ったことも、かなりの確率というわけね」

 「そういうわけだ」


 二つ目の怪談巷説を探しに海に来た三人。今は昼のためか観光客も多い、それでも分かることはあるかもしれないと乗り出した。いつもと変わらない空気に三人の目に異常は見られない、そこで傀偽と死強が目に映らない雰囲気をより深く視る。フルールも見鬼が使えないわけではない、生まれ持った才能とも言える見鬼はこの夏黄泉の島では持っていることが当たり前で、それが異様に発達しているのが黄泉家という次第だ。


 「今までと違いはあったか?」

 「わからん、いや、歪すぎてわからないといったところか」

 「三途の川で船頭をやってるから水の流れはある程度分かる。本当にぐちゃぐちゃだな、そしていびつなのは島全て。それが理由か?この時代に刃物を持って問題ないんだな」

 「これのことか?」


 傀偽の普段、特に昼間は宿が主での生活だから携帯はしていないが、今は腰に剣鉈を携えている。死強の言い分は銃砲刀剣類所持等取締法を指しているのだろうが剣鉈は6cmを超える場合でも明確な理由があれば所持出来る。


 「ちゃんとした理由があればいいんだよ。もともと対怪異用の武器はこっちだ、あの時は緊急だったから近くにあった塩漬けの木刀で対応したんだ」

 「ん?お前、見えない、見鬼だけの状態で死神に木刀で戦おうとしてたのか?いや、しかし、それでも警察に何も言われないのはなんでだ?」

 「うん、ここに配属された初日にな、先輩に夜回りをやらされるそうなんだけど、まあ所謂初日の洗礼みたいな?まあ、その夜廻で痛い目みてるから、夜廻出来る俺は剣鉈の所持で痛い目みる必要がないならって許可してもらってる」

 「そうか…でもこれからは何があるかは分からないんだ自己犠牲はほどほどにしろよ」

 「わかった」


 話を切り上げて、他の奴らはどんなとこかなと周囲を見渡す二人。傀偽はまだ慣れない眼のため人混みの中すぐには見つけられない。


 『フルールは海の家に初めてを装らせて聞き込みに行かせたんだが、教室での盛り上がりを見るにかなりの美人枠、つまり、この現代の時代で、こんな田舎であるこの場所で、怪異とかが出てきて、そんな物語みたいな典型的なナンパがあるわけなくて』


 別れる前に海の家で頼んだものを確認するために、二人はそちらに向かう。傀偽は人間相手への予想は苦手である。人の思いと恐怖でできた道聴塗説は動きにパータンというべき制限がある。傀偽は理に従う。人ができないと思えば出来ないのだ。都市伝説、これも人の噂から作られる。最初からそこにあったわけではない。ただ人間は思い怖がり、信仰する立場にある、否定はあまり意味をなさない、そして傀偽の考えていたことは現実となっていた。


 「ちょっと、辞めてください、」

 「いいじゃん、ちょっとくらい。俺等と遊ぼうって」

 「営業の邪魔になるので辞めてください、」

 「辞めなさい、困っているでしょう」

 「おっ、こっちもいいじゃん」


 物語で見るような典型的なチャラい男二人にナンパされているのだ、そこは人の思いに寄せられたというべきか、この時代にとっては彼らこそが幻と言える怪異みたいなものだ。そして正確には海の家の店員がナンパされているのをフルールが庇っているようだった。


 「だから無理ですってそれにお客さん酔っていらっしゃいますし…」

 「あぁ?!酔ってねぇし、ヒック」

 「いや、酔ってますよ」


 なんというか、怪異に近いという表現は合ってるみたいで、よくある文言でよくある反論をされ、そのよくある反論を恋物語に出てくるチャラい大学生(成人済み)の繁華街での飲み会終わりのナンパでもその飲んだことを否定すると言うなんともまあ気持ち悪い図ができていた。


 「助けるか」

 「ん?ああ」


 見るに堪えなくなったのか、二人は頸をっこむことにしたようだ。


 「いいじゃねえか」

 「辞めとけよ、困ってるだろ」

 「あぁ?出しゃばるんじゃねえよ」


 これまたよくある彼氏役の人間がナンパをした男から邪魔された腹いせに暴力を振るわれるというように、死強の襟を掴もうとする。和服は襟が掴みやすい、だがすり抜けたように勢いをつけて出したその手は空を切る。


 「あ?」

 「ほれ、今のうちに奥にいろ」

 「はっはい」

 「今…のは、」

 「どうしたんすか、先輩」


 死強を掴もうとした男は空を切った手を見つめていた。自分の周りの隙間と相手の大きさ、そして流れるような動きを自分なりに反芻させ頭の中で再生させる。


 「俺…今、手を…、確かにアイツに触れられる〈距離〉まで伸ばしたはず…」

 「…酔ってんだから、距離感つかめないのも無理ないだろ?」


 ナンパ男から少女を助けると、助けた側も余裕を見せながら煽るという行動に出るようで、相手の疑問に煽るように淡々と答える死強の言葉に、男は確かめるようにもう一度自分がしたことを繰り返す。


 「いや、確かに触れられる距離に」

 「まてまてまて、」

 「今度はなんだよ」


 流石にこれ以上はめんどくさいと思ったのか。この恋物語現象に嫌気が差したのか、それともこ男達がいつ死強の地雷を踏み抜くか気が気でないのか傀偽が割って入る。


 「そいつに関わるなら命かとけ」

 「何いってんだお前」

 「偽善者気取りか?」

 「事実を言ったまでだ、それと偽善は()()()を行うと書くんだよ」

 「それがどうした、てめぇ今すぐ退かねぇとぶん殴るぞ」

 「はぁ…それ地雷だよ」


 何とか説得しようとした傀偽だったが、踏み抜かれた死強地雷に気づいた傀偽のその言葉とともに男は吹き飛ばされる。正確には死強に投げ飛ばされただけだが。付き従ってた男から見たら目の前にいた人間が唐突に上に吹っ飛んだ見えるわけでそれを追っていく。


 「せ、先、先輩!!」

 「やりすぎじゃね」

 「人に手を出すなら帰ってくる覚悟を持たないとな」

 「いやソレにしては」

 「浅瀬に投げたんだすぐに上がってくるだろ」


 死強の答えとは裏腹に付き従ってた男は先輩、先輩と海に向かって連呼し続ける


 「先輩、先輩、センパァァァァイ!!」

 「あぁもうわかったって、やりすぎたよ」

 「上がってこないのか?」

 「カナヅチとか?」

 「いや先輩は元シンクロナイズドスイマーだよ」

 「すごいけど珍しいな」


 シンクロナイズドスイミング、音楽に合わせてプールの中で身体を動かし、技の完成度や同調性、芸術性を競う水泳競技、今はアーティスティックスイミングと呼ばれている。

 言い方的にそれなりに出来るようだが、上がってくる気配はない。落ちた大体の目星から周りを見回すと手だけが海面から伸びていた。


 「あっいた!こんな時にもやっているとはさすがです。先輩」

 「いやあれは技とかとさういうのより」


 傀偽の警告が終わる前に、


 ポチャンッ


 海面に手だけが伸びた状態で付き従っていた後輩?は技と勘違いしてたが。いくら浅瀬でもこの島で技を行えるほど安定した潮はないのを理解していた傀偽とそれをつい数分前に見ていた死強は瞬時に動く。


 「あれは…」

 「何かに引きずり込まれてんだ!」

 「ここが初めてなら潮に乗ることすらできない。助けなきゃ溺死するぞ」

 「ちっ、仕方ない」

 「あ、あんたらいい人だな」

 「海の家に謝罪して待っとけ」


 後輩とやらに注意をしたあと、死強は傀偽を抱えて走り出す。かなりの速さだ。だが肝心な問題に傀偽が質問をする。


 「喋ると舌噛むぞ」

 「追いついたとしてどう捕まえるんだよ」

 「失念してた」

 「どうした?」

 「それかして!」


 立ち止まった二人は、たまたま通りかかった島の釣り人にあるものを借りる。捕縛できるかは技量次第のものだが、それは死神が予想打にしないものだったが納得した。


 「死強!ここから一時の方向、十メートル」

 「わかった」


 止まっていた分を縮めるべく、傀偽が視た潮の位置を支持し、死強がその潮に乗る、即興だが、これで流されている男を追える速さを得る事ができるのだ。

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