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黄泉❛心縁  作者: 紡縁永遠
一章怪奇休夏縁〜壱❛死神の神隠〜
4/13

縛縁に呪は逃さず

 「下がってろフルール」

 「無理だよ!」

 「悪いが、現世に残る不明瞭な魂は回収させてもらう」


 木刀に対して、刃のある大鎌、まともに受けるのは得策ではないためフルールは傀偽を止めようとする。それでも引く気がない傀偽と逃がしてはくれない死神、互いの武器が交差する。

 死神による大鎌の横ふりを傀偽はしゃがんで回避、そのまま突くが避けられる。避けられたことを予測していた傀偽は鎌の柄に木刀をぶつけ振られる寸前の鎌を止めてそのまま回し蹴りをする、効果はないようだが、何か違和感を覚えたのか、死神の動きが鈍る。


 「お前、その体」

 「悪いが俺自身体のことは理解してないんでな」

 「そうではない、どうやって生きている。それにその目だ、不自然なほどの機能が停止している。もともとあったものを外部から強制的に消したような感じだ」

 「さあな、分かっていたら、分かっていてもこれはオレが背負う罰の一つだ」


 死神の少しズレた問答に傀偽は自分の自責で答えながら一歩下がる。できるだけ距離を取ろうとする傀偽だが意味はない。死神にすぐに詰められ鎌を振るわれる、が切られはしなかった。


 「どうなってる、不明瞭であることには変わらないがこうも魂が縛られているものは初めてだ」

 「縛り…あ〜あれかな?」

 「多分」


 島の伝承に触れて呪われた。それが魂を縛っているのだろう。しかし死神は関係ないのか?行方不明者は毎年おきてるのに、だから【死神の神隠伝説】が生まれたのに。さまざまな疑問が傀偽の脳に駆け巡るが、それらの質問を前に死神から質問が入る。


 「ちょっと待て、知ってるのか?」

 「その前に、毎年ここに来ているか?」

 「今日が始めてだが」


 死神の質問に毎年起きてるはずの神隠しの原因とされる死神の行動を聞く傀偽に返ってきたのは、思いもやらない言葉だった。消息が絶たれたものは死神が原因ではないのか、では何が人を消しているのだろうか、人を消す伝承はいくつかあるがそれらにも別の理由がある。死神の神隠とそれ以外で区別されているのだ。ではなぜ死神の神隠しと差別化できるのか。

 死神の回答にさらなる疑問が生まれるが死神の機転によりそれは別の方向へと進む。


 「……どうやら事情がありそうだな、名は?」

 「黄泉傀偽」

 「フルール・エステルです……」

 「そっちは随分と難儀な名を背負ってんだな」

 「言霊か、まぁ、うん、そうだな」


 言霊、力がこもった言葉をさし、呪にもなる。そして名は一番短い呪だ。傀偽、傀儡の傀に虚偽の偽、これらの文字は何使われることはない。


 「お前の名は」

 「さあな、冥府は名で呼ぶことはほとんどないから、忘れたよ」

 「じゃあつけるか、魂結死強(たまゆいしきょう)、名がないと不便だろ」

 「言霊を知りながらよくもまあそんな名が出てくるな、まぁ、いいか」

 「ん?」

 「どうかした?」

 「いや何でもない」『目の前に赤い糸が交わったような気がしたが気のせいか、』


 名をつけられた死神はその名に込められた意味に気づき嫌な顔をする、だが身に覚えがあることでもあり、渋々、不本意ながら、奥歯で噛み締めるように、納得をする。

 そして矛を収めた死神改めて死強は今後のこと聞く


 「ふむ、俺の目的はこの島にある、不安定な魂の回収、それが現世での仕事だ、呪が解けるまで共にいさせてもらう、それに休憩としても来てるからな、夏が終わるまでは手伝おう、それが期限だ」

 「いいのか?」

 「島の伝承がどういうものか知らないが、怪異に呪われるのは普通の人生じゃないだろ、もうそんなものを見るのは嫌なんでな、人は普通に死ぬのが何よりだ怪異に関わるのは普通じゃない」

 「そう…だな、普通が一番だ、宿に案内するよ。そこに俺達の過去を知るものがいる」『親父にどう説明するかな』


 三人は結縁庵を目指し来た道を戻る。フルールを助けるはずが死神が増えたことで傀偽は説明をどうしようかと考えていた。何かに集中すると人は判断が遅れる。今後を軽く思案して近づく陰に気ずかない。


 「傀偽!」

 「?!っう」


 飛び出してきた怪異、と言っても弱い部類の攻撃を傀偽は腕で受け、獣のような怪異の牙により腕から鮮血が舞う。


 「お前、腕が」

 「はあっ、」


 傀偽は腕の痛みを割り切るかのように、痛みから獣の怪異へ、そして木刀を振るい怪異を吹き飛ばす。木っ端に限り刺すだけで清めの効果が利くほどのものだ、名も持たぬ怪異はすぐに消滅する。

 怪我を負った傀偽は傷の手当て、応急処置をすることなく傷を見続ける。やがて、腕から垂れる血は止まり、あとすら残らず消える。


 「はぁ…」


 周りが驚いた表情を見せる中、重く、嫌そうに、深くため息をする傀偽。これが呪い、どんな怪我を負っても瞬時に回復する、不死の呪、頭が潰れても、高所から落下しても生きることが出来る。これは傀偽が人であることを否定してくる、どんな怪我をしても、どんなに血を流しても、お前は人じゃないと突きつけるように。


 「今の見ただろ…」

 「……なるほど、具体的な呪いはそれか」

 「傀偽もそうだったの?」

 「ああ、…あれっ?『も』ってことはフルールもか?」

 「うん、私も傷の治りは早い」

 「なるほどつまり、不死を解くが俺の仕事だな……」『人間の魂は一つだけ、一度死んだら冥府へと渡る、一度きりのもの、それが何度もより帰り定着している。俺が迎えるべき魂の中二人は目の前にいる子供で間違いないな』


 死神として人の魂を迎えてきた死強は、今起きたことへの異常とその問題を頭の中で反芻する。命の重さは運ぶものがよく理解しているのだから。



―――――――――



 「怪我がないならと言ってもすぐに治るかお前は、そうだな、不死が直るなら問題ない」


 自身の息子に心配はなかった強願だが死神を連れてくるのは予想外だったようだ。


 「ただあの日のことか、まぁ、何もできなかったことは多いからな、島民の視点からすると二人は、三日三晩行方不明だった。この島の神隠しは主に二つ。島の怪談伝承の一つ【死神の神隠し】そしてそれ以外の何か」

 「死神と明確な差があるわけでもないけど、それ以外というのは数が多すぎるから二つ目の伝承【夏に集まる怪異の夢言】これだろうな」


 島に伝わる多くの伝承、島の者たちがその場を見て、刻まれた恐怖により作られたものだ。死神だけ分類されるということはそれだけの畏怖があるからである。


 「だめだ思い出せない」

 「この島には伝承が多いからな、思い出せなくても問題はない。ただわかっているこは夏に関わることが多いんだ」

 「そして二人が行方不明になったのは夏の七月終わり、エステル家が海外へ移動するときだな。そして死神の神隠は死神が、魂を求めてさらうからという仮説があった。だから逃げた二人は死を奪われたと思っていた」

 「何度も言うが死神にそんな力はない」

 「俺たちからすれば日没から夜明け九時間くらいだったはずだ」

 

 傀偽達は行方不明となっていた時の話を改めて聞きながら整理している。出てきた問題はあの日まともに見鬼が作用しなかったことか、それ以外にも月日が立つにつれ島の見鬼が増えていたことか、三日間いなかった二人。見つけられた時は鮮血に染まりアズミーは目を押さえながら、狂気的な悲鳴を上げていたことか


 「ひとついいか」

 「どうした死強」

 「なぜ呪で不死になったのに眼は回復しなかったんだ、まるでなかったようになることなどそうあらはずがない、視力があったという事実をねじ曲げない限りな。後は不死に気づいた時のこととかは分かるか?」

 「不死の発覚が、一年たった後、見鬼での生活に慣れたころに島の怪異と戦闘したときだった」

 「私は大きな怪我をしなかったからわからないけど、フランスで怪我をしたときだったから……」

 「そうか…分かった」



―――――――――



 死強は傀偽の部屋にうつり傀偽と死強で整理して深まった謎、そして決意する心中を話す。


 「謎が深まるばかりだな、でも」

 「ああ、」

 「「この夏にけりをつける」」

 「それでひとつ仮説を立てた」


 話の内容、父親の仮説、それらをひっくるめてでてきたもの、


 「この不死の呪いは島の伝承に踏みはいった者を逃れられないようにするため。だから二人揃ったことで、この夏に全ての伝承が引き起こされるかもしれない」

 「そうか一利あるな、けど視力がないのは不便だろ眼を閉じろ」


 眼を閉じる傀偽の瞼に死強の手が触れる。傀偽目を開けると、ぼんやりと見鬼でしか感じられなかった傀偽の視覚に色鮮やかな視力が取り戻される。


 「これは」


 久しぶりに傀偽つかう【見る】ちから、色鮮やかな景色に、見鬼の視る力では無く眼球で見る事が出来ていることに感傷に浸ることになる傀偽、遅れて死強に感謝の辞を述べた。


 「ありがとな、でもなんで」

 「ああ、お前の目は昨日そのものが死んでいる、というより元からなかったことにされている、が、その程度なら冥府から借りることができる」

 「そっか」

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