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黄泉❛心縁  作者: 紡縁永遠
一章怪奇休夏縁〜壱❛死神の神隠〜
3/13

夏黄泉の島、怪縁

 終業式が終わり、港で待ち合わせをしている傀偽。と言っても彼はもともと一人でいるので待つ必要がないのだが。


 「ちょっといいかい」

 「何ですか?」


 どこか知っている気配と魂に気を張る傀偽、人数は三人、フルールそれと気になる気配を持った大人が二人。


 「もしかして君、黄泉くんか?」

 「えっと」


 見えない傀偽には男性的な声が響いただろう、それでも聞き覚えのない声に質問をする。


 「流石に忘れてるか、Brodia(ブロディア)・エステルだ、こっちが」

 「久愛(ひさめ)・エステル、思い出したかな?」

 「……ああ、すみません気配と声だけじゃわかりませんでした」

 「いや、こっちも配慮が足らなかった、別れた時が十年も前だ、忘れている可能性のほうが高い」


 フルールの親で仕事もそれなりに上の地位を獲得しているブロディアとその妻の久美。傀偽は二人には頭が上がらないことが多い。なぜなら己のせいで失明させてしまい、償おうとしたが眼の移植も反対していた。そして移植してからは謝ってくるばかり。二人の責任ではないのに自身の責任のように感じさせてしまっているからである。


 「やはり眼が合わないな、」

 「すいません」

 「いや、いい目が見えない者に合わせろも理不尽だしな」

 「やっぱり、傀偽だったのね。かかわりは作ったほうがいいよ、それに視力がないことも言ってないでしょ?変な誤解が生まれてるよ」

 「いいんだよあれで」


 高校には教師しか失明したことを知らない、そのため事情を知らないから余計に避けられる。それでも己にかかわるべきではないと傀偽は最低限にしか話していない。


 「確かに言えば視線が合わないことも納得してくれるだろうな。けどそれはそれでまた別の問題事が起きるからな」

 「まぁ、多数と違うことを敵とするのが人間だからな、気持ちは分からないでもない」

 「そっ…か」

 「それに島にはあんまり行ってほしくないからね」


 邪険にされることがなくなるどころか、イジメへと発展する可能性があることを考える傀偽、多数から逸脱したものは叩かれるようにそんな経験があるのか、イジメについて同じ予想をするブロディア、現実をよく見て入るが傀偽のほうがそれは強く楽観視することはない。

 挨拶を終わらせてから船に乗り込む一同。三ケ月乗ったきりだが彼は船の方に顔を覚えられていた。



―――――――――



 「ここが夏黄泉の島、で宿はこっち」


 久しぶりの島と言っても三ケ月、見た目は分からないが楽しみながら進んでいく傀偽。田舎なので関係値はかなり高く大半が見知った中のため、あいさつが多い。

 進んで往くとそれなりに発展した場所に出る。目が見えなくても、進めるのは慣れもあるだろうが、島の住人が理解しているから、挨拶の中に交えて誘導している。


 「おかえり、」

 「つぎ曲がるんだぞ」

 「こんにちは、田んぼに落ちないでね」

 「ああ、気をつけるよ」


 宿に到着する。久しぶりに帰ってきた傀偽は我が家の変わらない空気を感じる。


 「ただいま、親父」

 「おう、着替えは部屋にあるが、先に案内しておけ、最奥の四人部屋だ」

 「わかった、えっと、こっちです」


 帰宅早々家の仕事を始める傀偽。案内を終わらせて着るのは島の住民の叡智の結晶ともいえる着物。

 背中に赤い糸で四つの花を結ぶような施しをされた物で宿の名前、『結縁庵(ゆいえんあん)』と、宿の四方に植えられた椿(つばき)(えのき)(ひさぎ)(ひいらぎ)の木がもととなっている。


 「それじゃあ少し出てくるね、」

 「気をつけろよ、そんでもってなるべく早くな」


 習慣として宿に泊まる客には外出時の制限を伝える傀偽、あまり動ける時間が少なくなるが、命を比べたら落ち着いて部屋にいるのがいい。

 何より、島の怪異は彼が対処しているから、面倒事は増やしたくないというのも理由だ。


 「十八時には夕食が運ばれるから、部屋にいろよ」

 「わかったわよ」


 宿のバイトとして入ってくる客を捌きながら今後を考える傀偽。夏休みのほとんどをこの島に使えるが。彼は、ほぼ不干渉を貫くと決めていた。

 そのまま十八時まで、宿の仕事をする。十八時半に、自身の飯を食べ、十九時から、温泉の案内をする。二十一時には温泉をとじ、その一時間後に彼と彼の父、そして一部の職員以外は仕事を終える。今日もそのはずだった。問題は島の夜間の外出を禁じる事を忘れていた者がいたからだ。


 十九時、夏でも暗くなり始める頃、

 入口の戸を閉めようとした傀偽にブロディアと久愛が娘が帰っていないことを伝える。


 「フルールがまだ帰ってきていないんだ」

 「夕食の時にはいただろ?」

 「そこからまた外に出たんだ」


 なぜ夜間に外出をしている。そう思案して、自分の過ちに気がつく。確かに扉を閉める時間は指定してなかった。それに外出するものを止めれなかったと自分の非を落ち度を認める。でも夜間の恐怖はフルールと彼が一番知っているはずだ。なぜそんなことにと思案をしながら覚悟を決めていく。


 「どっち方面だ?」

 「えっと……西側かな」

 「発展したところを抜けた田んぼだな親父!!」

 「行って来い!、」


 父から塩漬けにした木刀を受け取り走り出す。夜間は、怪異と見鬼の独壇場。そして一番ヤバい気配を放つ場所に向かう。



―――――――――


 「いいの?」

 「問題ない、あいつは島の伝承から帰ってきたやつだ」


 木刀をわたして走り去る傀偽を眺めながら、飛んでくる質問に断言する父黄泉強願(よみきょうがん)。放任主義が強いが、子どもをよく信じる親だ。


 「島の伝承?」

 「この島に伝わる都市伝説みたいなものだ。…忘れたのか?いや、すまない十年もあれば忘れることもある、こちらの落ち度だな」

 「いえ、確認しなかったこちらも悪いので」


 強願もまた、怪異絡みで家族を亡くしたものだった。故に島での警戒心は黄泉家が一番ある。そして傀偽が走って行った方向を見て、


 「あいつなら大丈夫だ何とかしてくる」


 総断言した。



―――――――――



 『忘れていた。久しぶりに帰ってきたけど、歪んだ記憶のせいで判断が疎かになっていた。ここはそういう場所だ。』


 魑魅魍魎が跋扈する。眼の前に死を押し付けるような存在がいてもおかしくはない、それが普通の島だ。

 今、何もされていないのに動けない彼女は、フルールは、この状態に覚えがあった。十年前に彼女は同じ事を感じて多くのものを失った。

 黒い何かが友達を掻っ切って、血肉が散らばるのを間近に見て。その時は、助けたかったのに何もできず、助けられたと自責の念をも思い出していた。


 「逃げられないか」

 

 過去の記憶が、金縛りのようなものを解くがそれでも放たれる殺気に動くことができない。火事場の馬鹿力という言葉もあるが圧倒的な恐怖の前では意味をなさない。


 『せっかく戻ってきたのにな、そしてごめんね傀偽。せっかく光を暮れたのに命を散らし、捨ててしまうのだから。』

 「………………」


 無慈悲にも巨大な鎌が振り下ろされる。息を呑み目を瞑るフルールに、見知った声が届く。


 「……っつ」

 「フルール!!」


 名前を呼ばれ振り返る。そこには、傀偽が走って来ていた。一番強い気配を追ってここに来たのだ。



―――――――――


 「大丈夫か?」『間に合ったけど、こいつはなんだ』


 傀偽の目には、巨大な気配しか見えず、死を覚悟するほどだった


 「お前らか?不安定なやつらは」

 「呪を受けたと言うならな!」


 気合一つに木刀を振るう、が避けられる。今までと比べものにならないしまともな武器もないそれでも武器を構え続けている。

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