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黄泉❛心縁  作者: 紡縁永遠
一章怪奇休夏縁〜貮❛夏に集まる怪異の夢語〜
11/13

宵のご縁

 『不死になって変わったことは?』

 『怪我や病気を気にしなくなったかな』


 『不死になったのは?』

 『さぁ?島の伝承に呪われた時だとは思うけど、』


 『…不死になってやろうと思うことは?』

 『不死を治すことかな』


 『……す、好きなものは?』

 『ん〜桃とかの果物かな、柑橘系も好きだな、数の子とかもよく食べる、塩分量を気にしなくていいのはいいことだね』


 「普通ぅぅぅ!、もっと、こう、ないんですか?」

 「もともと治すために動いていたし、不死を否定しているから」

 「不死なんて、本来あってはいけないものだからな」


 叫ばれる声、呆れる声、重苦しい空気はここにない、これは宿に戻った時のこと。



―――――――――



 「こんにちは、私、ジャーナリストの中峰風菜です。本来の目的とは少し違いますがこの宿を宣伝させていただきたいのですが」

 「これは、これは、ご丁寧に。ここの主人の黄泉鬼願(よもつきがん)といいます。取材につきましては許可しましょう。案内は傀偽、頼んだ」

 「やっぱりか、まあいいか、【夏の怪縁】事情知りだ」

 「やっぱりか」


 宿に戻り取材の許可を取ろうとする風菜、何の因果か、ここにいるものは全員の部屋が同じ階層でその階には他に二組しかいないので話しやすい場ではあった。

 宿の歴史、といってもそこまでの歴史はない話をしたあと、風菜は傀偽に本来の不死についての取材をしていたのだが。もともとが治すつもりだったために、予想とは違った反応となり反論をしている。


 「はぁ…もっとこう、不死に夢があってほしいんですが」

 「ね、ねぇ、本当にこれでいいの?人が死んでるんだよ…」

 「そうだな…でも空気は和らいだだろ」

 「えっ?」

 「流石にな、から元気と言うやつだ、まだ俺や死強は、今までや種族で何とかなるが、あんなことは早めに忘れたほうがいい」


 死を招く死神や怪異と戦い、死が身近な傀偽と死強が異常なだけであり人の死を見たフルールはトラウマになっていないことの方がおかしい。慣れない死はたとえ天寿を全うしたものだとしても心に深く残る。それが外的要因ならなおさら深い、外的要因の人の死など見ないほうがいいのだ。


 「なんで慣れてるんですか?」

 「なに、少し覚悟というやつを決めただけだよ、傷つくのも傷をつけるのもあまりしたくはないから」

 「そうですか、」


 また沈む一面、死への慣れそれは慣れてはいけない、慣れたときこそ化け物と言われる者たちの仲間入りなのだから。そして、そこにまた別の人間が部屋に入ってくる。


 「失礼します、ここで宿の取材をやっていると言われたんですけど…」

 「え、ああ私です。従業員の方ですか?」

 「いえ、バイトです」

 「……碧医(あおい)?」

 「えっと傀偽?」

 「知り合いか?」

 「ああ」


 あまりいいとはいえぬ空気を割り、はいってきたのは傀偽の知り合いらしい。


 「島の住人で幼馴染といっても、関わり始めたのはフルールが去ったあとだけど。医者を目指して別のところに行ってたんだが、帰ってきたのか?」

 「年に一度は帰らないとまずいでしょ」

 「ああ、まぁそうか、ところでそっちは?」


 碧医の隣にいる少女、見た目は普通の人間だ、ただちがうとすれば、額に霊気が集まり角のような形を作っていることだ。

 この場にいる見鬼を持ったものは、彼女の額の霊気の角に気づいていた。風菜のような紛い物ではあるものの、本来の怪異としての格が違うようだ。


 「向こうでできた友達よ。バイトに誘ったの」

 「そっか……」


 碧医の言葉に警戒が少しとかれる。そして二人はバイトの感想を話すと言って風菜の方に向かうので、手持ち無沙汰になった傀偽と死強はそのまま外に、まだ時間として早いが、風呂場に向かう。


 「まずいな、妖怪に食われて死ねば」

 「輪廻から外れるか?」

 「ああ、これ以上の被害は出せないな」

 「面白そうな話をしてるじゃねぇか」


 風呂場に向かう途中、先ほどの霊気の角を持った少女同じように額に霊気が角の形をなした男が話に割り込んでくる。

 違う点は、わずかではなく濃くはっきりと霊気が感じられること、それにより死強と傀偽に警戒心が生まれる。それでも気づかないふりをして、


 「これから風呂だそこで話そうか」

 「それはいい俺は酒呑鬼羅(しゅてんきら)だ、楽しもうぜ!」

 「っざけんっな!」


 一歩踏み込んだと思ったら、二人とも浴室に吹き飛ばされる。傀偽はまともに受けてしまい、上半身が吹き飛ぶも瞬時に再生して構え、何とか受け身を取り悪態をつきながら鎌を取り出す死強、


 「ちっ、怪異だらけだなこの島は」

 「人が少ない時間でよかったよ。鉈はないけど頑張りますか」

 「くっ、あははははははははは。やっぱ強いなオメェら、俺が見込んだだけのことはある」


 宿に響く声、隠そうともしない角。最上級の怪異、鬼、いくら傀偽でもまともにやらずとも勝てる見込みはゼロに等しい。死強ありきで五分五分の勝負が出来るかもわからないほど鬼というのは規格外だ。それでも覚悟を決めたようだ。


 「それじゃあとことんやろじゃねえか」

 「はぁ、腹くくるしかないか」

 「行くぞ!」


 鎌を出さなければ被害は抑えられるが、そうすれば押し負ける事となるため出し惜しみなく動く死強、それに相対する酒吞と名乗った鬼は拳を固めて振りかぶる、が


 「待ちなさい!温泉を血の海にする気ですか!」

 「なんだよ碧医、邪魔すんじゃねえよ」

 「ちょっと伯父貴!問題は起こさないって」

 「敵ばっかだな、多対一は趣味じゃねえ、邪魔をするな、少し気絶してろ」


 騒ぎを聞きつけ、駆けつけてくる面々の制止を聞かずに、今度は止めた者に向かって、振り上げた拳を振り下ろす。

 鬼の一撃はそれすらと霊気をまとったもの、常人が喰らえば確実に死ぬモノだ。


 「吹き飛べ!」

 「ちっ〈(こく)〉!」

 「あ?なんだこれぇ」

 「あれ、?これって。というよりその人鬼じゃない勝てるわけないわよ」


 しかし、その拳は届くことなく、回り込んだ死強の一尺ほど前で止まる。その隙に他の者を下がらせる傀偽。

 佐木は、その現象に何か気づいたようだが、それ以上に鬼との正面衝突に引くことを提案する。


 「気づいたか、これが俺の、妖術。咎の重距離(とがのじゅうきょり)、水場との相性が良くてな三途の川でよく使うんだが、まあ目で見る距離を操るんだ。それはともかくとして鬼だろうとなんだろと、死は平等だ殺してみせるさ」

 「くっ、はは、やってみろ!」

 「伯父貴!いい加減止まれ!」

 「…ちっ、しゃぁない千代(ちよ)が言うなら辞めてやる」

 「やっぱつながりあったか」

 「取り敢えずさっきの部屋に集まれ、俺は備品の確認をする」

 「わかった」


 死強の妖術が鬼の意欲を削ぐだけでもなく、余計に殺る気にさせる。それでも千代の言葉に止まりはする。

 宿の被害はのれんが破けただけで終わった。それでもいったんは封鎖することにして。父親にその旨を報告、その後、部屋に戻ることになる。






 「戻ったか」

 「ああ、のれんを修復だけだから罰金はなし。ただし説明はしてもらうぞ」


 鬼の二人に視線が集まる。


 「ん?なに、強者を見たら戦いたくなるのが鬼の性だ。悪いか?」

 「人の世ではダメなんだよ」

 「しかし、鬼にしては霊気が少ないな」

 「千代は鬼の血を引いただけの存在だからな、俺とは十一ほど離れてる」

 「やっぱりか」


 十一、これは世代のことだ。そこに死強の尋問が開始される。


 「ちょうどいい、」

 「なんだ」

 「お前らに聞きたいことがある目的はなんだ」

 「なに、旧友に会いに来ただけだ。後は、この島にいる不死に合うためだな」

 「ほう」

 「千代が見たんだ、噂だけじゃないことは確実だ、」


 空気が一瞬で重くなる。鬼は正直だ、嘘ではないこと確実だ、それでも不死を探すものには今一度線引きをしなければならない為に、尋問というふるいにかける。


 「ふ〜ん、それで、会ってどうすんだ?」

 「なに、戦うためだよ、不死と呼ばれるんださぞ強い豪傑に違いない。それにこの島には多くの、伝説がある。その伝説に俺の名を刻みたいわけだ」

 「……そうか、悪いが…」


 歯切れの悪い死強の回答、そしてつたえられる判明している不死人。


 「はっ?お前らが不死ぃ、」

 「悪いな期待に添えなくて」

 「ご、ごめんなさい…」

 「いや、なるほど、どうりで耐えられるわけだ。まぁ今後は戦わんよ、少しは楽しめたしな」

 「それならいいんだが」


 鬼とは戦いたくはないという考えが、分かりやすい傀偽と、圧に負けて謝るアズミー。命無限で再生できても。殺すまでに何百と死ななければならないのだから当たり前だ。


 「おい、まだ質問は終わってねえぞ、それだけじゃお前らが敵か味方かの判断はしかねるからな。さっき倒した常闇の怪異のように、傀偽とアズミーに危害を加えないともわからない。その都度、鎌を振るうのも面倒だ。ここで立場をはっきりさせるために、素直に答えてもらうぞ、特にそこの二人」


 先ほどの鬼羅に向けられたものより、数段重い殺気が、風菜と佐木に向けられる。

 死に慣れない二人は、あまりの圧に萎縮して黙ってしまう。他にも直接ではないがなれていない者は息が詰まるような状態だ。


 「その質問に、答えなければ?」

 「全自動で敵とみなして、ぶっ殺す」

 「理不尽、ですね」

 「だったら答えればいいだけだ。お前らに、島に不死がいると噂を流したのは誰だ、そいつは二人の不死について何か知っているはずだ。隠すようなら容赦はしな…」

 「死強…」


 流石にまずいと思ったのか傀偽が前に出る。


 「なんだ、庇うのか?片や、狂った愛の末に、人をくおうとした人魚。片や、お前を不死身と知りながら、まだ共にいる、怪しい天狗娘。片や、強者に会えば、戦を始める、戦闘狂の鬼だぞ。なぜ庇う」

 「失敬な私が怪しいと言うんですか」

 「そう言ってんだよ」

 「確かに怪しいな、でもこの二人はいい人だよ、それに弱い部類だ、それに鬼羅さんはもう戦わないと言った、鬼はその言葉を違えない」

 「お前なぁ、今の自分の立場をわかってるのか?」


 さらに増える、圧、それでも傀偽は引かない。立場をはっきり分かっていないと叱責する死強の言葉に付け足すように風菜が話す。


 「傀偽さん、あなたの不死身の身体は、【怪異】にとって食せば無限に回復と強化ができるチートアイテムです」

 「すごいんだなこの体」

 「馬鹿が、喰われれば、永遠に消化と再生を繰り返す」

 「そうね、噂を聞いた怪異は、皆あなたたち二人を狙う『信じてくれるのは嬉しいけどね』」

 「俺みたいなもの好きはそういない。気おつけることだな」


 佐木と鬼羅の忠告を聞いてもまだ動かない。それは昼の子どもをみたからだと、吐露する傀偽。


 「それでも、話し合う余地があるなら俺は…」

 「…わかってるっつの、ちょっとした演技だ、脅せば色々履くと思ったんだかな」

 「演技にしてはやりすぎだ。鬼羅さんの、気分が高揚してるし何より慣れていない人のほうが多いんだぞ」


 話し合いとは別に止めた理由、それは殺気に慣れない、エスエル家を気遣ってだ。息が詰まって呼吸ができてなく、深呼吸を繰り返している。


 「わかったよ、それで誰なんだよ」

 「ちょっと言いにくいんだけど〜」

 「なんでだよ」

 「いや、誰にきいたか覚えてないです」

 「……」

 「ぐわァァァァ!!折れる折れる、腕折れちゃいますよ」


 歯切れの悪い風奈の言葉、そこで、嘘かを見極めるために関節技を決める死強。


 「嘘は、よくないよ、嘘は」

 「嘘じゃない、頼む信じてくれ!娘が待ってるんだ」

 「余裕そうだな、少し強めるか」

 「あア゙ァァァァ」

 「ちょちょちょ、ちょっと待って!わ、私は覚えてるから」


 死強が躊躇なく関節技を決めたことに恐怖したのか、佐木は慌てて口を開く。


 「聞かせろ」

 「その前にどいてくれま、ああああああああ」

 「この噂は、知り合いの怪異が話していたわヤマビコ、名を音彦(おとひこ)彼もいずれここに来ると言っていたわ」

 「風奈もそいつから聞いたとか?」

 「…ありそうだな、あいつら声でかいし」


 ヤマビコ、山や谷で大きな声を発した際に遅れて反響が聞こえる現象。また、それを起こすと考えられた山の神あるいは妖異。声がでかいのは、まあ響くからだろう、しかし大きいのか。


 「そうだったかも?」

 「取材元くらいメモしておけ」

 「不覚です」

 「で、そっちは?」


 漫才のような、それでも重い話が、鬼羅にも向けられる。 


 「ふむ、もともと千代がここにいくと言って、ついでに旧友に合いにいこうと決めたんだが、そこで千代が不死らしきものに会っただけだからな」

 「あれ、てことは」

 「はい、不死の目撃情報の一人目は千代さんですね」

 「そうか、」

 「まぁ、俺は目的を達成できたから一足先に帰らせてもらう、佐木だったか、海に運ぼうか?」

 「あら、いいの?」

 「ああ」

 「それじゃあね、とびきりの恋バナを用意しとくわ」

 「食レポの間違いだろ」


 今宵新たな縁が、結ばれた。ヤマビコ、彼を待ちそれまでに情報を集めなければと。

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