第98話 山登り2
そして、バスはついに目的地へと到着した。
涼しい気候だ。先程までは陽が照っていたのだが、幸いにも雲が太陽の光を隠してくれている。
おかげでほんの少しひんやりとした機構になっている。
そして少し歩くと、ハイキングコースの分岐点に来た。
『右、2450メートル先ダム』
『真ん中、6000メートル先頂上』
『左、3400メートル先、果樹園』
と、書いてあった。
全部それなりに歩く。往復一時間以上は確実にかかるらしい。
「どこがいい?」
僕は鈴美に問う。
鈴美はうーんと、考え込んだ。
「そうね、じゃあこっち!!」
鈴美が言った先は、頂上コース。つまり一番歩く道だった。
「え?」
僕は鈴美を見る。片道一時間のハードな道のりだ。まさか鈴美がそこを提案するとは思っていなかった。
「せっかくなら一番しんどい道を行こうよ」
そう、笑顔で言う鈴美。
「鈴美もそこまで体力はないんじゃなかったっけ」
僕と同程度の体力しかないはずだ。
「えへへ、それなら大丈夫。何とかするから」
「何とかするって言われても」
「それに、私が疲れたら、陽太君が助けてくれるでしょ」
「どういう事?」
「おんぶしてくれるでしょ」
甘えた声で言う鈴美。
っまあ、
「鈴美が本当に倒れそうになった時は僕が何とかするけど」
「ほんと? やったー」
現金だな、なんて思った。
蹴れど鈴美のその笑顔がまぶしくて、
別にいいやと思った。
そして僕たちは自動販売機で水だけ買って、すぐに歩いていく。
しかし、やはり案の定、山はかなりの角度がある。
これは歩くのになかなか骨が折れそうだ、と思った。果たして僕たちは無事にこの山を下りられるだろうか。
しかし、鈴美と一緒に二人で手をつなぎながら登る山道も素晴らしい事にはなんら変わりがない。僕たちは山の景色を見ながら、二人ただ無言で登って行っている。
ただ、それも長くは続かなかった。
「はあはあ、少し休ませて」
そう、鈴美が言ったのだ。
ニ十分ほど歩いた先、ベンチの近くでだ。
「大丈夫?」
僕が訊くと、「うん」と小さな声が返ってきた。
「まだもう少し大丈夫かな、でも、休憩できなくなるからさ」
「なるほど」
確かにここを過ぎると休憩スポットは暫くなくなるだろう。
勿論、ベンチじゃなくても休める事は出来る。しかし、岩の上や地べたに座って休みたいかと言われればそれは否定せざるを得ない。
休めるならば、ベンチに座るのが一番いいのだ。
という訳で一度目の休息をベンチで撮る事となった。
「はあ、水が美味しい」
鈴美は総言って安堵の息を漏らす。
鈴美も大分疲れていたんだな、と思い僕は鈴美の手を外し、鈴美の頭を優しく撫でた。
ありがとうと、鈴美は口にして、
そして、
鈴美は僕の方に肩を寄せた。
「デートみたいだね」
鈴美がそう言うと、僕は「ああ」と頷いた。
「デートだな」
これはまさしくデートだ。好き同士、恋人同士のお出かけなんだから。
「なんかさ、ずっとこうしてるのもいいよね」
「まだ山登りは始まったばかりじゃん」
「えー、そうかな」
そして、悪戯な笑みを浮かべ、
「細かい事はいいじゃん」と言って笑う。
そして、休憩もそこそこに僕たちはまた山の方へと歩みを進めていく。
「今度は疲れすぎないようにしなくちゃね」
鈴美はそう言って、ペットボトルの水を飲んでいく。
そしてまたどんどんと上がっていく。途中で休憩することもまた合ったが、その時間もまた、愛おしい物だった。
そしてついに、僕たちは一時間登り終えた。
そこにあったのは、頂上の景色た。
「きれいだね」
鈴美は僕の顔を見て言った。
鈴美の手は簿奥の手と繋がれている。
眼下を見れば、ビル街がまるでごみのように見えている。
奇麗な景色だ。
それと同様に、夜に着たらもっときれいだったのかな、なんて思ってしまう。
鈴美と夜に二人きりで見たあの夜景も素晴らしい物だったのだから。
「ここが来たかった場所?」
「…………いや、」僕は首を振る。そして、「そうだけど……違うよ」と言った。
「どうして?」
「鈴美と二人で歩きたかったんだ。今日山登りをしながら鈴美と二人で話す時間が一番楽しかったんだ」
この景色も素晴らしい物だと思う。だけど、それ以上に、
鈴美と一緒に山に登る時間が楽しい物だった。
「今日は一緒に山に登ってくれてありがとう」
そう、僕が告げると、
「どういたしまして」
と言って鈴美もまた笑顔になる。
その後、僕たちは暫く山の景色を眺め、そして帰路につく。
――しかし、その帰路が大変なものとなってしまう事を僕たちはまだ知らなかった。




