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壮大な嘘告白をされ人間不信になった僕、後ろの席の女の子が付きまとってくるようになる  作者: 有原優


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第93話 仲直り(?)


 私は陽太君の姿を視線に捕らえた。

 辛そうな顔をしていた。

 きっと自己嫌悪に包まれているのだろう。

 そんな陽太君を見て、わたしは哀れに思った。

 陽太君は優しいから、自分自身の事が分からなくなったのだ。



 私は陽太君が乗っているブランコ。

 こっそりと陽太君の背中に向かっていった。

 そして、その背中を一思いに押してあげた。

 その衝撃で、陽太君ののるブランコが一気に押されていった。


「え? は?」


 陽太君は分かりやすく驚いている。


 そこで私の中に少しの悪戯心が芽生え始めた。

 そして、休ませる暇なくどんどんと押していく。

 陽太君の足が地面につかない様に。


「分かったから」陽太君は小さな声で言う。



「分かったから」



 陽太君は叫んだ。


「分かったからやめてください」



 最後に今までで一番大きな声で。


 そうまで言われてしまっては仕方がない。

 わたしは陽太君を空中から解放させてあげた。


「死ぬかと思った……」


 陽太君はその場でハアハアと肩で息をする。

 ほんとうに怖かったらしい。

 こんなに絶叫マシンに弱かったっけ。


「私の悪戯」

「悪戯はほどほどにしてほしい」


 そういう陽太君の隣に座る。

 ブランコのだ。


「大丈夫、今度は押さないから」

「本当だよね」

「うん」


 私は頷いた。


 そして、陽太君はブランコの鎖を力強く握っていく。


「そんなに怖かったの?」

「勿論」

「ごめんね」


 私は手を合わせて謝った。



 今、芹原はどうしているの。


 そう、陽君は訊いてきた。

 その言葉にはどう返そうか、迷ってしまう。

 変に陽君の罪悪感を刺激してしまう。

 私としては罪悪感を覚える内容ではないと思うけど。


「陽太君はさ、言えなかったんだよね」


 私はそう告げた。


「声は聞こえてたから、軽くは分かるんだ。陽太君はいざ言った時、芹原さんが、……記憶を喪失している芹原さんが悲しむ顔を見て、何も言えなかったんでしょ」


 だからこそ、罪悪感を覚えているのではないかという事だ。


「わたしは悪いとは思わないよ。むしろ陽太君の立場だったら優しい方だよ」


 陽太君は被害者なのだ。

 わたしも芹原さんに嫌な事はされている。だけど、それは陽太君に比べたら軽すぎる。

 陽太君は、芹原さんに裏切られているのだから。


「でも」

「分かるよ。陽太君は、優しい」


 そう言ってわたしは陽太君の頭を撫でる。頭を撫でる行為が正解なのかは分からないけれど、でも彼女として普通の行動だよね。



「だからさ、陽太君の気持ちを聞かせて欲しい」


 わたし自身言葉がまとまっていない。

 だから、言葉を紡ぐのが難しい。

 頭の中で思ったことをそのまま口に出している状態だ。

 果たしてこの言葉選びが正解なのかは全く分からないけれど、でもこれで許してもらえるのなら、それは嬉しい限りだ。


「僕は」陽太君は小さく声を発する。


「僕は!!」


 そして、さらに大きな声で。


「僕は、恨み切れないんだ」


 恨み切れない。


「どうして?」

「言葉にするのは難しいんだけど」

「ゆっくりでいいよ」


 私も言葉がまとまってないのに、先ほどまで一人俯いていた陽太君に答えがはっきりと見つかっているとは思えない。

 性急に話させて、言葉がまとまっていない状態で話させて、それで陽太君の気持ちは伝わらないと思うから。


「陽太君、私は陽太君の気持ちが知りたいんだ」

「鈴美、そうだな。うん」


 その言葉には何が詰まっているのだろうか。



 ★



 鈴美は僕に対して、優しくふるまおうとしている。そのこと自体は嬉しい。だけど、負と思うのだ。

 もしかして、鈴美は僕に気を使っているのではないだろうか。

 気を遣う。そう、僕と芹原の関係を何とかするために、心を殺して解決に動いているのではないだろうか。

 そんな事を考えると、鈴美に少しだけ申し訳のない気持ちが芽生えて来る。


 僕は鈴美に気づかれないように小さく首を振った。

 違う。今僕がしなければならないことは、気持ちを整理して、鈴美に僕の今の感情を伝える事だ。

 それこそがこの状況で、芹原に対抗する術になるのだから。

 そう思ったら、僕の口からは、いつの間にか自然に言葉が出てくるようになった、


「僕は、彼女の事が不思議なことに憎くないんだ。なんでだろう、記憶を失っているからか、本当にあの邪悪な芹原だとは思えなかったんだ。だから、僕は感情に任せて言い放ったんだよ。でも、その後に残ったのはただの罪悪感の塊で、僕はとんでもない事をしてしまったんだなって、その時に理解しちゃったんだ。僕は分け分からない感情の渦で傷つけてしまっているって。そう思ったら僕は僕の心は訳が分からなくなったんだ」


 ほんとうに訳が分からない。

 僕はどうしたらよかったのか。その答えはどこにも転がってなどいない。


「でも、悪魔が目に浮かんできて、顔を直視も出来ないんだ。だけどそれが今の彼女に申し訳なくて」

「分かってる」


 鈴美はまた、僕の頭を撫でた。


「大丈夫だよ。一緒に克服していこう」


 そう言って笑った。





 僕は家に戻った後、芹原にその胸を伝えた。

 今度は、僕の気持ちをしっかりと整理したうえで。

 すると、一瞬悲しそうな顔を見せた後、にっこりと笑って見せた。


「大丈夫」


 と言って。


 大丈夫そうには見えなかった。


 だけど、本来吐き出したい気持ちを必死に抑え込もうとしているように見えた。


「私は陽君の気持ちを大事にするから。私の事が大丈夫になったらまた、友達になってくれませんか」


 その言葉には以前のように、僕を無理やり自分の物に使用、なんていう感じは見えなかった。

 それを見て、「うん」と僕は頷いた。

 僕はすっかりと丸くなったものだ。僕は芹原を否定しよとしていたのに、なぜか友達になる約束、までしてしまった。


 変だな、なんて思いつつ、僕はまあいいやなんて思った。


 芹原が復活しないで、芹原に対するトラウマを払拭する事が出来れば、僕は幸せになれるはずなのだから。


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