第90話 将来
そして家に帰って、僕はゆっくりと眠りについた。
そして家に帰って寝たが、今度は安眠することが出来る訳もなく、bkmhkエばっちりと目が覚めてしまった。おかげであまり眠ることができない。
ああ、くそ、悪夢さえ見なかったら、安眠できたのに。
だのに、
ああ、芹原は今ぐっすりと眠っているんだろうな。そんな事を考えたら胸糞が悪い。
まだいまは夕飯前、深夜ではないのだ。
疲れているけれど、これ以上眠る必要はない。
そう、僕は判断をし、リビングへと向かった。
リビングで僕はテレビをつけた。
テレビをつけると、アニメが流れていた。
ああ、これはいいや。
僕はゆったりとゆったりと見ていく。
正直そこまで好きなアニメではない。
だけど、なんとなくほっとする。
現実を離れられている気がするのだ。
現実は所詮くだらない物だ。
いや、其れを言ってしまえば、鈴美の存在を否定することになってしまう。
アニメを見ていると、姉ちゃんが返ってきた。
僕はそれに「おかえり」と言った。
姉ちゃんは先程とは違い、スーツ姿になっている。
姉ちゃんのスーツ姿は普段はあまり見ない。いったいどうしたのだろうか。
そう、疑問に思っていると、
「今日就活イベントに行ってきたの」
そう、姉ちゃんが言った。
「就活」
「そう、就活。未来のこと考えなくちゃね」
「なるほど」
確かに前も行っていたな。
そうか、就活かあ。
僕もそろそろ就活の事を考えなければならないのかな、なんて思う。
だめだ。これ以上、考えなければならないことを増やさないで欲しい。
いや、姉ちゃんは悪くない。
何故か考えなければならないことを増やしている僕が悪い。
割り切ろう。今は就活の事だけを考えたらいいんだ。
「僕は将来どうするべきなのかな」
そう、姉ちゃんに訊く。
姉ちゃんは数刻待って、
「将来の事?」
そう、訊き返した。
その言葉に僕は頷く。
「就活のことねえ」
「うん」
「私は大学に行ったらいいと思うよ」
姉ちゃんはそう言うと思っていた。
「私だって大学に行ったし、それに大学って楽しいから」
「楽しい?」
「そう、自由に学べるから、学校と娯楽の両立をしてくれている感じ。部活も自由だしね」
「なるほど」
そうは言われても、そうすんなりじゃあ大学に以降なんて思えないのが僕だ。
まあでも、どんな場所でも、鈴美と一緒なら楽しそうではあるけれど。
「あ、お金の事なら心配しないで、その頃には私も働けるようになるから」
「今も働いでるじゃん」
「それよりももっとだよ。だって、毎日8時間働けるからね」
笑顔で姉ちゃんが言った。その言葉に僕はふうんと返す。
「でも、姉ちゃんのために使ってよ。姉ちゃんも我慢してきたんでしょ」
「確かにね。そこは私も考えておく」
「うん」
そして、姉ちゃんがテレビに見やる。
今僕が見ているのは、どちらかというと、小学生向けのアニメだ。
我儘な小学生のために、友達が道具を使って解決してくれる、みたいなストーリーだ。
高校生になっても、そのくだらない雰囲気に心がほどこされる。
楽しい気分にさせてくれる。
そんな感覚を覚えるのだ。
「何見てんの」
そしてそう言い放った。
その瞬間、僕はドキッとしたこれはまずいと。
僕はそう判断し、無言でリモコンを手に取ろうとする。
「見たらだめとは言ってないわ」
「ガキっぽいでしょ」
何しろ、僕はもう高校生なのだ。
そんな僕が今更こんなアニメを見ているとなると、姉ちゃんに馬鹿にされるかもしれない。
それはだめだ。
「駄目よ」
そう、リモコンを奪い取られた。
「なんで?」
僕がそう訊くと。
「懐かしいもの」
「懐かしい?」
「ええ」
姉ちゃんはそう言って、
「逆にわたしにとって懐かしくないとでも思った?」
なんて意地悪なことを言ってくる。
その言葉に僕は数秒ためらいをみせると、
「虐めすぎたわね」
と言って台所まで歩いていく。
そんな姉ちゃんを見て、
「僕も手伝うよ」
そう言った。
「珍しいわね」
「僕だって姉ちゃんに甘えてばかりじゃいけないから」
本心だ。
姉ちゃんに家事を任せてしまっていた側面もある。
だからこそ僕も頑張らなくてはならないのではないかと思う。
姉ちゃんに頑張らせ続けていた分、僕も頑張らないと。
「じゃあ、野菜切ってくれる?」
「うん」
僕は頷いた。
そして僕は慣れない包丁作業で指を軽く切った。
指が軽くいたい。
血はすぐに止まったけれど、僕の指には絆創膏が貼られた。
絆創膏を貼るのは久しぶりで、懐かしい気持ちになったが、
その時は芹原や相原に虐められていた時だったと、思い出し、慌てて首を振った。
嫌な記憶を掘り起こすんじゃないよ、僕。
そして、部屋に戻った後、僕は鈴美に連絡をした。
勿論、今日の件についてだ。
メールで今日の出来事を鈴美に伝えると、
直ぐに電話がかかってきた。
文面だけでは分かりづらいからだろう。
僕は心の中で静かにうなずき、電話に出た。
『あ、つながった』
「うん」
僕は頷く。
『芹原の事だよね』
僕は頷いた。
「脱走してきたんだ」
『病院からだよね』
「うん」
『どうしよう』
「どうしよう」
僕がそれを言ってはダメな気がする。でも、
『陽太君は』
「勿論嫌だよ」
僕がそう言うと、
『やっぱりそうだよね』
そう鈴美は笑う。
顔は見えないけれど、声が笑っていたのだ。
「鈴美」
僕は言う。
「鈴美、僕は――」
その言葉に鈴美は黙って、分かった。と言った。
そして、三日後、芹原が退院した。




