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壮大な嘘告白をされ人間不信になった僕、後ろの席の女の子が付きまとってくるようになる  作者: 有原優
第六章 芹原の変化

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第87話 芹原の変化

 その次の日、僕は目が覚め、アカウントを見る。

 アカウントには新たな通知などという物はなかった。

 そのことに、がっくりとしつつ、一件のメールが来ていることに気が付いた。


『芹原恵奈さんが目を覚ましました』という内容だった。

 僕はそれを見て、慌てて体を起こす。

 あいつが目を覚ました?


 罪悪感を忘れられてうれしい反面、逆に芹原の恐怖にまだおびえないといけないかもしれないという恐怖を覚えた。

 鈴美は今日は僕の家に泊まっていない。自分の家に帰ったのだ。


 だから今は隣には誰もいない。

 僕は布団にもぐる。


 まずは気持ちの整理がしたい。

 後の事は後で考えて、と行きたいところだ。

 今回、我儘を言いたい。

 そう、芹原の所に行かない我儘だ。


 今日は鈴美と二人きりで静かに過ごしたいところだ、


 僕はすぐに鈴美の家に向かった。

 起きてすぐだ。

 それこそ、朝ごはんも食べずにだ。


「鈴美、おはよう」


 先程メールして返事が来たから、起きてないわけがない。


 インターフォン越しに話しかけると、


「おはよう」


 と、少し眠たそうに鈴美が言った。

 彼女の声を聴くと、少しだけほっとする自分がいる。


「今開けるね」


 と言った鈴美によってすぐにドアは開かれた。


「鈴美おはよう」


 僕が言うと、


「うん、おはよう」


 と返された。


 お土産として近くのコンビニで買ったカフェラテを置いて、

 僕たちは机に向かいあい、座る。


「今日来た理由って、あれだよね」


 そう、鈴美が言うので、僕は静かにうなずいた。


「まあ、それだけではないんだけど」

「どういう事?」

「まあ、それは置いといて」

「うん」


 鈴美が頷く。

 そんな彼女に僕は一言。


「寂しかった」

「え?」


 僕の言葉に、鈴美が驚いたかのように目を丸くした。


「鈴美がいない夜は寂しいんだ。夜は二人で過ごしたいんだよ」

「もう」


 なんていう鈴美。だけど、その表情は少し楽しそうなものだった。


 実際昨日は寝つきが悪かった。

 鈴美と一緒じゃない夜は久しぶりで、


 勿論病院では別だったけれど、それを除けばいつも一緒に寝ていたのだ。


 だから、人肌が恋しかった。勿論鈴美限定だ。


「それで、芹原さんのもとに行くの?」


 僕は首を振る。


「今日は二人きりで過ごそうよ。芹原の事は忘れて」

「どれだけ、芹原さんの事を忘れたいの?」

「別にいいでしょ」


 そう、僕は言う。


「僕には鈴美しかいないんだから」


 僕の言葉に鈴美は静かにうなずいた。


 多分僕は、あの事件以来、鈴美に対する愛情が増えて行っている。

 なぜだろうと、考えればその理由はすぐに分かる。


 一瞬芹原の寝顔に惹かれかけた罪悪感。

 そして、鈴美を不安にさせたという罪悪感。


 そして、昨日の鈴美の笑顔。

 そして、鈴美は命を賭して僕を助けに来てくれた。

 理由なんていくつでも思いつく。

 そう、理由は沢山あるのだ。

 そう、僕が今、現時点で思いついていない理由だって。


 だからこそ、鈴美と一緒に居たい。


「そう言えば、SNS」


 鈴美が言う。


「一件DMが来てたよ?」

「え?」


 僕は身を乗り出す。


「冷やかしだったけど」

「なんだ」

「何だって何よ。いなくてよかったの」

「そうじゃないけど」

「ふふ、冗談」


 そう言って笑う鈴美。


 その時だ。

 もう一件メールが来た。

 僕はそれをゆっくりと開いていく。

 そのメールに書かれていたのは。


 要約すると、『芹原の様子が変』といういう物だ。

 それを見てしまえば気になってしまうのは当然の事。


『それは僕も行った方がいい感じですか』


 僕はそう返事をした。


 そしてまた返事が返ってくる。


「鈴美、ちょっといい?」



 と訊いた。




 ★


 僕たちは病院に向かう。


「様子が変ってどういう意味なんだろう」


 僕が鈴美に訊くと、鈴美は小さく首を振り、


「分からない」と答えた。

 そうだよな、分からないよな。


 なんて思いながら、僕たちは病院へと向かっていく。

 病院につくと、そこには姉ちゃんがいた。

 僕が姉ちゃんを真っ直ぐに見ていると、


「病室に入る?」と訊いてきた。



「行くよ」


 隣に立つ鈴美が力強く言うのに対し、僕も頷いた。


 そして僕たちはその扉を開ける。


 そして――


 そこにいたのは、芹原だ。姿を見るのは実に昨日ぶりだが。なんとなく緊張している僕がいる。

 その顔持ちは何となく以前とは異なる感じがする何というか、小さな違和感がぬぐえない。


「あなたが、私の運命のお方ですよね」

「は?」

「あなたが私の運命のお方だと伺ったのですが」


 僕は驚いた。

 彼女は記憶喪失に陥っていたのだ。


「あのこれは一体」

「君のことを運命の相手と思っているそうなんだ」

「はあ」


 そんな事を言われても、どういう目で見ればいいのだろうか。


 僕が固まっていると、鈴美が動き出した。


「あの、これって、」

「見たまま。性格が変化しているのよ」

「変化しているなんて言われましても」


 どうしたらいいんだという話だ。


 僕はこれをどうしたらいいんだ。

 それが分からない今、どうしたらいいのかが分からない。


「だから、」


 重々しい顔で姉ちゃんとお医者さんが言う。


 馬鹿な、そんなことないよね。


「君がいなきゃ泣くんだ」

「無く」

「はい」主治医らしいおじさんが言う。「たぶんこの子は君がいなくちゃ自殺を図るでしょう。それほど精神が不安定です」

「はあ」


 芹原が、本当のメンヘラになった?


 ええ、こんなことってある?


 想像しうる中での最悪を大分塗り替えている。


 結構きつい。場合によっては、鈴美を裏切らなければならなくなってしまう。


 勿論、僕にとって鈴美が一番大事なのは言うまでもないけれど。


 僕の意志とは関係ない場所で鈴美を裏切ることになるかもしれない。


 無邪気が一番きついのだ。悪意を持たない少女が悪意のある行動を起こす。

 それが一番つらい。


 どちらにしても、芹原に好かれたくはないのに。



 ただでさえ、顔を見ていると、トラウマが浮かび上がる。

 顔つきが多少違うからましだけど、


 芹原には散々痛めつけられたのだ。



「何とか出来ないんですか」


 僕は叫んだ。


「何とか」


 僕がそう言うと、芹原が、「なんで……」なんていってぐすぐすし始めた。


 ああ、そうか。僕がこいつを否定したら、大変なことになってしまうのか。



「陽太君」



 鈴美が僕の顔を見る。



「今日は帰っていいですか」



 そう、皆に僕は告げた。




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