第86話 提案
「どういう事?」
そう、僕は訊き返した。
「最近の陽太君の様子を見てたら嫌でも分かるよ。陽太君さ、病室で本当は何を思ったの?」
「何をって?」
「うん。何をだよ」
何を思ったか。
それを言葉にするのは恐らくそこまで難しくはない。
だけど、それを言っていいのか、と疑問に思う。
「芹原さんに見とれていたでしょ」
完敗だ。すっかりとばれてしまっている。
「私は全部わかってるよ。陽太君が不覚にも芹原さんに見とれてしまって、それを自分で恥じているってこと」
「っ、ごめん」
「大丈夫。私は気にしてないから」
気にしていない。
そんな訳がない。
なら、なぜそんなに悲しそうなんだ。
「だから気にしているんだよ」
「それも分かってるよ。分かってるからこそ、陽太君は新たな手を打とうとしているんでしょ」
「うん」
「私思うんだよね。確かにきれいな顔だった。でも、だからと言って陽太君が惹かれるかどうかは、別問題だよね」
「うん」
「だからさ、わたしと無理に距離を縮めようとしないでさ、いつも通りいようよ。それが一番楽しいし」
「うん」
なぜ、鈴美はこんなに優しいのだろうか。
だけど、それにほっとする。
鈴美が、そう言っている。
それだけで僕は安心するのだから。
「ありがとう」
僕は静かにそう感謝を告げた。
「だけどさ」
「だけど?」
「彼女きれいすぎない? あんなのだっけ」
確かにそうだ。今の彼女は前までよりもきれいだ。
それがどうしてなのかは分からない。
が、それはそこまで気にする日つよはないのだろう。
「まあ、それは置いといてさ、こんどは私から提案」
「鈴美から?」
「うん」
鈴美はそう、静かにうなずき。
「私と陽太君の一番の共通点って何か知ってる?」
「なに?」
「私たちの共通点はね、いじめられたってこと」
「ああ、確かに」
たしかにそれは、僕たちの共通点だ。
「だからさ一緒にさ、したいことがあるの」
「したいこと」
「うん」
鈴美は総言って、
「わたしたちで一緒にさ、苦しんでいる人を救わない?」
「ああ、なるほど」
意味がすぐに分かった。
「分かった」
僕はすぐにうなずいた。
「鈴美がしたいならいいよ」
「そうじゃない」
鈴美は唇を尖らせる。
僕は、「は?」と軽く目を見開く。
「そうじゃないよ。陽太君もやりたいことじゃないと意味ないよ」
「やりたいよ」
僕は言った。
「やりたいに決まってるじゃん」
確かになのだ。
たしかにそれが僕のやりたいことなのかもしれない。
鈴美と一緒に社会問題に斬り込んでいく。
うん、楽しそうだ。
「じゃあ、今度からやろうよ」
その言葉に僕は頷いた。
その次の日から、僕たちは活動を開始し始める。
その最中鈴美は楽しくなっているようで、
笑顔だった。
確かにこれは鈴美のしたい事なのかもしれない。
鈴美は人の悲しい顔を見るのが嫌いなのだ。
鈴美は優しい子だ。だからこそ、悲しむ人を見たくはないのだろう。
それが自分の目の見えないところでも。
対する僕はそんな鈴美を見て、楽しい気分を感じていた。
僕は鈴美が笑っている顔を見るのが好きなのだ。
僕は鈴美が笑ってくれていたら後はどうでもよくなる。
そして、もう一つだけ気が付いたことがある。
僕は鈴美の笑顔が好きなのだ。
鈴美が笑っていてくれている事。それこそが僕を幸せにさせるのだ。
「鈴美」
僕は小さな声で言った。
「なに?」
「詳しい話を聞いてなかった気がするけどさ、どこまで救いたいの?」
「相談者全員だよ。美咲さんも協力してくれるって言ってるから、大丈夫だと思う」
「そうか」
そう、僕は言った。
「がんばらないとね」
「うん」
そして二人で黙々と、作業を繰り返していく。
多分、僕たちがしようとしていることは、それなりに難しい事なのだろう。
それは、分かっている。
だって、そんな簡単に行くのなら、既に先生たちがやってくれているだろう。
事はそこまで簡単ではないのだ。
だけど、そんな夢みたいなことが出来たらいいな、なんて思っている。
そして、僕たちは色々と作業をし終えた。
「これでいいのかな」
鈴美はそう言ってスマホを開く。
そこには一応のホームページとSNSアカウントだ。
「でも、上手く行くのかな」
「それは分からないよ」
僕は自分のスマホの電源を入れる。
「でも、大丈夫だと思う」
そして、僕自身のスマホのアカウントでフォローした。
「身近に救える人を救えたらいいじゃん。そんな広い範囲じゃなくても、誰か困ってる人が見て、助けを求めて、それを僕たちが助けたら」
「そうだね」
鈴美はそう言って笑う。
「大丈夫だよね」
僕の言葉に説得力が足りなかったのだろうか、鈴美は震える声で言った。
「今度は鈴美が不安になってるじゃん」
「確かに、でも不安なんだもん」
「大丈夫だよ」
僕は鈴美の頭を優しく撫でた。
「僕たちなら大丈夫だ」
そう笑顔で言うと、祈里も頷いた。




