第85話 趣味
僕が扉を開けると、そこには芹原の姿だ。
彼女の体には様々な器具――生命維持装置だろうか――がつけられている。
入る前に受けた説明によると、彼女は軽く酸欠に襲われているらしい。
血が流れ過ぎたことと関係し、血の巡りが悪くなり、酸素が足りなくなったらしい。
僕にはそこまで詳しい知識などないからあまり良くは分からない。
だけど、
大変な事なのは分かっている。
治っても、後遺症無しで行けるのかどうかは分からないのだそうだ。
そんな芹原を見て、僕は奇麗だなと思った。
勿論これは浮気感情などではない。
だけど、僕は思うのだ。
性格がブスな芹原だけど、
寝ていればこんなにきれいに感じるのだと。
僕は、一生芹原に眠っていて欲しいとさえ思う。
そしたら、芹原の負の側面には触れないだろう。
「鈴美」
「どうしたの?」
「帰ろう」
僕は言った。
「少ししんどい」
と。
しんどい。その言葉は嘘になるかもしれない。
何しろ、しんどい訳ではなく、その芹原の寝顔に軽く惹かれてしまったから。
そうだ、忘れていた。芹原は美人なのだ。
だからと言って、惹かれていいはずがない。
僕は。
そして、僕は病院の待合席に座った。鈴美の隣だ。
だけど、僕は、
しんどい。
「陽太君」
しんどい。感情が分からない。
「陽太君!!」
その言葉に、僕の精神は現実に連れ戻された。
「鈴美」
僕は鈴美を見る。
「大丈夫?」
そう言ってにっこりと笑う鈴美を見て、僕は。
「ごめん」とだけ、一言だけを告げた。
「あのまま病室にいてはだめな気がしたんだ。きっと僕が取り返しのつかないことになるって」
「トラウマの再発作?」
「そんな感じ」
僕はそう言った。
「僕にはないのかもしれない。芹原に立ち向かう勇気が」
「うん」
鈴美は僕を撫でるように言った。
僕はそれに対し、静かに頷いた。
そして、近くの喫茶店に行った。
僕は不安なのかもしれない、という事にその時に気が付いた。
何しろ、不安がないという事が不安なのだ。
自由は不自由。そんな言葉がある。
ないのかもしれないし、僕の造語なのかもしれない。
ただ、自由という環境にはそれ相応な困難がある。
選択肢が多すぎるという事だ。
僕は、それが嫌な訳ではない。
だけど、今のままでいいのかが分からなくなっているのだ。
「美味しいね」
鈴美のその言葉に「うん」と、僕は頷いた。
今の僕は鈴美目線どう映っているのだろう。
面倒くさい男に決まっている。
今の僕は、自分の思考すら定まっていないのだから。
だめだ。
だめだ。
僕は、自分の頬を強く叩く。
「大丈夫」
僕はそう自分に言い聞かせた。
何を困っていることがあるんだ。
僕はもう自由なんだ。
芹原や母さんに縛られる必要なんてどこにもないんだ。
それこそ、僕がドMでは無いのだから。
「そう、大丈夫だよ」
鈴美はそう言った。
「大丈夫なんだよ」
鈴美はまた、そう言って笑ったのだった。
「鈴美」
僕はそう一言告げる。
「一緒にやりたいことがあるんだ」
僕は言った。
僕と鈴美は思えばそこまで鈴美と趣味が合う訳ではなかった。
やっているゲームが同じでもなければ好きなアニメが一緒な訳でもない。
だけど、一緒に居る。そして話も合う。
それは素晴らしい事だけど、
でも、趣味が合っていないことが、今僕が不安な原因だとしたら、
僕は鈴美と共同の趣味を作らなければならないのかもしれない。
「鈴美、僕と一緒にゲームをしよう」
その言葉に鈴美は、「え?」と言った。
僕が訳を告げると、
「そう言う話?」
と、鈴美は驚いて見せる。
「私はそんな必要はないと思うけど」
「ごめんだけど、僕は必要だと感じているんだ」
鈴美との仲をもっと深めたい。
「分かった。陽太君がそう言うならそうなんだね」
鈴美は笑顔で言って、
「やろう」
と言った。
その足で僕たちはアップルストアを
開く。
そしていろいろと調べていく。
僕たちは見極めなければならない。
どのゲームが僕たちに会うか。
「鈴美はどういうゲームが好きなの?」
「どういう系って言われても、スマホゲームなんてほとんどしたことがないよ」
「そっか」
なら、そもそもの話か。
僕はネットで良く見るゲームを探す。
例えば、オンラインで4対4に別れてするチーム対抗バトル。
これは、レートという物があって、それを上げなければならない。
そのためにキャラをガチャで当てて強化するのだ。
例えば放置ゲーム。
放置ゲームは戦いは全て放置で済ませる。だから、究極的に言ったら、プレイングスキルは必要とがしない。
そして、時間もそこまで有しない、要するにタイムパフォーマンスがいいゲームだ。
例えばパズルゲーム。パズルによってキャラの火力を出す。
条件によってキャラの攻撃力が上がるのだ。
例えば、育成ゲーム。様々な練習をして、キャラのステータスを上げていく。
そのサポートキャラがガチャで当たる。
そのほかにもいろいろなゲームはある。
だけど、そのどれも、僕も鈴美もあまりピンとはこなかった。
僕はそれに対して、無力感を感じた。
そうだ、僕も元から携帯ゲームはそこまでやる人間ではなかった。
だからこそ、なのだけれど。
僕も鈴美にゲームの面白さを語れないし、僕自身もあまりはまらない。
「もういいじゃん」
鈴美が言った。
「陽太君の気持ちは分かったから」
そう言ってまたにっこりと笑った。




