表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
壮大な嘘告白をされ人間不信になった僕、後ろの席の女の子が付きまとってくるようになる  作者: 有原優


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

82/98

第82話 狂刃

 そこにいたのは、姉ちゃん。そう、姉ちゃんだった。

 なぜここにいるかは分からない。だけど、意味なら分かる。

 僕を助けに来てくれたのだ。


「美咲……さん?」

「助けに来たわ」


 姉ちゃんはそう言って笑う。


「アハハハハハハハハハ」


 紅葉ちゃんは狂ったように笑った。


「ボクを馬鹿にしているのかな、一人増えた所で――」

「もちろん私一人だったら何もできないわ」


 知っている。姉ちゃんはボクと同じで運動神経はそこまでない。

 紅葉ちゃんにかなうはずもない。

 それに芹原がもう追いついて来ているのだ。

 戦う事の出来ない鈴美に、姉ちゃんに僕。どう考えてもあの三人にかなうはずもない。


「でも」


 姉ちゃんはカバンから取り出す。

 電話だ。


「この電話で、状況は常に送信されてるの。警察の方に」

「はあ?」

「しかもついでに言うと、今までの状況も動画に撮ってる。つまり罪よ」

「つみって」

「いいえ」


 そう言って母さんがやってくる。


「罪ではないわあ」


 そう言って、母さんはナイフを取り出した。


「まさか」

「ええ、そのまさかよ」


 母さんはナイフを持って、鈴美の方にかけていく。


 鈴美の方。つまり僕の背中に向かってだ。


「本当に何を考えているんだ」

「何を考えているか、なんてどうでもいいの」

「どうでもよくはないよ」



 僕は叫ぶ。


「どうでもいいのよ。あなたの事もすべて」

「っ」

「思い通りにならないなら殺す。それが実の息子でも関係ないわ」

「っ」


 そう叫ぶ、お母さん。

 それを前に、僕の体は震えが止まらない。

 ああ、だめだ。逃げなければだめな事はわかっているのに。


 母さんの脅威。それを前にやはり、僕は。怯えている。


 逃げなければいけないのに、足がすくんでしまっている。


「あら、わたしから逃げられないのね」

「だめ、陽君を殺さないで」


 そう、芹原が叫ぶ。


 だけど、母さんはそれには知らんぷりだ。

 非常にまずい。動かなければ。


「陽太君」


 僕の背中の鈴美が叫ぶ。

 鈴美が捕まっているのもしんどいのだろう。


 一応軽くロープを巻いてはいるけれど、両手が縛られている鈴美にとっては踏ん張りがきかなくてしんどいのだ。


 そうだ、僕は鈴美を守らなくてはならない。


 こわくても立ち向かわなくてはならない。怖くても、立ち向かわないといけない。


 立ち向かう、とは言ってもやることは逃走なんだけど。まあ、それはいい。さtぅ期の姉ちゃんの言葉的に、もうじき警察は来るのだろう。


 それを待てばいい。


「姉ちゃん」

「なに?」

「鈴美をお願い」


 僕がそう言うと、姉ちゃんは静かに頷く。


 そして鈴美を背負って姉ちゃんは逃げていく。


「母さん」

「どうしたのかしら」

「僕が狙いだろ」


 僕はそう、強く言った。母さんに言い聞かすように。


「どうねえ」

「だから、鈴美の事は一旦忘れて、僕だけを見ろ」

「よくそんな生意気な口が利けるように。いいわ、教えてあげる。これは教育よ」

「そうですね」


 とは言っても、あのナイフを見ると、どうしても怯えてしまう。

 僕は先端恐怖症ではない。ないけれど、ナイフが怖いのはおかしい事じゃない。ちゃんとした生理的現象だ。


 だけど、怯えてばかりもいられない。


「母さん、僕は逃げるよ」

「そんな事はさせないわ」


 そう言ってこちらに向かってくる。追い詰められているからこそ、こんな短絡的な行動に身を落としているのだろう。

 哀れだと思うと同時に、今時間を稼がなきゃなんて思う。


 何だろう。頭がすっきりとしている。


 今はピンチにはずなのに、何でもできる気がしてきた。

 だけど、それはテロリストに襲われた妄想をする高校生のようなもので。


 警戒をしながら後ろに下がっていく。


「だめ、陽君は」


 芹原の声が聴こえる、そんな事どうでもいい。


 今は逃げ続けないと、未来がない。

 駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ。


 だけど、その瞬間だった。僕は足を滑らせた。


 思えば地面がぬかるんでいた。

 そして、転げ落ちればまだよかったのだが、実際はその場で転倒しただけ。


「私の物にならないなら、死んで」


 母さんが狂気じみた笑みを浮かべながら僕に向かってくる。


 ああ、終わった。そう僕は思った。


 ここで僕は死ぬんだと思った。


 結局僕は勇気を出さなかったほうがよかったのだ。



 僕は目をつぶり、お腹を手で抑えた。

 その方が、痛みを感じないと思ったから。

 お腹を貫通しないと思ったから。


 ああ、死にたくない。

 なんだか思考がゆっくりになっている。


 何だろうか。


 僕が今謝るならば、鈴美にだろうか。

 恐らく鈴美は助かる。

 だけど、鈴美は僕を失う事になる。

 ああ、本当にごめんよ、鈴美。

 謝っても謝っても足りないと思う。

 だけど、誠心誠意謝罪するよ。


 ごめん。




 あれ、


 おかしいと思った。痛みがいつまでたってもやってこない。

 なんで、

 っ、


 僕は目を開ける。すると、そこには芹原の姿だ。


「なんでだよ」


 僕は言った。


「あたしが陽君の事が好きだから」


 くそが、ここにきて僕に恩技セがましいことしないでくれよ。

 恨めなくなってしまうじゃないか。


 何でだよ。何で一番嫌いな人間が、命の恩人になるんだよ。


「くそったれ」


 気が付けばそんな言葉を発していて、僕は醜いと思った。


 その後の事は全く持って覚えていない。


 その後の記憶は病院で、鈴美に見られている場面からだ。


「良かった。目が覚めた」


 鈴美はそう言って僕に笑いかけてくれた。



この話で20万字突破です


ブクマや★をつけてくれると喜びます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ