第81話 共犯者
「二人とも出て」
そこにいたのは、芹原だ。僕は芹原をきっとにらむ。
「陽君、そんなに睨まないで」
「睨むでしょ」
僕は囚われてから好き勝手にされてきた。
それこそ、芹原のペットという言葉が似合うよな。
幸い、僕が性的暴行を受けるなんてことは無かった。
だけど、僕の尊厳は破壊されつくされた。
一人で単独で調べに言ったのが悪いのかもしれない。
それは僕の失態なのかもしれない。
だけど、
「僕はいいから、鈴美は解放して欲しい」
「陽君。……解放できるわけないでしょ」
その言葉に僕は唇を強く噛む。
「あはは、あたし陽君の悔しそうな顔大好物」
彼女は。彼女だけ楽しそうだ。
「ついてきて」
「ついていくわけないよ」
そう、鈴美が叫ぶ。
「来なくてもいいよ。だけど、蓋が閉じられるだけだけといいの?」
鈴美は真上を見る。
ここはただでさえ、クライ。蓋を閉じられれば、光のほぼない空間になる。
多分鈴美もご飯を食べていないだろう。
そんな空間で、食べ物も取らず孤独ていたらきっと止むだろう。
僕も実際今、かなりしんどい。
鈴美が来るまで、正直発狂しそうになっていたから。
「鈴美、着いて来て欲しい」
その言葉に、鈴美は頷く。
「今は出るしかないもんね」
鈴美はそう言った。
それにどうせ僕たちはすぐに解放される。多分もうすぐ警察が来るからだ。
そして上がったところ、
「車に乗ってもらうよ」
芹原がそう言った。
僕は頷いた。鈴美も。
幸い鈴美は捕われる事は無かった。
だけど、僕ら二人、山まで連行されている。
鈴美に拘束をかさないなら、僕の拘束も外してほしいところだけど、そんな文句を言っても、無駄なのだろう。
それに、鈴美が拘束されていないという点で、幸せだから。
だけど、山に連れていかれているのは正直軽くまずい。
家に居たら、警察とかが突入してくれていただろうけど。山だったら居場所が分からない。
「陽太君」
鈴美が笑いかけてくれる。
「陽太君、大丈夫だから」
「だけど、その顔をみたら、気丈に振る舞っているという事が伝わってくる。
鈴美だって不安なのだ。
僕は震えながら、到着を待つ。
もしかしたら、ここで無理難題を、求められるかもしれない。そうなったら、最悪だ。そうだ。僕が恐れていたのはこれなのだ。
こうなってしまっては、向こう側が対策を打つ。
最悪は芹原による無理心中の可能性も大いにあるのだ。
ああ、憂鬱だ。
僕は息を軽くすう。
「大丈夫よ陽君。陽君にとっていい事になるから。あたしを信じて」
その、あたしさんが信じられないからこそ、僕は不安なんですけどねえ。
「陽君」
芹原が僕を膝の上に乗せる。
まるで僕が小学生だと言っているみたいだ。
「芹原、辞めて欲しい」
「そんなこと言わずに、あたしの膝の上暖かいでしょ」
「暖かくない」
「もう!」
芹原はため息をつく。
それにしても、先ほどから母さんは黙ったままだ。一隊どうしたのだろう。
なんて、思ってはだめだ。
一言もしゃべっていない母さんが一番不気味なのだから。
「芹原、今からどこ行くんだ?」
「内緒!! サプライズだから」
そう言って芹原は僕をさらに強く抱きしめる。その際に、胸が当たる。それさえも腹たたしい。
「ついたわよ」母さんが言う。
そうしてようやくだ。
ようやく目的地へとついた。
なんとなく、少しだけ不安だ。
いや、少しとかじゃない。かなり不安だ。
そして、鈴美の腕が縛られ、僕の拘束が解放される。
どういう事だ。
「何がしたいんですか?」
「ねえ」
芹原が僕の顔を真っ直ぐに見る。
「どうしたんです?」
「こいつを殺して」
彼女がそう言って僕を睨む。
「はあ?」
「お願いだよ」
「お願い?」
「こいつを埋めて」
埋めて、だって。
それじゃあ、まるで――
「あたし気づいたのよ。陽君をさ、あたしの物にするには。陽君を共犯者にしたらいいって」
本当に何を考えているんだ。
いや、なんとなく言いたいことは分かる。
僕には理解しがたいもいのではあるが。
「なあ、こんなことやめてくれないか?」
そう言った瞬間、にらまれた。
睨まれる筋合いなどないけれど。
だめだ。
僕の心がすっかり負けを認めてしまっている。
ああ、だめだ。駄目だと思いつつ、
「殺して」
僕の手を掴まれる。
そして――
鈴美の首にかけられる。
「大丈夫。陽君はさ、この子の首を絞めたらいいだけなの」
そう言う、芹原の声は優しそうなものだった。
勿論、声の感じは、ではあるけれど。
「だ丈夫よ」
吐き気がする。
何を考えているんだ。この化け物は。
「ねえ、陽君」
頭が撫でられる。
「陽君大丈夫よ」
そう言われる。
ああ、怖い。ああ、怖い。
駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ。
「鈴美……」
僕は消えそうな声で言った。
鈴美はにっこりと笑う。
鈴美は今、自分の生命を僕に委ねている。
僕が鈴美の命を本当に奪うとは思われてないのか。
僕は鈴美にやけに信用されている。
それも当然か。僕は鈴美の彼氏なんだから。
「はあ!!」
僕は芹原の腹を蹴飛ばした。
女性のお腹を蹴るのはご法度だが、こいつはあいにく女性と見なしていない。
「鈴美、逃げるぞ」
僕の声に合わせて、鈴美は「うん」と答える。
僕は縛られていて動けない鈴美を、背中に背負いながら走る。
幸い山道だ。
上手く行けば逃げ切れるかもしれない。
だけど、追手から逃れ切れるかどうか。
「お兄ちゃん、逃がさないよ」
また立ちふさがるは、紅葉ちゃんだ。
「そこをどいてください」
「ボクは絶対にどかないよ」
「そうですか」
どかないと言われて素直に諦めるわけにはいかない。
それに、紅葉ちゃんには一度勝っている。
背中に鈴美を抱えながらだけど、十分戦えるはずだ。
帰って警察に通報して、そしてすべてを終わらせる。
「はあ」
僕は地面をける。そして、こぶしを突き立てた。
「甘いよ。力がともってない」
その拳はあっさりと受け取られ、そのまま投げ返される。
「っいた」
「ごめん」
背中の鈴美が僕に押しつぶされる形になったのだ。
「大丈夫?」
「うん。少しジンジンするけど」
「そう」
そして、僕は再びかかる。
「それにね、忘れないでよね。ボクが一度負けたのは、わざとなんだから」
「なんだって?」
「ボクはあの時、お兄ちゃんに地面を掘らせたかった。何もない地面を。だからね……」
紅葉ちゃんの小柄な体が僕の前に来る。
「今とあの時じゃ全然力が違うってこと」
そのまま僕の鼻に拳が当たる。痛い。
そのまま、背後に回られる。
「関節技って便利なんだよね。体術習っててよかったよ。お兄ちゃんもあとで受けてみる? 鈴美ちゃんを殺した後で」
「ふざけないでください」
だけど、ここから逃れられるいい方法が見つからない。
絶望を感じ始めている。
関節が締め上げられて、だいぶ痛い。
終わりだ――
「やめなさい」
そこに、一つの声が響いた。




