第73話 ボール
その後僕たちは陸へと戻っていき、二人で砂浜を歩いていく。
砂浜と言っても、浅瀬だ。
地面がじゃりじゃりとしている。
鈴美と手をつなぎながら砂浜を歩いていく時間も楽しい。
「この後どうする?」
「どうしましょうか」
そして二人して歩いていく。
「ボールでも投げる? それとも水の中を泳いでいく? それとも……」
そして、鈴美はそれとも「休憩する?」と言った。
休憩しなければならない程は疲れ切っていない。
「ボール投げ合おう」
そう、僕は言った。
基本プールでやる物ではあるが、海でも出来ない事はない。
僕はワクワクしながら、ボールを持つ。
そして、鈴美はボールを手につかみ、そのまま浮かんでいく。
あれ、ボールの投げ合いをするんじゃないの?
「これ、楽しいよ」
その鈴美の言葉をきいて、意図を理解した。ボール投げよりも、これがしたくなったのだ。こういったビーチボール。ビニール上の物に空気を入れて膨らませる形状のボール。これは時として浮き輪と同じような効力を持つことがある。
ボールを持って浮く。これを今鈴美は楽しんでいるのだ折る。
僕も手に持っているボールを掴み、そのまま泳いでいく。
確かに、これはいいや。バランスを取りながら泳ぐ。正直楽しい。
僕はボールを手にバタ足をする。
先程泳いだところ、結構ギリギリだった。一応端のポールまでは行けたが結構息も絶え絶えだった。
しかも先ほどたどり着いた場所が最奥という訳でもない。
何しろ、遊泳可能スペースは円状に広がっている。
勿論真ん中の場所を泳いだら、もっと最奥のポールまでの距離はその分遠くなっていく。
「いくよ、陽太君、着いて来てね」
そしてどんどんと海辺からどんどんとポールの方へと泳いでいく。
「うん」
僕はそんな鈴美を追いかけて行った。
「ボールがあるから泳ぎやすいね」
「分かる。こっちの方が泳ぎやすい」
「うん」
そして二人で互いの顔を見合い、そしてまた笑う。その後また僕たちは泳ぎはじめていく。
その中で感じる事がある。
ボールがあるほうが明らかに速度が上がっている。
多分プロの水泳選手とかだったら、ボールがない方が明らかに泳ぎやすいのだろうけれど、ぼくみたいな水泳初心者ならばこちらの方がいい。
「競争しようよ」
泳いでる途中、唐突に鈴美が言った。その言葉に僕は泳ぐのをやめ、ボールにしがみつく。
「僕の負けで決まりだよ」
自信は正直ない。
「でもさ、私も運動神経あまり良くないし」
「確かに」
「確かにって言わないで」
そう怒って見せると、僕は笑って見せた。
その、鈴美の顔が可愛かったのだ。
そして、ボールを持ちながら競争をすることになった。
その競争中。僕はひたすらにバタ足をしておよ言うだ。
しかし、中々進まない。
だけど、それは鈴美も同様みたいで、ぼくよりも少しだけ、ほんの少しだけ早いが、それでもそこまで速くは泳げていないみたいだった。
どんぐりの背比べとでも言おうか、僕たちは互いに遅いスピードを維持し続けている。
そして、ようやくボールまで触った。
だけど――
「遅かったねえ、はあはあ」
鈴美が少し先に到着をしていた。悔しい、あと少しだったのに。
僕はその場で、悔しさから軽くボールを叩く。
「私の勝ち。ハアハア」
そう言う鈴美も体力はあまり残されていないみたいだ。
「なあ、鈴美」
「なに?」
「戻る体力ってある?」
僕たちはひたすらに泳ぎ続けてきた。先程よりも奈阿木距離を。
「少し休憩が必要だね」
「うん」
僕たちは今度は少し休憩して、戻った。
その後は、本来のボール遊びをした。
僕たちはボールを投げ合う。
周りから見たら、僕たちはきっとカップルに見えるだろう。
そして、本当に僕たちはカップルだ。
僕がボールを投げると、鈴美もボールを奇麗にキャッチし、そして投げ返す。
この一連の動作が正直楽しい。
更に、投げている鈴美の姿が、水着姿であるからさらに美しい。
今の僕は鈴美を変態みたいに見ているなと、苦笑する。
そしてまたボールを投げる。
「ああ、楽しい」
「うん、楽しい」
そして二人顔を見合わせ、また笑った。
そして途中から互いに本気で投げ合い、そのまま二人してぎりぎりの勝負を繰り広げ、ギリギリ僕が何とか勝った。
果たしてこれに勝ち負けがあるのかは知らないけれど。




