第7話 レストラン
「前はここで、カップルセットを食べたんだ」
そう、僕はカップルメニューを指指しながら言った。
「ふーん。なるほど。じゃあこれにしよ」
そう、御堂さんはカップルメニューを指さした。
「は?」
意味が分からない。
だって僕と御堂さんはカップルじゃないし。
「こういうカップル割はイチャイチャしてたらカップルじゃなくてもいいの」
「そうですけど」
あまりにも無茶苦茶すぎる」
「いいのか? だって、あーんとかが必要になるんだよ」
「うーん、それは……まあでもいいんじゃない?」
「なんでだよ」
突っ込まずにはいられない。
「まあでも、これはトラウマを晴らすためだし」
「……」
なら、仕方ないのか。
いや、なんで納得しているんだ。
だが、
「すまない。多分無理」
僕には今御堂さんとあーんのしあいなど無理だと分かっている。
だって、僕は少しマシになったとは言え、御堂さんの顔は整っている。
そして、御堂さんにはどうしても女を感じてしまう。
そうなれば、僕はきっと、倒れてしまう。
まだ女性への恐怖は消えていないのだから。
「分かった。じゃあ、別々にしよー」
「ああ」
ありがたい。
そして、早速互いに料理を頼み、互いにそれぞれのペースで食べていく。
そう言えば、あの時は互いにあーんしながら食べてたっけ。
あの記憶を忘れるためには、互いにあーんする必要があるか。
いや、それは先ほど断った。
だけど、その代わりに。
「一口交換しませんか?」
僕は勢いそう言った。流石にあーんはだめだけど、それくらいなら。
「ねえ、陽太君。顔赤いよ?」
「う、うるさい。僕だって、記憶を消すためじゃなかったらこんな恥ずかしい提案してませんよ」
「分かってるって。そんなに恥ずかしい提案でもないしね」
「じゃあ、からかってるってこと?」
「いや、顔は本当に赤かったよ」
「もう!」
そう言う御堂さんは楽しそうだった。
あれ、なんだろう。
僕も少し楽しいと思えている。
あまりトラウマがぶり返してこないのだ。
もしかしたら御堂さんに仲間疑惑が出てきたからかな。
「そう言えば、なんで僕の過去を断片的に知ってたんですか?」
「ん、それ気になる?」
「うん」
そりゃ気になる。
事実最初からがんがんと来てたんだもん。
「それは普通に内緒」
「まだ!?」
過去にリスカしてたことは言ってくれていたのに。
なぜこれは言いたくないのだろうか。
「大丈夫いつか話すからね」
その目が儚げのあるものだったのは気のせいだっただろうか。
「それにそれはいつか分かると思うよ」
意味深な事を言う御堂さん。
急に不思議な事をいっぱい言いだすな。
「その代わりね、私のこれ」
彼女は自身の腕を俺に見せてきた。
先ほどの話の続きだろう。
「当時は本当に死にたかったんだ。だって、行く日も行く日も、虐められるばかりでさ、自身の存在意義が分からなくなっちゃった。それこそ、こんなこと言ったらダメだと思うけど、陽太君がやられたくらいのことはやられたと思うよ。トイレいるときに水かけられたこともあるし、あ、トイレに顔をつけられて窒息死しかけたこともあるし、机に死ねって書かれる事なんて日常茶飯事だったしね」
そう笑顔で言う御堂さん。彼女は乗り越えられたのだろうか。
虐めの内容は裏切り行為という物がないとはいえ、僕と似たようなものなのに。
「で、虐めの原因はシンプルにカースト一位の子に気に入られなかったからなの。変に反抗心が芽生えて反抗してしまった結果、いじめにあうことになった。だって、当時の私は男子からモテてたから」
女子のカースト制度は非常に面倒くさいとよく聞く。カースト一位の女子の好きな男子に好かれてはいけないし、カースト下位の人間はカースト一位の女子に逆らってはいけないというのは鉄則の法則と言われている。
僕の姉ちゃんはそう言う事に精通していた。
というのも、姉ちゃんは、そう言う思い出があるらしい。
「それだけだよ」
「そうか。同情するよ」
思えば僕は姉から沢山女子の醜い部分を聞いて生きてきた。
僕が女子が苦手なのはそれもあるのかもしれない、
「やっぱり、女子の世界は怖いの?」
「うん、そだね。だからこそ、高校では、女子友達を作ってないんだよ。それと、勉強して高偏差値のところに行ったしね」
「僕と一緒だ。僕も勉強して高偏差値のところに行ったし」
話が盛り上がっている。だが、ここで一つ気が付いた。
もし仮に御堂さんも僕を騙しているとしたらどうすると、
話が合いすぎているのだ。
いや、だから僕は何を考えているんだ。御堂さんを信用するんだろ?
あの事件の後から、初めて僕に信用に値すると思わせてくれた人だ。
もうこんな考えは消そう。
「それにしても美味しいな」
「ね。私たちが仲良くなった証だね」
「そうだな。……お酒じゃないけど、今日の日に乾杯」
「……急にイキらないでよ」
「だめだった!?」
そう言うと、御堂さんは笑い出した。
「大丈夫だよ。うん、うん。陽太君はそれが一番いい」
そう言って、御堂さんは僕の顔をじっと見てくる。
「そう言えばさ、気になったんだけどさ」
何々怖い。
「なんでいまだに御堂さん呼びなの? 私は陽太君って呼んでるのに?」
それは、確かに真っ当な意見だ。確かに僕は彼女の下の名前、鈴美と一度もよんだことがない。
それどころか、呼んでなさ過ぎて軽く、忘れかけてたところだ。
「ねえ、呼んでよ」
「いきなりですか?」
無理無理。
あいつの時は、えななんとかいう気持ち悪い呼び方してたけど、今は無理だ。
だって、僕には今更下の名前呼びする度胸は無いのだ。
「無理です」
「呼んで」
「無理です」
「呼んで!」
そんな問答を二分程度続けたところで。流石に心が折れた。
「分かった」
仕方ない。呼ぶだけだからな。
「鈴美」
僕は細々とした声でそう呼んだ。
「わーい! やっと呼んでくれた」
「これきりだからな」
「えー、よんでよ」
「いやだよ」
「もう」
そう言って屈託のない笑顔を見せてくれた。




