第65話 映画
そしてその翌日。朝ごはんを食べ、今日は山を下りることtなった。
というのも、山の上はほどんどやることがない。
山登りはどうかと思ったが、少し危険だと言われた。
山登りをするなら、ちゃんと道が整っている、場所でやる方がいいらしい。何しろ、ここら辺の道は少し急な坂が多く、怪我をする可能性が十分にあるし、標識とかもないから、遭難する恐れだってある。下手したら熊などに遭遇する恐れもあるそうなのだ。
そう言う訳でバスに乗り、平地にたどり着く。
今日の予定は前もって決まっている。
山を下り、一緒に映画を見に行くこととなっているのだ。
なぜ、映画か。そこには理由はない。ただ、今日公開の映画があったから、という事。
それとまだ捜索届が出されていないという事だ。
捜索届が出て、ニュースになるまでは僕たちは自由に動け回れるのだ。逆に言えば捜索届が出てしまったら、僕たちは自由には行動できなくなる。安全な山の上で身をひそめる事しかできなくなるのだ。
ちなみに鈴美曰く、まだ芹原は陽君を求めているそうだ。祖rを聞けば滑稽と思えるのは、僕の心がけがれているのだろうか。
そして、僕たちは歩いていく。
映画館に入ると、僕たちはポップコーンを選ぶ。
「そう言えば僕たちって二人で映画館には行ったことってなかったよね」
「たぶんない。ていうか絶対にない」
そう言えば、芹原とも映画館に行ったことがない。
家族以外と一緒の映画館は初めてだ。
「陽太君、楽しみだね」
「うん」
今回見る映画は、恋愛映画だ。
親から、愛されない少女と、家族を失った男。その二人が山の公園で出会う。二人は死にたいと思っていたが、二人で意気投合していくうちに――
そんなストーリーらしい。
恋愛映画自体、見るのは初めてだ。だけど、そこそこ評価の高いこの映画がダメ映画だなんてことは無いだろう。
ポップコーンとコーラを買って、僕たちは中に入っていく。
緊張する。
だけど、緊張する必要はない。僕たちは映画を楽しむのだから。
『日本が泣いた。全米が泣いた、世界が泣いた、――監督の最高傑作』
中に入ると、広告が始まっていた。
『全米が泣いた』という表現はもう、信用に足らないくらい、使いまわされているmmじゃないか?と思ったがそれは口に出さないようにした。
そこはもうツッコむようなところではないだろう。
「楽しみだね」
鈴美が、ポップコーンをつまみながら言った。
「そうだね」
そう、僕も返す。
その後、会話もなく映画が始まった。
鈴美と見る映画。それだけで楽しみだ。
そう、思った瞬間、先ほどの緊張が単に鈴美と初めて見る映画を楽しく楽しめるか、不安だったからなんだな、と感じた。
だけど、最初の五分のシーンで少なくとも退屈しないことは分かった。
少女が、物置に隠れている。
その間、リビングでは、男と女がお酒を嗜んでいた。
その会話の内容から、少女は邪魔者扱いされたのだなと、分かった。
そして、次のシーン。少女は学校に行った。
周りのクラスメイトの会話を横目に、イヤホンを付けて曲を流す。
友達がいない様子だ。
『死にたい』
映画の中で、そうぼそっと少女は呟いた。
そして、うつ伏せになって机で寝た。
そして続いて少女は目の前に座る少年を見た。彼もまた、無言でイヤホンを付けている。
その日の夕方、少女はまた、家に帰るとカップ焼きそばを食べる。親からの関心はなさそうな様子だ。
そして、親が『今日もお願いね』と言ったセリフを聞き、少女は頷いた。
そして、夕方また、物置に隠れる。
だが、途中で少女は抜け出す。
親が騒いでいる家を後にした。
そして向かった先は山の中だ。
その頂上に気の休まる小さな小さな公園がある。
そこで、一人の少年に出会う。クラスメイトだ。
少年は自分の過ちで家族を死なせてしまった過去がある。
自分をかばって死んだ親の姿を忘れない。
交通事故の際に、親がかばったのだ。
自分の不注意のせいで親を殺してしまった。
そして、父親は妻が亡くなったショックでアルコールに依存するようになった。
そんなある日、アルコール中毒で亡くなってしまった。
そのため、気が落ち着かない時にはここに来るらしい。
そしてそこで、意気投合した二人は互いの愚痴を言い合った。
そして、二人して笑い、
そして帰って行った。
そこから二人の恋が始まった。
「いい話だった」
鈴美は感慨ぶ海洋で、その場からしばらく動けない様子だった。
「はいはい」
そう言って僕は、その場に座り込む。
「でも、実際いい物だったでしょ」
「まあな」
確かにいい映画だった。
最後二人が生きることを決めたシーンも。少なくとも1700円払う価値のあるものだったと言えよう。
「おなかすいたね」
「そうだね」
僕たちはそう言って、近くのレストランに言った。
とは言っても、ポップコーンでお腹が膨れている僕たちは、そこまでの量の食べ物は食べられない。
僕はオムライス、鈴美はパスタを頼む。大盛りも出来るが、大盛りにして食べられる気がしない。大盛りの方がコスパはいいが、それで食材が無駄になることが嫌だったのだ。
そして二人で、雑談しながら料理が来るのを待つ。
「今日の映画面白かったね」
鈴美はまず一言目にそう言い放った。
「うん、面白かった」
僕も首肯した。
実際あれは面白かった。
「少なくとも、見て損はなかったなって思ってる」
「損かもって思ってたの?」
「いや、その可能性もないとは言えないだろ」
「まあ、確かにそうだけども」
そう言って鈴美はうんうんとうなる。
「陽太君、もしさ」
「どうしたの?」
「わたしたちがあの二人の立場だったらどうする?」
「それはどういう」
「仮定の話だよ」
「仮定か」
難しい話だとは思う。
だけど僕はあの立場なら。
「あの二人は生きることを選んだわけだけど、僕は生きることを選べるんだろうか」
そこが難しい話だと思う。
「陽太君なら選べるよ。ていうか陽太君の今の現状こそが映画みたいじゃない?」
「確かにそうだね」
僕の人生を映画化すると、たぶんそれなりには評価されるこれは決して自画自賛とかではなく、普通に俯瞰してみると、映画みたいな人生になるという話だ。
「なあ、鈴美」
「どうしたの?」
「僕はこれでいいんだよな」
僕は少しだけ不安になった。そう、これからの事に対してだ。
「なんで今ので不安になるの」
鈴美が少し怒ったような声色で言う。
「陽太君は大丈夫だから。それはわたしが保証する。それにあの映画の中の二人だって結局上手く行ったじゃん。人生結局映画みたいに何とかなるの」
「そうだよな」
そうだよ。何も恐れる必要はない。
それに昨日毒吐き散らかしたんだから。
「ごめん。色々と、ネガティブになって」
「全然かまわないよー」
そう言って鈴美はまたくすくすと笑う。
僕たちは幸せだ。
そしてその後は映画の感想だけに注視して二人で話し合う。
その会話が正直楽しかった。
その次の瞬間だった。料理が到着した。そのことに感謝しつつ、またご飯を食べ続ける。
楽しい時間だ。




