第61話 旧友
そしていよいよ食事だ。あれから15分待ったので、もうお腹がペコペコだ。
さっきからお腹の虫がうるさすぎた。
僕は席に着く。そして、目の前の食事を見る。
見るからに美味しそうな生姜焼きだ。
僕はそれを見て、ドキドキした。
見るからにおいしそうな見た目のその料理。この見た目で美味しくないわけがない。
思えば最近の食事は、母さんの作った料理だった。
美味しくないわけではないが、思うところもあった。
愛情を感じられていなかったのだ。
僕は、「食べていいんですか?」とふと訊いた。
「いいんだよ」
隣に座る鈴美が笑顔で答えた。
そして僕は小さな声で、
「やった」
と呟いた。
僕は、わくわくしながら食べる。箸で生姜焼きを掴み、口に入れ、
そしてキラキラと輝く白米を口に入れる。
美味しい。味付けも過度に濃いとかもなく、ちょうどいい。
それに焼き加減がちょうどいい、そんな感じがした。
味付けを刻することなく、美味しさを出す。生姜焼きだけで、恵美さんが料理が上手な事がうかがえた。
しかも、愛情がこもっている。
「美味しいです」
そう言うと、恵美さんは笑って「良かった」と答えた。
そして僕は鈴美の顔を見る。すると、鈴美も微笑み返してくれた。
ご飯を食べる時間は幸福の時間だ。
しかも、芹原との食事みたいに変に気を張らなくてもいい。
あの時は、何度芹原にあーんをさせられたか。特に最後の三日間。あれは地獄だった。
いやいいや。今は芹原の事なんて考えなくていい。芹原の存在を排除できた今が幸せなのだから。
そう言えばニュースになってないのかな、とふと思った。
だけど、今の僕にはスマホがないから調べられない。
それに、ニュースになっていたら鈴美が教えてくれるだろう。
そして、食事を続けていくうちに、一さんが口を開く。
「鈴美との関係は今どうなっているんだい?」
それも緊張しているかのような感じで。
そうか、向こうも緊張しているのか。急に娘が彼氏を連れてきている状態なのだから。
「さっき、ハグしたよ?」
鈴美が照れながら言う。
それ言っちゃっていいのか?
「そうか、あまりこういうのは訊かない方がいいと分かっているが、キスとかは」
「まだ」「まだです」
僕たちは同時にそう言った。
「陽太君が嫌がるんだよね」
「嫌がるっていうか……」
嫌ではない。けれど、心の準備がまだだ。
「鈴美は大事な彼女です。だから、一時の欲情でキスなんかしたくないんです」
「それは……」
「するなら、しかるべき時にです」
もしかして、少し恥ずかしいことを言った?
と、緊張してしまうが、
でも、隣の鈴美がうんうんと頷いたから、まあよしとする。
「少し昔話をしようか」
鈴美のお父さんが言った。
「それって私の昔話じゃないよね」
「大丈夫。俺と母さんの話だ」
そう言って一さんは恵美さんの方を見る。
「俺たちはずっと両片思いだったんだ」
そう、早速口に出す。
両片思いの意味は十分に知っている。
両方ともが好きなのに、中々それが言い出せずに両想いなのに、思いが互いに伝わらない。そう言った状況だ。
「そんな状態で10年も互いに気持ちを伝えられずにいたんだ。その間に五年も別の道を進んでいたしね」
話しからさtぅするに、学生時代からずっと両想いだった。しかし、大学卒業を機に、疎遠になった。
それから5年後に再開し、そこから一年で結婚。といった形だ。
つまり5年間、その期間を一緒に過ごせていなかったという訳だ。だからさtぅ里気持ちを行為にあらわしたほうがいいという話なのだろう。
「それも、確かにですね」
僕はそれがすべてだとは思っていない。そしてこれは別に僕たちをせかす物でもない。それはちゃんとわかっている。分かっているが、それでも分からなくなってしまうのが現状だ
「深く考える必要はないよ。ただ、少し俺の話をしたかっただけなんだ」
「つまり僕たちは」
「君たちの恋愛の一つのきっかけになったらいいなと思っただけだ。それに、恋愛は何とでもなるんだ。だって、俺たちはこんなにも幸せだから」
そう言って一さんは抱きしめた。恵美さんを。
★
そして僕たちはご飯を食べたあと、鈴美に連れられ町を探索することとなった。
街の中は見ていて楽しい物だった。山の景色が美しく、スマホを持っていない事に感謝した。
スマホという物は、人の自然を嗜むという気持ちを阻害してしまう。
これでいいのだ。
そして、僕たちが歩いていると、鈴美が「あ」と声を出した。なんなのだろうか、と思い見る。
そこに一人の少女が向かってきてたのだ。
鈴美の知り合いなのかな。
そう考えると、ほんの少しだけ怖くなる。
僕は元来人見知りなのだ。鈴美の旧友とは言っても、僕に堂々と話せる気概はない。
「久しぶり、香奈!!」
そう、鈴美が手を振る。僕はどうしたらいいのか分からないので、笑顔を作っておいた。
「久しぶりだね」そう、香奈さんも返した。
僕は鈴美の過去は、いじめられていた時期しか聞いていない。逆に言えばそれ以前の事は何も知らないのだ。
「隣にいる人は?」
早速僕の存在に突っ込まれた。
「わたしの彼氏!!」
そう、にこーと笑いながら鈴美は言った。
それに対し、香奈さんは「ええ!?」といった。
そのままの足で僕たちはカフェに行くことになった。
カフェ、そうカフェだ。
鈴美と香奈さん。二人はどんな関係性なんだろう。
「それでそれで、彼氏ってどういう事?」
香奈さんが興味津々に鈴美に訊く。
「えっとね、私いじめにあって転校したって前言ったじゃん。陽太君とはその先の学校で出会ったの」
「へえ」
そして、香奈さんが僕の方を見て来る。
「どうも」
僕はそう言った。この言葉が本当に正しいかどうかは分からないけれど。
そして、鈴美に、耳打ちする。
「この子は誰なの?」
と。
何しろ、訳が分からないのだ。
僕は、この子が誰かすらも分からない。舌の名前を今知ったばかりなのだ。
「この子はね、わたしの小学校の時の友達よ!!」
そう言って鈴美は、香奈さんの手を取る。
「西城加奈、わたしの小学校の時の親友」
そう言ってにっこりと笑った。




