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壮大な嘘告白をされ人間不信になった僕、後ろの席の女の子が付きまとってくるようになる  作者: 有原優


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第6話 遊園地

 そしてチケットを入場口で渡し、遊園地に入場した。


 僕は結局押し切られる形で了承した。

 しかし、それは、あくまでもチケットが無駄にならない様に、仕方なく了承したに過ぎない。


 もし中で倒れても御堂さんが一方的に悪い。

 ほぼ御堂さんが強引に決行したような物なのだから。


「じゃあ、カップルらしく手をつなごっか」

「話聞いてました?」


 なぜこんなことを言うのだろうか。

 もし、僕がこいつと手を繋いだら確実に蕁麻疹が出て、そして倒れる。


 そうなったら困るのは御堂さんも同じだ。


 しかも御堂さんと僕はカップルですらない。


「そうだったね、ごめんごめん」

「本当に思っているんですか?」

「ううん、ブラックジョーク!!」


 そう言って御堂さんは手を握り締める。

 何が面白いのか分からない。

 元来こういうのは、僕が言うから成り立つものなのに、御堂さんが言ったらすべて台無しになる気がする。


「あきれないでよ。場を盛り上げるためだよー」


 そう言って僕の背中をパンパンと叩く。


「やめてください」


 ちょっときつい。


「仕方がないなー、じゃジェットコースターに行こ―」


 そう言って彼女は笑顔で僕の前を先導していく。



 今の状況……僕と彼女はおそらく周りからカップルと思われている。それが心外だ。

 カップルどころか、一緒に居たくもないのに。

 しかしここに居ると、昔のことを思い出してしまう。


 あの時のデートは楽しかったのに、今では完全なる負の歴史。今でも思い出したくない。

 あの時の影がちらつく。


 ジェットコースター。



 ……ジェットコースターか。




『ジェットコースター怖がってたね』

『うるさいなあ。僕は怖いもの苦手なんだよ』

『知ってる。だって、ビビってたもん』

『それは認めるけど……』

『認めるけど?』

『僕はそれでも乗ったんだ』

『偉い偉い!!』



 ああ、あの時の会話が脳裏に浮かんできた。こんなの消さなければならないのに。

 くそ、このことをさっさと話すべきだった。


 そして今日のデートを取り消してもらったらよかったかもしれない。



 少なくても今言えることが一つある。

 やはり僕は今日倒れてしまうという事だ。


 僕は怖いのだ。女性が怖いと言っておきながら、ここで彼女と仲良くなるのが。

 それに遊園地にしたってそうだ。あの時はいい思い出と思っていた。



 ジェットコースターに乗って、吐きそうになった事、カップルメニューを食べたこと、観覧車に乗ったこと。全ていい思い出だったのに、今では悪い思い出だ。


 僕は今も芹原の事が許せないし、この遊園地で、えななんと一緒に遊んでいた僕が憎い。

 今からでもタイムマシンに乗ってあの時の僕に、芹原の恐ろしさを教えてやりたい。

 過去の僕は本当に愚かだったのだから。


「えななんか」


 くだらない。えななんなんて呼んでいた僕が。

 ああ、ああ、だめだ。過去の嫌な記憶がどんどんと浮かんでくる。


 僕は、僕にとって一番楽しく、そして一番愚かな記憶がこの遊園地だったからだ。


「あ」


 気づけば、僕はその場にへたり込んでいた。

 思索しながら歩いてたから気づかなかったが、今はもうジェットコースター待ちの列に並んでいる。



 そこで、倒れてしまったらみんなに心配かけてしまう。



 特に、御堂さんに。

 いや、僕は誰の心配をしているんだ?

 もう、彼女の事なんてどうでもいいじゃないか。僕をここに連れてきた張本人なんだから。

 僕が今苦しんでいる原因そのものなんだから。


「大丈夫? どうかした?」


 だから、なんで僕の心配をするんだよ。


「僕は、芹原のことを許せない。遊園地を楽しんでいた過去の僕を許せない」


 なんで、あんな思い出を嘘だったと言われなければいけないんだ。

 おかしいじゃないか。

 ああ、先程から同じ思考が堂々巡りしている。


「ねえ、陽太君の過去に何があったかは知らないけど、私も陽太君をそんな目に合わせた人を許せない。だって、陽太君が苦しむのはおかしいよ」

「おかしい?」

「おかしいよ。だって、陽太君はそんな苦しんでいい人間じゃないもん」

「はは、そう言ってくれるのか、ありがとう」


 でも、響かない。女子の声は響かない。

 先ほどまでは増しだったが、また御堂さんの声が嫌な反響の仕方をする。

 芹原とは違うタイプの声だ。

 だけど、だけど、気持ち悪い。


「芹原に言われたことがあるんだ。ここで好きだって。手を握られて、またここにこようねって言われたんだ。でも、そんな日は来なかった。来なかったんだよ。全部嘘だったんだよ」


 気が付けば心の中の気持ちを全部吐き出してしまっていた。


「女はくそだよ。母さんも浮気したし、姉ちゃんも、男に偽の愛をばらまき、カネを得てるし、芹原なんて僕をずっとだまして快感を得ていた。僕は心底腹が立つんだよ」

「陽太君……」


 御堂さんは僕の方をじっと見ている。


「私もそう思う」


 そう言われ、頭が軽く混乱した。

 なんで、女のお前からそんな口が。


「私はずっと女性社会の中で暮らしてきたから分かるの。女子の腹黒いところを。だから分かってるの。きっと、陽太君は苦しんでるんだろうって」

「御堂さんも、女子に苦しめられてたのか?」

「うん、そうだよ」


 そんな過去があったなんて初耳だ。


 御堂さんは服の袖をめくった。そこにはひどい傷があった。


「これね、私のリストカットの後なの」


 リストカット。つまり、自分の体を傷つけた痕という事か。

 それは基本ストレスからつける人が多い。

 御堂さんも、そのためなのだろう。



「まさか」

「陽太君が言う子じゃないと思うけど、私もいじめられてたの。執拗に、何度も何度も」


 ああ、だから僕に構ってるんだ。この子は。


「だから安心して。私は陽太君の敵じゃないよ」

「そうか……」


 いや、まだ安心するな。それは本当にリスカ痕か?


「まだ僕を騙してる可能性もある……」

「もう、信用してよ」

「いや……」


 これだと僕は卑屈だ。だけど、疑わずにはいられない。

 遊園地という場所なのも猶更だ。


「でも、もう順番だよ」

「へ?」


 上を見ると、確かに順番は進んでいて、次が僕達の番だ。

 そして多くの視線が僕たちに向けられている。


「そうだな」

「楽しみだね」

「……」


 前は芹原と、吐きそうになったジェットコースター。

 今は無くしたい記憶だけど。


「今日は、嫌な記憶をいい思い出に塗り替える日だよ。だって、私は裏切らないもん。行こう!!」


 その御堂さんの声に従い僕たちはジェットコースターに乗る。


「っ」


 脳内に嫌な記憶がどんどんと流れ込んでいく。


「大丈夫よ。私だから」


 そんな時に隣の御堂さんが笑った。

 確かに、隣に違う人が乗っていると思えばいい。

 そう、御堂さんの顔を見たらいい。



 芹原、ここにお前の席ねえから、理論だ。



 そうだ、御堂さんの言うとおりだ。今日は、芹原の事を忘れたらいいじゃないか。

 そしていよいよ動き出す。

 ジェットコースター自体、吐き気はするが、好きなのだ

 。

「うわああああああ」


 車が走り出す。そのまま緩急をつけ、高低を生かしてどんどんと走っていく。

 怖い、でも楽しい。

 隣の御堂さんを見る。楽しんでいるようだ。



「きゃあああああああああ」



 隣の御堂さんを見ていると、少し気持ち悪くなってきた。あまり隣を見る余裕はない。

 前だけを見なければ。

 そしてその速度に合わせ、僕は、僕たちは揺られる。

 そして、ようやく終着地点についた。


「はあはあ」



 やっぱり気持ち悪い。だけど、僕の記憶の中の芹原さんは、御堂さんに切り替わった。

 御堂さんが裏切ったりしなかったら、僕のこの遊園地での思い出は楽しい物に切り替わる。



 御堂さんが裏切ったとしても、この思い出は御堂さんが裏切るまでは、嫌な思い出にはならない。

 そう考えたら楽になって来た。



「これからご飯食べに行かない?」


 僕は気が付けばそう言っていた。


「でも、ご飯食べたばっかり……いえ、食べに行きましょう」



 僕の狙いに気が付いたのか、御堂さんはそう言った。

 僕にとって、何の選択が正解かは分からない。

 でも、今回は前回の選択をなぞっていけばいい気がした。

 それで僕が倒れることがあるかもしれない。



 だが、今の僕は大丈夫。

 根拠はないが不思議とそう言う自信に満ち溢れていた。


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