第56話 滑り台
その後、僕たちはもう一周滑り台を満喫した。
だけど、少し遊び過ぎたのか。そこに紅葉ちゃんがたっていた。
「お兄ちゃん酷いよ」
「鈴美行こう」
僕は鈴美の手を取る。
こうなる事だけが、僕の懸念点だった。
逃げないと、ややこしいことになる。
後で僕が怒られたりするのは別にいい。だけど、それに鈴美を巻き込みたくない。
「行こうよ」
「うん」
鈴美は僕についてくる。斜め後ろを歩いて。
次行く場所は決めてない。だけど、直ぐにこの場から離れないと。
「お兄ちゃん、ボクとも遊んでよ」
遊んで、か。
それは嫌だ。
「僕は紅葉ちゃんとは遊べない」
そして、鈴美と一緒に移動する。
受かった先は、所謂流れるプールだ。
ここは、水の流れがある。軽い川のようになっている。ここでは浮き輪を付けていても泳げるようになっている。
僕は鈴美と一緒にここに来た。
芹原が来たらややこしいことになる。
だけどそれは来てしまった時に考えればいい。
鈴美は「ちょっと待ってね」と言って、ボールを膨らませる。某モンスターゲームの入れ物のボールだ。
「浮き輪替わり」
「いいな」
僕はそう頷いた。
そして鈴美はボールを掴みながらぷかぷかと浮いている。その姿がなんとなく可愛い。
「楽しい?」
「楽しいよ、やってみる?」
「うん」
そして鈴美から渡されたボールを使い水に浮く。
そして鈴美は周りをキョロキョロと見る。そして、人が周りにいないことを確認したからか、僕と同じボールを共有して。
「これから大事な話をしよ」
と言った。
壮大な家で計画の最後の詰めだろう。
「うん」
僕は頷き、一瞬水の中にもぐった。
いよいよだ。いよいよ三日後に迫っているのだ。
勿論大まかな計画についてはもう話は住んでいる。
「それにしても私、陽太君と一緒に寝たかったんだ」
「僕もだよ。芹原なんかと寝るよりもね」
勿論ここで言う一緒に寝たかったは、隣同士で寝るだけの事。何かの暗喩とかではない。
「私、今ね、陽太君を助けるという気持ちよりも、陽太君と一緒に暮らしたいという気持ちが大きいんだよ。なんかこんなこと言っちゃうと、陽太君の今の状況を軽んじているように見えちゃうけど」
「大丈夫。僕も同じ気持ちだから」
「ありがとう」
鈴美に小さく頭を下げられた。
お礼を言うのはどう考えても僕の方だ。
今回、鈴美がいなければ何も行動を起こせないから。
その瞬間ボールが二人の体重を一心に受け止めたせいか、水中に一気に沈んでいく。
そのせいで、ボールを掴めなくなり、ジャポンと、水の中に沈む。
「ぶはっ」
「はあ」
僕たちは水上に急いで脱出をした。
「死ぬかと思った……」
「私も、水沢山飲んじゃった」
「同じく」
僕はプール沿いの排水溝に唾を流す。
「なんか楽しいね」
「え?」
「だってさ、こんなイベント楽しいし」
僕は一巡思考を回し、「そうだね」と言った。
「あー、陽君」
大声で叫ぶ人物が一人、芹原。
遂に見つかっちゃったか。
さて、どうしよう。逃げたいけれど。
「今日陽太君は私の物だから、芹原さんには渡さないよ」
「ええ、同じ人が好きだっていう仲間なのに」
「そう言う話じゃないでしょ」
「えー」
「陽太君行こ」
「あたしの事、えななんって呼んでもいいんだよ」
「呼ばないから」
結局その後、特に大した事件も起こらずに、プールは終わった。
いや、事件と言えば、
「一緒に泳ぎたかったなあ」
そう、芹原に帰り道に言われたことだ。
だけどそれはそこまでは気にはしなくてもいいだろう。
だけどその時は気がついて無かった。これからもっと大変なことになるとは。
その日の夜。唐突に異変は起こった。
ベッドの中に芹原が潜り込んでいた。
しかもそれだけではない。さらに問題な事がある。
「陽君」
そう言って僕に抱き着いて来ている彼女が裸だという事だ。
やらかしたかもしれない、と僕はすぐに思った。
芹原が嫉妬している。
そう、今日僕と鈴美が一緒にいたという事でだ。
このままだと本当に子どもを作られてしまう。
僕は、起きていることを示すのが正解なのか、それとも黙っているのが正解なのだろうか。
僕はとりあえず寝たふりを継続していくことにした。
もし本当に襲われそうになったら、その時に行動すればいい。
今はとりあえず、至高をまとめさせて欲しい。
そもそもなんで裸なんだよ。
「ねえ、陽君起きてる?」
僕は無言を貫く。
何も話したくない。
「起きてるでしょ。心拍数速くなってるもん」
くそ、ばれていたか。心拍数はどうしても隠せない。
心臓の動きはコントロールできないのだ。
「ねえ、胸擦り付けるよ」
うわ、勘弁してほしい。
「どうしたの」
僕は訊く。正直何も芹原の口からは利きたくない。
「んっとね、寂しくなっちゃって」
辞めて欲しい。
「僕は今、芹原と寝たくないんだけど」
「ええ、知ってる。でもさ、あたし寂しいの」
きゅるん、なんて効果音でも出そうだ。
「知らない」
僕はそう言って布団を上げる。
「勘弁してほしい」
僕はベッドに座りながら言った。
芹原はぎゅっと唇を結ぶ。
「そう言う事だから」
「おっぱいだよ」
「そんな色仕掛けもう、無駄だから」
そもそも今日芹原の胸は見てきていたわけで。
勿論水着こしだけど。
「僕は疲れてるから。寝させてほしい」
僕はそう言って強引に横になった。
「芹原は、僕を一回だけならずに甲斐も裏切った。そんな人をもう好きになる理由なんてない」
「でも、あれは陽君を好きだから」
「それを好きとは言わないんだよ」
三日後と言わず、今日にでも家を飛び出したい気分だ。
だけど、それはきっと叶わない。
僕は目を閉じた。
頼むから、諦めてくれ、芹原恵奈。




