第5話 デート
アラームが鳴り、目が覚めた。日曜日の朝だ。
……正直デートに行きたくない。
その気持ちは何も変わってはいない。
そう、あれから色々と考えを巡らせても。
もしかして、誰かついていかせるべきだったか?
そしたらデートという形じゃなくなる。
……いや、友達がいない僕にその選択肢は取れない。
本当に嫌だ。なんだか起きたくない。布団にこのままくるまっていたい。
目が覚めたのだから起きなければならないことは分かっている。
だが、不思議と起きる気にはならないのだ。
そう思ったらまた眠たくなってきた。
「は!?」
目が覚めた瞬間、二度寝していたことに気付いた。今は何時だ?
近くのスマホを触る。
えっと、十一時か。
十一時!?
いや、待て待て、待ってくれよ。たしか……待ち合わせ時間が十時だったはず。
という事はすでに一時間の遅刻という事になる。
無論、ドタキャンしてもいいのだが。それは性に合わない。それは、『逃げ』の行動になってしまう。
僕は、急いで服を着替えて、髪の毛を整えて出発した。
この感じだったら着くのは十二時と言った所か。
ただでさえ行きたくないのに、大遅刻して行くのか。
あー、これ終わったかもしれない。
本来なら彼女に遅刻する旨のメールを送るべきだ。だが、不思議とそれは送れなかった。
恥ずかしいことに返信が怖かったのだ。
こうなったら心の中で謝りながら、行くしかない。
いや、待てよ?
ドタキャンしたと思って、帰っている可能性もある。
そしたら僕が行く意味も無くなってすぐに帰れる。
我ながら中々のクズの思考な気がするな。うん。
そして電車を降り、待ち合わせ場所についた。
そこで僕は驚いた。
「御堂さん……?」
「あ、来た来たまったよーー」
そこにいたのはまさかの人物なのだから。
いや、勿論いて当然なのだ。
だが、どう考えても二時間待った人の言葉ではない。
僕なら怒鳴り散らかすし、そもそもその前に帰っている。
化け物かよ。俺はそう口にしそうになって止めた。
女子の怒りを買ってはいけない。
「じゃあ行こっか」
「……」
僕はただ進んでいく彼女の背を追って進んでいく。
本当に意味が分からない。なぜ、二時間も待たされて笑顔でいれるんだ。
本当に化け物としか思えない。一体どうなっているんだよ。
だけど、よく考えたら、早く来てといった類の催促のメールは一件も来ていなかった。
僕が遅れてても来る、という事を信じていたのだろう。
僕はそんな彼女にただ無言で着いていく事しか出来ない。
そして連れられた場所は、カフェだった。
「待ち伏せなんてしてないですよね」
僕はぼそっと、彼女に訊く。
「だーいじょぶ。何を心配してるのよ」
そうは言うけども、心配だ。
二時間待ったのは、僕をいじめるため。
そう考えたら二時間待つ動機もうなずける。
「というか、カフェなんだね」
「カフェっていうか、レストラン兼カフェだね。どうせ朝ごはん食べてきてないんでしょ」
図星だ。朝ご飯なんて、ほぼ食べていない。
冷蔵庫の中にあったヤクルトを飲んだだけだ。それも食べたとは言わないと思うが。
そしてゆっくりと、椅子に座る。
「私は朝ごはん食べてきてるから、カフェラテ頼むね、陽太君は何を食べる?」
そう笑顔で聞く御堂さん。
さて、僕は何を食べたいのだろうか。
正直この前ハンバーガーセットなんて頼んでしまったから金欠だ。
あまりお金を使いたくはない。
それに、今日はカツアゲされる可能性も考えてそこまで多くのお金を持ってきてない。
「じゃあ、僕はこの、ソーセージで」
三百円だ。これならお金の心配なんていらないだろう。
「だめだよ。もっと食べなきゃ」
「へ」
「そうだ、私がここは出してあげる。というか今日は全部私が出してあげる」
「はあ?」
意味が分からない。
「誘ったのは私だもん。あ、注文良いですか?」
そう元気に言う御堂さん。
「えっとこのソーセージと、ハンバーグランチセットをください、あとカフェラテを」
ハンバーグランチセット。九百円もする品だ。計1200円だ。
それも僕の承諾もなく。
「頼んどいたよー」
「……人の話聞かないで、頼むの悪癖だと思うよ」
僕はどちらかというとハンバーグよりも、ドリアの気分だったし。
「いいじゃない。私が出すから」
「分かりました」
僕は軽くため息をついた。
そう言えばまだ吐き気を催していない。
前回は吐き気どころの話じゃなかったのに。
御堂さんのおかげで少しマシになってるのか?
そう考えたら少し複雑だ。
そして、ハンバーグが来た。思ったよりも大きい、これ食べきれるのか?
食べきれなかったらどうしようか。
ストーカー女のせいなのはそうなんだけど、それを言うのは癪だ。
僕は元来少食派だ。家にお金があまりないという事もある。
母親のせいだ。
「いただきまーす」
僕はハンバーグをナイフとフォークで突き刺し、少しずつ食べていく。
うん、美味しい。最近外食なんてほとんど行っていないから新鮮な気分だ。
それがこの人とのお金からというのは少し癪だが。
とはいえ、このご飯代の1200円はバイトで一時間以上働かなければ手に入らないお金だ。
そんなお金をポンっと出せる人。
この人は単に家が太いのか、それともバイトを沢山頑張っている人なのか。
だが、どちらにしても変人なのは変わらない。転校してきたばっかりの僕にご飯をご馳走してくれるんだから。
「食べながらでいいから聞いてね。じゃじゃん!!!! 今日はなんと、遊園地に行きます!!」
は? 遊園地?
「少しだけ誰かさんのせいで予定が狂ったけど、仕方ない仕方ない。さて、遊園地のお金は私が出すから安心してね」
「ちょっと待ってくださいよ」
遊園地なんて、それこそ危険だ。
性悪そうな女が沢山いる場所だ。
しかもあそこは芹原とデートした悪い思い出が残ってしまっている。
そんなところに行って無事に帰ってこれるわけがない。しかもとある都市伝説によると、入場者数と、退出者の人数がおかしいとかなんとか。行くわけがない。
「僕は行きたくない」
「えー、行こうよー」
そう言って彼女は僕のもとに行き、手を引っ張ってくる。
「うわあああああああ」
急に吐き気が来た。
今日は大丈夫だと思ったのに。
吐くまでは行かないが、普通に気持ち悪い。
「僕に触らないでくれ。蕁麻疹がひどい」
僕の体毛が際立ってしまっている。
流石に、触られるのはまだ無理だ。
「それはごめん」
「僕は、君のそのよくわからない行動は何とか耐えられるようになった」
あくまで耐えられるという事だけだ。苦痛を若干感じるのは変わらない。
今だってできる事なら家に帰りたいと思っている。
「ただ、触られると、トラウマがぶり返すんだ」
芹原とつないだ手、だが、それは偽りの手だった。
男子とは違う、女子特有の手の感じがまだ慣れないのだ。
「君は芹原のとは少しだけ違う声質だから君の声に耐えられているだけなんだ」
「芹原さん……」
しまった。そのことに関しては知られたくなかった。
ただ、ハンバーガー屋さんで、もう僕の過去は知ってる的な事を言っていた。
なら、もうどちらにしても手遅れという事か。
「うん、分かったよ。セルフで接近禁止令を張っとくね?」
「ああ、その方が助かる」
そして、ご飯を食べ終わった後、半場強引に遊園地に連れてこられた。
「なあ、本当に入らなきゃダメか?」
女子の気配がおぞましい。この中に入ったら死ぬ気がする。
「せめて、映画とか、そういう物にしてくれないか」
しかも、形はデートだ。
こいつと一緒のジェットコースターに乗って、こいつの叫び声を聞かされるのも嫌だ。
だが、そんなことを言ったら映画も、きっとこいつは感想を早口で言う気がする。
どちらの方がましかという話だ。
ああ、吐きそう。なんでここに来てしまったんだ。
「だめ」
しかも断られたし。
「帰りたい」
「本当に帰りたいなら帰っていいけど、たぶんまだいた方が良いと思うよ」
「はあ、なんで?」
「今のままは嫌でしょ」
僕はその言葉には何の言葉も返せなかった。
「それに映画に比べたら絶対にこっちの方が楽しいよ。それにこれ」
「なに?」
「チケット取ってあるの」
そう言って御堂さんは微笑んだ。
ああ、もうチケット取ってたのか。
完全に計画に乗せられている。
チケット約6000円。二人合わせて12000円。
今から行かないと言ってしまうと、この12000円は無駄になってしまう。
このチケットはただの6000円のゴミになってしまう。
くそ仕方がない。こうなったらとことん付き合うしかない。
こうなったらどうにでもなれだ。




