表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
壮大な嘘告白をされ人間不信になった僕、後ろの席の女の子が付きまとってくるようになる  作者: 有原優


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/81

第45話 仲間

 動物園。そこには多くの動物がいた。

 と言っても、動物園なのだから当然なのだが。


 そこにいる動物たちは皆のんびりしている。

 楽しく生きている。そんな感じがした。

 それを見ていると、少しだけ自分が嫌になる。



 芹原におびえている僕自身が嫌になる。


 はあ、ともうひとため息ついた。

 きっと、おそらくたぶん、先程の逃走の話は、鈴美の僕の気を和らげるための話なのだ。


 現に逃走の話は考えれば考えるほど、非現実的な話だ。

 だけど、もしそれが可能ならなんと楽しいだろうか。

 だけど、僕は今も芹原を恐れている。


 その瞬間足に震えが来た、

 思い出したのだ。あの家の恐怖を。


「どうしたの?」


 鈴美が優しく聞いてくる。僕のため息が聞こえたのだろうか。


「僕が惨めに感じてきたんだ」


 惨め、そう惨めだ。僕の姿が惨めだ。芹原におびえ、真実を誰にも伝えられない。

 鈴美から距離を取ろうとした僕が嫌になるのだ。


 自由なはずなのに、今の僕は決して自由ではない。

 芹原の作った、心の牢の中にいたのだ。



 僕はちらりと、鈴美の方を見る。


 彼女は今必死に言葉を探している。そんな様子だった。

 ああ、鈴美に気を使わせてしまっている今の僕も嫌になる。


 そして僕は鈴美を真っ直ぐに見た。


「私……」


 鈴美は静かに言う。


「私って今まで力不足、だったよね」


 思ってもみない言葉が飛んできたから驚いた。


 力不足?

 鈴美は力不足だと、思っていたのか。


「僕は……鈴美には感謝してるんだよ。ずっと」


 鈴美は力不足なんかじゃない。ずっと僕の心の助けになっていたんだから。


「僕は鈴美に助けられてきた。だから、もう鈴美が巻き込まれないように距離を取ったんだ。芹原に脅されたしね」


 鈴美は優しい。だからこそ、この長い道に巻き込みたくなかったんだ。

 それを説明しなければならない。

 鈴美から、意味もなく距離を取った訳じゃないことを。


 これから起きるであろうことを。


「だからこそなんだよ。僕の事に関わったら鈴美はきっと苦しむだけだよ」

「はあ、何それ」


 鈴美が怒ったかのような表情を見せる。その勢いに僕は軽く後退りをした。


「陽太君に何があったかは言葉場でしか知らないけど、そんなに私に関わって欲しくないんだ」

「違う、そうじゃないんだ」

「そうでしょ。学校でも私に話しかけてくれなくなったじゃん。今日は半強制的に連れ出したけどさ。私がこういわない限り、自分一人で抱え込もうとしてたってことでしょ」


 ああ、確かにそうだ。

 僕は一人で、この咎を背負うつもりだった。


「前、鈴美も誘拐されたじゃん」


 僕はぼそっと零した。


「その時の記憶があるから、鈴美を巻き込みたくないんだ」


 あの時、僕に関わったせいで。鈴美は苦しんだ。

 暴行を加えられた。

 あの時は、部分的に解決していた。だからこそ、あの時は何も思わなくなった。


 だけど、また芹原や母さんが攻めてきた。

 そんな中、芹原が脅しをかけてきた。


「だから僕は、一人になったらいいんだよ」


 もう、父さんも姉ちゃんも助けを借りられない。

 僕に残された手はほとんどないんだ。


 殺気の鈴美の逃避行。確かに漫画みたいでいいなあと思ったが、それをするなら父さんの所に逃げ込めばいいだけの話だ。そして、それが出来ない理由も既に知っている。

 父さんが、脅されているのだろう。弱みを握られているのだろう。

 もしかしたら、僕の事だろう。


「実はさ、芹原に脅されているんだ。これ以上鈴美と一緒にいたら、鈴美に酷いことをするって」


 言い方としては、夜道に気を付けてくださいね的な感じだったが、ニュアンス的には変わらないはずだ。


「本当、酷いよね」


 鈴美の怒りは収まっていないようだ。

 その声には、怒りと悲しみがこもっている。


「ひどい?」

「ひどいよ。一緒に戦おうって決めたのに」

「確かに決めたけど」


 決めたけれど、そうだとしても。

 でも、僕は。


「でも、もう芹原に鈴美を傷つけられたくないんだ」



「私にとってはさ。もう、陽太君は他人じゃないんだよ。他人じゃない。大切な人なんだよ」

「大切な人……」


 大切だなんて言われても……。


「僕は、鈴美を失うのが怖いんだよ。そう言ってくれるからこそ」

「じゃあさ、失うのが怖いなら自分から遠ざけようって? 陽太君、色々矛盾してるよ」

「矛盾か」


 たしかに僕は矛盾している。


「僕の気持ちは複雑なんだよ」


 そう言って拳を握り締める。


「芹原に脅されて、しかも恐ろしいことを妹に言われて」


 あの死体の事だ。


「僕の頭はもういっぱいなんだよ。もう、何も考えたくないんだよ」


 楽な方に逃げたい。

 反撃するんじゃなく、一人で抱え込んだ方がいい。


「僕はもう無理なんだよ。考えることに疲れたんだよ」

「陽太君……」


 鈴美が僕を真っ直ぐに見る。


「分かるよ。陽太君の気持ちは」

「分からないだろ」


 鈴美に酷い言葉を吐いてしまう僕が嫌になる。


 だけど、考えることがいっぱい過ぎて、色々と混乱しているんだ。

 今の僕にはまともな思考なんて不可能にすら思える。



「分かるよ」


 鈴美が、叫ぶ。


「分かるよ。理解させてよ」


 鈴美はそう言って僕にでき着いてくる。


「え?」


 僕はそう言葉を漏らした。理解が追い付かない。

 鈴美に抱き着着られている今の状態がそもそも、理解不能なのだ。


「どうして?」

「こうでもしないと、素直になってくれないかなって」

「素直?」

「元の、陽太君にってこと」



 元の、僕。


「今の陽太君は色々思考がごちゃごちゃになってるだけ。シンプルに考えよ」

「シンプルに」


 そう言われても。


「陽太君は、本当に私に一緒にいて欲しくないの?」

「いて欲しくない?」


 そりゃいて欲しいよ。


「まず、私の気持ちから言うね」

「鈴美の気持ち?」

「うん」


 鈴美はそう言って唇をギュッと噛む。


「私は好きだよ。陽太君の事」


 告白?


 僕は、その言葉に固まった。


「なんで?」


 好きという言葉に、僕は上手い事理解が出来なかった。



「友達として?」

「ううん、異性として」


 僕は、はっきりと言った彼女の言葉に、

 息を軽く吐く。


「僕は驚いているんだ」

「なんで?」

「君が突然そう言うから」


 そう、いきなりすぎるのだ。

 突然そんなことを言われて驚かない人間なんてどこにもいない。


「だから、なんだ」

「何が?」

「陽太君の苦しんでいる姿を見たくないのは」

「っ僕はその言葉になんて返せばいい」


 僕は返事の仕方を知らない。


「返事なんていらないよ。ただ、陽太君が大事な人って言いたいだけ」

「っそうか」

「だから、陽太君を守りたいんだよ」


 だから僕を守りたい。



 僕には返事の仕方なんてわからない。


 だけど、


「僕もだよ。僕も鈴美と一緒にいたい」


 小さく返す。僕の気持ちも一緒だ。

 鈴美は芹原のように裏切らない。

 逆に今から裏切ったら、僕は驚く。

 それこそ、僕に親を殺されてないと、思い浮かばない話だ。


 いや、僕はそう言う事が言いたいんじゃない。



 僕にとって鈴美は大切な存在なんだ。


「鈴美は、僕の大切な、大切な人だ。お父さんよりも大事な人だ」


 それは別に父さんを貶すような意図はない。

 だけど、大切度を知らせるために悪いけど利用させてもらおう。


「鈴美の事が好きだよ。でも、だから」


 だから巻き込みたくない。

 それが本当の僕じゃなかったとしても。


「もう! 巻き込ませてよ。両想いなんだったら。わたしにも背負わせてよ」

「でも」

「でもとかいいから!!」


 でもとか言い?


「私を信じてよ」


 僕は本当に鈴美を信じていいのだろうか。


「もう、迷わせなんてしない」


 鈴美はさらに強い力で僕に抱き着く。


「わたしは漫画のヒロインみたいに、守られるだけじゃないよ。今までだってそうじゃん」


 今まで。確かに鈴美は、今まであらゆる手で守ってくれた。

 そうじゃないか。僕は元々鈴美にばかり守られていた。


 僕が鈴美を守ろうだなんて、烏滸がましい考えだったのだ。


「それに、芹原さんにいくら嫌な目に逢わされても、陽太君にその分甘えるから」

「……うん」


 そして鈴美は、ハグを解除し、僕の手をギュッと握ってくる。

 鈴美の自己責任。と言ったら言葉が悪い。だけど、そのようなものだ。

 何しろ、僕たちは互いの責務を一緒に背負っている。

 勿論、僕が一方的に背負わせているだけなのだが。


 そして気が付けば、僕たちはかなり目立っていた。

 かなり恥ずかしい。

 バカップルと思われてしまったか。


 だけど今はこれでいい。鈴美の温もりを感じ、そう思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ