第41話 顔合わせ
その後、直ぐに僕は母さんの家に送られることになった。
翌日に、『私の家に来なさい』とだけ、手紙が送られた。
父さんと、姉ちゃんに謝られた。
そしていつか、取り返すとも言われた。
でも、そんな事、僕にはどうでもよかった。
だけど、その時には僕はもう、諦めていた。
抗う事を、もうあきらめた。
この場から解放されることを諦めていた。
そうだ。
素直になればいいのだ。
もし今度また裏切られたらその時に、ショックを受けたらいいのだ。
かなり消極的な考えだ。
だけど、僕は一度芹原を退かせた。
だけど、退学処分だけになってまた、僕に襲い掛かってきた。
諦めたほうがいい。そして、高校を卒業後に、大学に行かずに就職する。
そして、周りとの縁をほとんど切って、ひそかに暮らしていけばいいのだ。
最高までもっていくのではなく、次悪へと持っていく。それが、今の僕には大事なのだ。
僕だってわかっている。この選択が間違っていることを。
「いらっしゃい、愛しの息子よ」
そう、母さんが言う。最後に見た時よりもだいぶ老けている。
しわも増え、髪も白くなりつつある。しかしそれでも、実年齢よりも若く見える。だいぶ若作りをしているなと、感じた。
だけど、それでも。
「ただいま」
そう、僕は心なき言葉を発した。
「おかえり」
その声は、誰の元からだろうか。上にいた小柄な少女だ。
「お兄ちゃん」
見知らぬ少女だ。
中学二年生くらいだろうか。
童顔であり、髪色は奇麗な金髪だ。そして、目の色は緑かがっている。見るからにハーフだ。
そして、髪の毛は後ろで一つでくくられている。
「ボクがお兄ちゃんの妹だよ」
えへへ、と笑みを浮かべて来る。
その顔は無邪気に見えた。
「誰?」
「ひどいよお兄」
お兄なんて、漫画でしか聞かない。
ブラコン妹しか言わないセリフだ。
「ボクはお兄ちゃんの妹の、竹沢紅葉だよ」
竹沢紅葉か。
可愛らしい名前だ。だけど、その実態はきっと、恐ろしいのだろう。
何しろ、あの女の娘だ。
はあ、と僕はため息をつく。
「よろしく」
そして、くるっと二回から飛び降り、着地した。
身体能力化け物だ。
そして、僕の前に立ち、「会いたかったー」とハグされた。
これも、一般的な、特殊じゃない状況ならうれしいんだろうな、と。勝手に思う。
何しろ、生き別れの妹が、会いたかったとハグしてくる状況なのだ。
だけど、本当にいい人、だなんてことがあるだろうか。
さっきも言ったが、あの女の娘だ。
あの女直属に育てられたのに、良い人なわけがない。
これは、僕があの女の事を嫌いだから、だろうか。
「じゃあ、次は私の番だね」
その裏にいた少女が僕に手を振る。
「私もいるよ、陽君」
芹原もいるのだ。
なんでいる、なんていう分かり切ったツッコみなんてわざわざしない。
何しろ、いるだなんてことは分かっている。
あの体育祭の時の出来事と、芹原の自称悲しい過去のせいで。
「この人が引き取ってくれたの」
そう言う話か。
「あたしの本当の親に交渉してくれたの。そしたらあっさりと、美奈さんに養育権を譲ってくれたの」
美奈、とは僕の母さんの事だ。
こんな都合のいい、いや悪い話なんてない。
きっと僕を懐柔するために、芹原を使ったのだ。
そしてこの人、母さんには恐らく、情報は正しく伝わっていない。だろう。
「さて、最後は私ね」
美奈さんが言う。
「私は、貴方の母さん、知ってるわよね」
「うん、知っている」
吐き気がする。
「ようやく私の元に帰ってきてくれたわね。あの日は悲しかったわよ。あの人の元に行くなんて」
あの人、つまり僕の父さんだ。
「だからこれからは私が愛してあげる。今までずっと愛せてなかった分、ね」
その言葉は僕にとっては悪魔の宣告だ。
でももういいや。
迎合すればきっと、なれるよね。
慣れちゃうよね。
そう、僕は勝手になれるのを待つだけだ。
この絶望が普通になるように。




