第四十話 これから
そのまま閉幕式を迎えた。
体育祭の順位自体は一位だった。
これは、僕の活躍もおかげあったのではないかと、ふと思った。
そして、長きにわたる文化祭は終わった。
だけど、僕たちの戦いはこれからが本番だ。
そう、僕はこれから母さんに立ち向かわなければならない。
本来ならここから帰るだけなのに。困ったものだ。
「陽太君、行こう」
鈴美は僕に、優しく言った。
「それとも黙って帰っちゃう?」
「いや、まずは父さんの所に行きたい」
そこに行けば、母さんに関する話を聞けるだろう。
芹原……芹原に関しては無視だ。
今、彼女と話すこと自体、時間の無駄なのだから。
「分かった、行こ」
そう、鈴美が僕の手を取る。
僕は、そのまま鈴美に連れられて行く。
「父さん」
僕は父さんに声をかけた。
「父さん、話があるんだけどいい?」
「母さんの事か?」
即分かったようだ。
僕は小さくうなずいて見せる。
「どういうことなの?」
僕が訊くと、父さんは顔を俯かせ、
「僕が悪いんだ」
そう、父さんは小さな声で言う。
「だけど、安心して欲しい。僕はあいつとよりを戻す気はない」
「なんで、母さんは、あいつはここに来たの?」
「芹原恵奈に呼ばれてきたらしい」
芹原の言っていた通りだ。
「つまり、母さんがここに来たのは芹原のせいだという事なのか」
「うん。勿論僕は断ったよ。でも、その執着心は想定外だった」
「つまり母さんは」
「ああ、お前が狙いだ」
僕は父さんの実の息子ではない。
母さんの実の息子だ。
だけど、家族は血のつながりだけではない。
いや、血のつながりよりも大事なものがある。
「僕は母さんのもとに行く気はないよ」
「それは知っている。でも」
あの人に引き下がる気はないのか。
「父さん。僕にはなんでこんなに、女に狙われるんだろうね」
そう言って僕は自嘲的な笑みを浮かべた。
「ひどい、私の事も酷い女だと思ってるんだ。しくしく」
鈴美はそう言って泣きまねをして見せる。
「なんてね、私はそんなふうには思ってないよ。だって陽太君は実際に女運悪いし」
僕は頷いた。
「だけど、そんな私にも守りたいものはある。もう陽太君の悲しむ顔は見たくない」
「明日からもまた警戒だね」
「うん」
浮かない気分だ。
そんな僕を見て、父さんは息を吐く。
そして、申し訳なさそうに一言。
「ごめん」
頭を下げた。
「僕は陽太を守れないかもしれない」
「どういう事?」
「養育権を取られるかもしれない」
その父さんの話によると、実は水面下で裁判が進んでいるらしい。
なぜ、僕にそのことを言わなかったのかは、僕に入らぬ心配をさせたくなかった。だけど、ついに負けそうになったから、念押しで母さんはここに来たのだ。
「ただ、あっちの訴えも、僕が満足に教育が出来てないという、無茶なものだったし、陽太も高校生だから、大丈夫だと思ってたんだけどね」
そう言って父さんは肩を落とす。
「向こうの弁護士がそうとうやり手みたいでね」
「僕の意志は尊重されないの?」
「されるはずなんだけどね」
僕にはそこら辺の話はよく分かっていない。
だけど、要は。この決定は「覆せそうにないらしい。
「それ、理不尽じゃない」
鈴美は憤慨する。
「理不尽だけど、どうしようもない事なんだ」
父さんは基本気が弱い。
そう言う事なのだろう。
だけど、そんな父さんが言う事だ。まだ、逆転の一手はあるだろう。
そもそもの話、父さんがこの条件で負けるなんてことがあるだろうか。
僕の意志が介入しないなんてことがあるだろうか。
あんな、母さんに対して強硬姿勢を取っていたのに、急に弱気だし。
父さんも、僕に何か隠し事をしている。
そう、感じた。
「分かったよ」
僕はそう言った。
「父さんが何を隠しているのか分からないけど、高校卒業まで耐えてみせるよ」
高校さえ、卒業できれば、後はどうにでもなる。
「ありがとう。ごめんな、だめな父さんで」
再び頭を下げる。まだ、確定事項ではないはずだけど。でも、ほぼ確定みたいだ。
体育祭の後に、こんな事件が待っているとは。
あの時、あんたなんか息子じゃない、と言ったのはどういう事だったのだろうか。
僕にはわからないよ。
「陽太、本当にごめん」
姉ちゃんが謝った。
「私、知らなかったの。ずっとお父さんとお母さんがもめてるってこと」
「僕もだよ」
「私、だめなお姉ちゃんね。だって、貴方を守れなかった」
その言葉に僕は何も返すことが出来なかった。
姉ちゃんの頭を下げる姿をただ、見ていることしかできなかった。




