第39話 芹原
「どうやって入ったんだ?」
「簡単よ。陽君のお母さんのおかげではいれたの」
あいつのせいか。
「よく、退学になった高校の文化祭に入れるな」
僕は睨む。
強い態度を取っていないと、吐き気で死んでしまいそうだ。
「退学じゃなくて転校だよ。退学は、自主退学してって言われただけだし」
「それは関係ないよ」
だめだ、足が震えている。
スマホを持たずに出て行ってしまったことを後悔している。
そのせいで、助けが呼べない。
「大丈夫? 陽君。足が震えてるけど」
大丈夫って、どの口が。
君のせい、なんだから。
「まあ、あたしも流石に反省したよ。流石に誘拐はやり過ぎた。警察が出てきちゃうしね。だから、あたしは諦めたよ」
「何を?」
「絶望させることを。もう、反応が薄いからいじめても面白くないし、味方が出来てるからすぐに助けられるしね。だからさ」
舌をなめる。
「付き合ってください」
「は?」
声が漏れてしまった。
「もう、変な事はしないから。あれから相原さんと離れて気づいたの。陽君を虐めようと言ったのは相原さんが始めだし、あたしももう罪悪感がすごくて反省したよ。今までごめん」
今の芹原は、どちらだろうか。
一回、謝ってこられた時があった。
あの時は、謝罪を貰えた。が、その後豹変した。
相原と一緒に僕を虐めるようになったのだ。
「先生を呼びますよ」
「好きにして。それが陽君の選択なら」
自身の右手を押さえながら言う。
「でも、あたしの気持ちは受け取ってね」
「っああ」
ああ、とは言ったけれど、僕の気持ちは気が気ではない。
本当にどうしろというんだろうか。
席に戻る。
「何かあった?」
鈴美が訊く。
「ちょっと寝たい」
僕はそう返した。
もう何も考えたくない。だけど、考えないわけにはいかない。
もうこの状況から逃げたい。
僕は目を閉じた。
★
でも、寝続けるわけにはいかないらしい。
「陽太君」
「陽太君出番だよ」
その、鈴美の言葉で目が覚めた。
そうだった、体育祭の最中だった。
長い。体育祭が長い。
でも行かなければならない。
僕は階段を下りる。ああ、だめだ。上手くできる気がしない。
でも、もはや足を引っ張ることはどうでもいい。
どうでもよくはないんだけど。
でも、今の脳内には芹原と母さんにどうやって対抗するかのみしかない。
「あ」
ボールが僕の頭上を飛んでいく。
一瞬気づくのが遅れた。
でも、僕は頑張ってボールを何とか取る。
取るのがやっとだ。
同様がひどすぎて、まともにプレイに集中できない。
だめだ、僕は確実に足を引っ張る。でも、五回までやらないと交代できないし。
最悪過ぎる。
僕は本当にどうしたら。
「鈴美」
僕は小さく呟く。もう少し話をしたかった。
僕は本当に正解の選択肢を取れているのだろうか。
僕の所にはボールが飛んでこなかった。安心した。
だけど、安心しても今の状況が変わるわけじゃない。
僕は対抗しなければならない。
ぼろぼろの心を奮い立たせ、何とか行動をする。
体は僕の言う事をあまり聞いてくれないけれど。でも、そんなの言い訳ずるのは恥ずかしい事だ。終わった後、いくらでも倒れ込んだらいい。だけど、今だけはだめだ。
動いてくれないと。この気持ち悪さをどうにかしないと。
「うおおおお」
僕は目の前に堕ちそうになっていたボールに対し、スライディングキャッチを決めた。
「よし」僕はガッツポーズを決める。
そうでもしないと。僕の気持ちは収まらない。
幸運なことに。そのおかげで僕の気持ちは奮い立った。
そう、気持ちが高揚して、母さんや芹原の事を忘れられた。
僕はバットを握る。第一打席。ランナーなしだ。
豪快なスイングを一つ。からぶった。それはもう盛大に。
だけど、諦めない。二球目も豪快なスイングだ。
ああ、そうだよ。僕の今やっていることは、良くない事だ。
初心者の僕がこんなことをしても、当たるわけがない。
だけど、そうじゃなかったら、僕はどうやって、ストレスを発散すればいいんだ。
この不安をどうやって発散すればいいのだろうか。
「はああ」
僕はもう一度スイングする。
バッドに当たるも、ファールだ。
当たった。当たったよ。
奇跡的案物かもしれない。次は普通にカラぶるかもしれない。だけどいい。僕はこれを振り続ける。
そして次のボール。
バットに当たった。
その瞬間ガッツポーズを決めた。
何しろ、いい当たりだったのだ。僕は、二塁まで行けた。
バッティングセンターにも行ったからなのだろうか。
僕の打撃が覚醒している。
あんなに嫌だった野球も、ストレス発散のために大分役立つ。
スポーツをすると気持ちよくなれるとはよく言うけど、こうなるんだな。
結局僕は、帰れなかった。
ホームベースに帰ることなく、二人目のアウトをとらえたからだ。
僕の頑張りはこうして無駄になった訳だけど。でも、元々の僕の目的から考えれば、早く負けたほうがいいのだ。
だけどベンチで大勢で出迎えられた。
「スポーツできないと思ってたけど、意外とガッツがあるんだな」
そう、サッカー部の大竹君が行ってくれた。
「ああ、これならもう少し上の打順で使っても良かったぜ」
そう、野球部の佐々木君が言った。
僕は全力で動揺している。
何しろ、僕はそんな褒められるほどの活躍をできていると思えないだから。
でも、運が良かったとはいえ、活躍できてるならうれしい事だ。
結局、そのまま五回が来てお役目ごめんとなった。しかし、試合は無事に勝利した。
そして、次の決勝では6番で使われたが、無事負けてしまった。
決勝では残念ながらノーヒットで終わったのだ。




