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壮大な嘘告白をされ人間不信になった僕、後ろの席の女の子が付きまとってくるようになる  作者: 有原優


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第35話 借り物競争

 しかし、楽しいのはここまでだ。あまり楽しくない競技が始まってしまう。

 それはそう、来るのだ。借り物競争が。

 僕は基本、人見知りだ。だから、話しかけられる自信がない。


 僕は、せめて縄跳びをするくらいなら、という気持ちでこれを選んだ。

 だけど、したいわけじゃない。


 はあ、と。ため息をつく。

 生きたくない。


「がんばって」


 鈴美はそう言って、僕は頷いた。


 鈴美と一緒に降りたかった。だけど、それはかなわない。

 借り物競争に出るのは、僕だけなのだから。



 僕は落ちていく気持ちを喰い占めながら、まっすぐに階段を下りていく。


 鈴美がいないと不安だ。

 一人でなんて耐えられるわけがない。


 そんなことを思うと、過去の嫌な思い出がぶり返してくる。



 虐め。


 僕はもうあんな目には合いたくない。そう、思っているはずなのに。

 なのに、足が動かなくなる。


 そうだ、僕は怖いのだ。失敗して、クラスでの立ち位置を完全に失う事が。

 実際に、僕は好かれているか嫌われているかと言われたら、嫌われていると言った方がいいだろう。


 芹原が全部悪いと言いたかった。だけど、僕のあの過去を全員に話してほしくなかった。



 だから、先生に僕が被害に会ったことは伏せて話すようにお願いしたのだ。

 足取りが重いけど、行かなければならない。

 行かなければ、何も始まらない。

 もっと困ったことになるだけだ。


 僕は、足を前に進め、階段をおいり切った。


 会場に出る。

 皆の視線がこちらを向いているように思え、ますます緊張してしまう。

 だめだ。笑え。怖い顔をするな。

 僕は大丈夫だ。



 それに鈴美も、姉ちゃんも、父さんも来ている。

 僕は今日、かっこ悪いところを見せるためにここに来たわけではない。

 いいところを見せるためにやってきたのだ。


 僕は鈴美に手を振る。

 いざとなれば、鈴美に頼ればいい。


 僕はスタート位置に着く。

 僕は勢いよくスタートした。


 そして近くの紙を手に取る。

 紙の中の物は、人の場合も物の場合もある。

 だけどもちろんの事、持ってこれないと判断した場合、その紙をその場に捨てて、別の紙を取ることもできる。



 ただ、その場合、時間が無駄になるし、良いお題は他の人がかっさらっていく。

 捨てたからと言って確実に多い得になるわけじゃない。


 僕が引いた紙は、どれどれ。


 結論から言うと、簡単なものだった。

 僕にとっては、という言葉がその前に着くが。

 実際、その紙に書いてあったのは、可愛いと思う人、という話だった。


 可愛いと思う人。それは、鈴美を選んだらいいだけの話だ。

 実際に鈴美は可愛らしい。連れて行ってバツなんて言われることは無いだろう。

 勿論、バツなんてつけられたら、僕が怒るだけだ。


 僕は階段を上がっていく。

 皆、全力で上がっているので、ぶつかったりしてこけたりしないかが、今の不安点だ。

 そしてついに、僕たちのクラスの所に着いた。


「鈴美」


 僕は鈴美の手を取る。


「来て欲しい」

「え?」

「可愛い人、来てくれ」


 その言葉に鈴美が頷く。


「それ言われて、着いてきちゃうと痛い人じゃん」


 そう、不満をこぼしながらも、その表情は嬉しそうだった。


「お題は?」

「僕が思う可愛い人」

「ならぴったりだね」

「うん」

「山下さんはだめだったの?」

「え?」


 なぜ、そんなことを言うのだろうか。

 結論から言うと、このお題は女子であればだれでもいいのだ。

 何なら男子でもいい。

 何しろ、可愛いなんて人の価値観に左右される。


 それを否定するという事は、その人をブスと認定しているという事になるのだから。


「悩むんだ」


 僕の返答が遅かったからか、そうニヤニヤとしながら言われた。


「そんなこと言わないでよ」

「ふふ、ごめんごめん」

「僕はまだ、全員の女子が得意になった訳じゃないのにさ」


 鈴美が特別なのだ。そう、僕にとって。


 そんな会話をしていると、無事に地上までついた。

 僕は鈴美を連れて、ゴールテープを狙う。


 もう人は何人かゴールしているようだ。

 だけど、別に一着じゃなくていい。チームの足さえ引っ張らなければいい。

 僕は鈴美を連れ、ゴールテープを切った。


「おめでとうございます」


 司会の人が、笑顔で言った。


「お題は何だったのでしょうか」


 そうマイクを持ちながら喋る司会の方に、

 僕はお題の紙を渡す。


「な、なんとこれは。かわいい人です。かわいい人です」


 そんな連呼しないで欲しい。恥ずかしい。

 隣の鈴美を見る。

 彼女も顔を赤くしている。


「可愛いと思った理由は」

「え?」


 マイクを渡された。


「彼女はいつも健気で、優しいからです」

「だそうです!!」


 そして拍手が起きた。

 ああ、別の紙にしたらよかったかな。


「鈴美、ごめん」

「え? なんで」

「目立たせてしまった、から」


 あんな恥ずかしいマネをさせてしまったし。


「いいよ。一応カップルなんだからさ」

「それはいつまで続くんだよ」

「うーん、宣言してしまってるからなあ。永遠かな」

「せめて学校卒業するまでだろ」


 ふう、と僕は息を吐く。


 


「ねえ、少しいい?」

「どうしたんだ」

「優しいって、基本褒めるところがない人に言う言葉だよ」

「急だったから仕方ないだろ」


 さっきの一瞬ではこれくらいしかなかった。

 緊張してるのだから、許してほしい。


「でも、さっきの綱引きの時の、頑張っている姿は、とても、可愛かった」


 多分僕は、顔を赤くしている。

 そう確信できる。

 心臓の音が、爆音でなっているのだから。


「それを言えば良いのに」


 鈴美は僕の背中を叩く。


「でも、ありがとう」


 そして、笑顔を見せた。

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