第34話 体育祭
そしてついに、体育祭の日となった。
僕の目の前にはホールがある。あそこで競技をするのか、と思うと緊張でどうにかなってしまいそうだ。
高校となれば多少豪華になるもので、学校の体育館なんてちんけなものではなく、外部の建物を借りてやるらしい。
なんとなしに、緊張が走る。
僕の体の中に、別の何かが混ざっているような気持ち悪さがある。
緊張のせいで体調まで崩しているのだろうか。
こんなことなら仮病で休めばよかった、なんて思ってしまう。
例えるならば、女性がまだ苦手だった時の僕のあの気持ち悪さだろうか。
でも、そんな事を思っていてもきりがない。
とりあえず頑張らないと。
だけどいきなり入るわけにはいかない。待ち合わせを鈴美としているのだ。
緊張するから早く来て欲しい。
僕は駅で、鈴美を待つ。
5分後に鈴美が手を振ってきた。
良かった。何となく安心した。
鈴美が隣にいる。なんて安心感があるのだろうか。
「じゃ、いこ」
「うん」
そして、僕たちは真っ直ぐホールへと向かっていった。
そこで学生証を見せて、中に入る。
そして、指定の席に座った。
「おはよう」
と、隣の井達君が呼びかける。
僕も、「おはよう」と返した。
「御堂さんも」
「うん、おはよ」
「ついに体育祭だね。気分はどう?」
「緊張するよ。どうにかなってしまいそうだ」
僕がそう言うと、彼は「アハハ」と笑った。
そして、僕は向こうを見る。
今日は、姉ちゃんと父さんが来ているらしい。
まだ二人は来ていないようだ。それは当然だろう。
僕たち学生は諸々の準備や出席確認のために、早めに来なくてはならないのだから。
父さんは基本忙しい。
その合間を縫って体育祭に来てくれるのはうれしい。
良いところを見せなきゃと思い、さらに緊張してきた。
そうこうしている間に、先生が来て、プログラムが進んでいく。
まだ、鈴美とも満足に会話が出来ていない。
段々と試練の時が迫ってきているのが怖い。
来て欲しくない。怖いのだ。
「大丈夫?」
隣の鈴美が僕の肩をさする。
「やっぱり僕はこういうの苦手だなあ」
そう、独り言つ。
「大丈夫だよ。しっかりと頑張ってるよ」
「そうかな」
僕はそう、呟く。
「それに、私達は頑張ったよ。それに、テストだってそこそこの点数が取れてたじゃん。今回も大丈夫だよ!!」
鈴美が、元気を出してとばかりに言った。
僕は頷く。
もう、何があっても別のものの生にすればいい。
僕は大丈夫。きっと何があっても大丈夫。
そう信じ、僕はよしっ! と、気合を入れた。
そして早速ホールの下、会場に降り、そこで、整列をする。
開会式だ。
そこに背筋を伸ばして立つ。
そして真っ直ぐ見ながら。唾をのむ。
姉ちゃんと父さんの姿が見えた。彼らの方を軽く見る。
すると姉ちゃんが手を振ってくれた。
こんなに遠いのに、僕の視線に気づいてくれたのか。流石姉ちゃん。視力がいい。
それに合わせて父さんも手を振ってくれた。
そして、生徒会長が開会の挨拶をして、学園体操を踊った。
そして、僕たちは上へと戻る。
実際の所、暫くは見るだけだ。僕たちが出る競技は前半はない。午前最後の競技だ。
あ、でも。
「じゃあ行ってくるね」
「うん」
鈴美は早速出番なんだけどね。
鈴美の綱引きは最初だ。
綱引き、基本男子5人女子5人が出る競技だ。
本当はクラス対抗をこれにしてほしかったのだが、クラスによって人数差、男女差が出ることを避けたのだ。
僕は鈴美を見送り、会場を見る。
「彼女さんの応援頑張れよ」
鈴美がいなくなり、頬杖をついていると、井達君が話しかけてくれる。
そうだ。僕たちはカップルという事になっているんだ。
「うん。そうだね」
僕は前を向きながら言う。
「でも、綱引きって応援する意味ってあるのかな」
「あるだろ。勝ったら彼女さんを褒めたらいい、負けたら、その他の人を貶せばいい。お前らのせいで負けたって」
「それ、悪い考え方なんじゃ」
「外に漏らさなきゃ大丈夫じゃね?」
「……そうかな」
勝って嬉しくない、なんてことは無い。
「まあでも、鈴美が楽しそうにしてくれていたら、僕は負けてもいいよ」
鈴美が頑張っているところを、僕は何度も見てきたのだから。
「そうか」
そう言って井達君も前を見る。
今まさに縄の前に立つところだ。
鈴美は真ん中らへんに陣取っている。
大声で応援するべきなのかな。
変に目立つのも嫌だし。
どうしよう……。
迷った結果、手を振ることにした。鈴美も振返してくれ、早速綱引きが開始された。
互角の勝負だ。僕は双眼鏡を取り出し、鈴美の顔を見る。
踏ん張っている。
「がんばれ」
小声だから、鈴美の方には届かないだろう。これが僕に出せる最大の声量だ。
だけど、僕の思いが伝わったのだろうか、鈴美たちの縄がじりじりと、鈴美側へと向かっていく。優勢だ。
「がんばれー!!」
僕はもう少し大きい声量で言った。だけど、周りの大歓声で消えてしまった。
最大級の声量なんだけどなあ。
試合はそのまま、鈴美たちのチームが勝ちきった。
「ふう」
僕は息を吐く。
「良かったな」
隣の井達君がそう言ってくれ、「うん。嬉しいです」僕はそう返した。
「いやー負けた負けた」
二戦目に帰ってきた鈴美はそう、自身の髪の毛をいじくりながら言った。
「一瞬で持ってかれたんだもん、あれは反則級だよ」
そう言って鈴美は笑う。
「それにしても、応援してくれたでしょ。ありがとう」
いつもよりも饒舌だ。
「良かった」
「え?」
「楽しそうで良かったよ」
「えへへ、綱引きは楽しいよ」
そう、鈴美は笑った。




