第33話 練習
それから野球の練習に入っていった。
それはキャッチボールなどではなく、しっかりとした本気の、つまり実戦練習。
一番いやなものだ。
僕は外野の守備に就いた。
僕の今の心境はまさに、野球嫌だなあ、だ。
失敗したら色々と嫌なことになってしまう。
例えばだけど、ふらふらと空中に上がったボールを取れる保証など、どこにもないのだ。
いや、確実に落とすだろう。
嫌だ嫌だ嫌だ。そんな気持ちが大いにある。
野球が嫌すぎる。
だけど、そうも言ってられない。僕は上手くミスをしない(もしくはミスが目立たない)ように立ち回らないといけないのだ。
僕は祈る。ボールが飛んできませんようにと。
僕の祈りが届いたのか、僕の元にはボールは飛んでこなかった。
安心だ。
ミスする可能性がない。これは僕にとってとってもありがたいのだ。
そして無事に終わった。
そして、味方の攻撃に移っていく
練習とは言え、なんか味方の攻撃を見てるのは楽しい。
自分がミスする可能性が少ないからかな。
ぼーとゆっくりと見れて楽しい。
体育の時間が終わって欲しいから、味方の攻撃が長引くのを祈るのみだ。
とは言っても、出番が多く回ってきたら嫌だけど。
ただ、自分の打席が来るまでに少し緊張してくる。
失敗したらどうしようという気持ちが強い。
鈴美がそばにいて欲しい。
鈴美、鈴美。
僕は頭を下げ、そう呟いていく。
そんな時だった。
僕が、頭を垂れていると、そこに伊達君が来た。
「出番だよ」
そう言われ、僕は歩いていく。
僕の立ち位置は微妙な位置にある。芹原の転校時のあの騒動によって、
今回、練習だ。失敗しても大丈夫だとは思っている。だけど、普通に考えて。野球をほとんどしたことがないのに、やれだなんておかしいだろう。
僕はバットを手に持つ。
投手の子が、ボールを下手投げで投げる。
山成りのボールだ。打ちやすいように。
実の所投げる投手は攻撃側から出す。そうでないと、野球部の投手が無双してしまうのだ。
勿論変化球なんて投げられたら、打てるわけがないのだ。
投手が投げたボールを狙ってバットを打つ。
だけど、からぶってしまう。
後、二回空振りしたら終わり。
「まだ二つあるよ」
そうベンチから聞こえてくる。僕は頷く。
そして二球目がバットに当たった。
だけど、そのボールは上にゆっくりと上がって行く。
そして、あっさりと捕球された。
僕は肩を落としながら戻る。
恥ずかしい。
「ドンマイ」
伊達君をはじめとした数人の男子が声をかけてくれた。
ランナーなしだったからよかったものの、もしランナーがいたならば大変なことになっていたな、と一人言つ。
そして、それからも好機の時にミスをしたり、凡退したり。僕は最悪だった。
所謂足手まとい。最低限の働きも出来なかった。
「はあ」
制服に着替えながら、ため息をつく。
今日の僕は最悪だ。
ドンマイと言われた。
今回は許してくれた。だけど、次も許してくれるとは限らない。
そこが問題なのだ。
「つっかれたー」
教室に戻ると、鈴美がそう言って机の上でふて寝を噛ましていた。
「鈴美も疲れたのか」
「うん、だって。体が動かなかったんだもん」
「僕も一緒だ」
「だよね」
そう、鈴美もうなずく。
「また失敗したらどうしよう」
「特訓する?」
「特訓?」
そして僕たちは近場の公園に来た。
家にあったボールを回収してだ。
「なるほど、こういう事ね」
鈴美は納得したようにうなずいた。
「ええ、こういう事です」
僕もまた言った。
残念ながらバットはないから新聞紙を丸めたものだ。
だけど、ボールにバットを当てる練習になるだろう。
まずは、鈴美のためにバレーボールだ。
これは野球の練習になることもありがたい。
ボールを捕球する、つまり落ちて来るボールにビビらない練習になる。
僕は、ボールを投げ、鈴美がそれをえいと手に取る。
そして次に、ボールを投げる。
今度は鈴美はレシーブをした。
鈴美が上手く返せなくて悶えているのを見るのが楽しい。
だけど、少し通津上がる距離が伸びてきた。
勿論僕が投げているボールは、返されやすいことを前提にしたものだ。
だから、そこまで厳しい物ではない。だけど、それを上手く返せるようになってるという事は、恐らくいい事だ。
そして次は野球だ。
僕はバットを持ち、鈴美が仕立てで投げるボールを打つ。
勿論、僕は空振りをしまくった。
だけど、段々と軽く当たるようになってきた。
平凡な物ばかりだった。鈴美がそれを何とか取っていく。
これが本物のバットで打ったものならもっとちゃんと飛ぶのかな、と思ったけど。でも、それはただの言い訳だ。
でも、最後。しっかりとボールが飛んでいく。
僕はそれを見て、よしっ!と思った。
最後についでに二人三脚の練習もした。
周りから「カップルだー」なんて言われ、少しドキドキとした。
だけど、練習ははかどった。
これで、本番でミスする可能性も少なくなった。
その後、ハンバーガー屋さんに行き、休憩がてら鈴美と雑談をする。
僕はハンバーガーセットを頼む。
最近は、姉ちゃんもしっかりとお金を稼いでいるという事が分かったので、多少贅沢するようになった。
勿論、こんなことは贅沢の内に入るかどうかは怪しいんだけど。
「てかさ」
注文が届き、早速鈴美が口を開く。
「さっき、カップルに間違えられて面白かったね」
その言葉に、僕は吹き出しそうになった。
「あ、でもカップルだから関係ないのか」
「それ、まだ続いていたの?」
一応もう芹原はいないのだから、解消されてる気がしたが。
「でも、あれなんだかいい気分になったよね」
「いい気分?」
「うん。私たちが仲いいってことを知らせられて」
「そうだな」
「否定しないんだ」
「ま、まあな」
今更否定する必要なんてない。
別に僕が鈴美の彼氏と思われても嫌ではない。
「それにしてもこれで、体育祭本番行けそうだね」
「行けるかは、分からないよ。だって僕は」
まだ不安だ。
「そうだね。また練習しよう」
「うん」
僕は頷いた。
そしてポテトをつまむ。いい感じに塩味がついてて美味しかった。




