第27話 本性
「ぐっ……がは」
僕は口から吐き出す。だが、何も出てこない。
まさか相原がいるなんて。
「予定がくるっちゃった」
そう、芹原が言う。
「どういう事だ」
「分かってるんでしょ? アタシたちは最初から手を組んでたんだよ」
「組んでいた」
「そう、本当はあたしは陽君をまた好きにさせてまた絶望に落とすつもりだった。流石に、胸を押し付けたら落ちるかと思ってたけど……」
損なので落ちるわけがない。一瞬堕ちそうにはなったが、嫌いな人の胸でそんな事になるなんて愚かなことはしない。
今でもあの時無事に耐えられた僕自身をほめてやりたい。
しかし、やっぱり、相原と一緒にいるという事は。
「やっぱり、僕の事を好きだというのは」
「嘘じゃないわ。あたしは本当に陽君の事が好き。でもね、絶望に堕ちた陽君の顔はもっと好きなの」
絶望に堕ちた僕の顔が好き。
よく意味は分からない。
だが、そもそも芹原たちの思考を読めなくて当然だ。
こいつらは頭がおかしいのだから。
「そういう事。アタシたちは手段を択ばない」
「だからこれからもよろしくね」
僕はどう反応するのが正解なのだろうか。
絶望するのが正解なのだろうか。
だけど、不思議と心は落ち着いていた。
「僕は安心したんだ」
「どうして?」
芹原が訊く。
「もし本当に僕の事が心の底から好きでああいう行動をしてたらどうしようって。その場合、完全なサイコパスだなって。でも、そんな事は無かった。やっぱりあの行為は建前なんだって」
本当にクズという事が分かった。いまなら迫られても全力で拒否できる。
「ひどい、あたしは本当に陽君の事が好きで、襲ったのに」
そんなな気が押されても今更好感度が戻ってくることなんてない。ありえない。
「御託はいいでしょ」
そう言って相原が僕に近づいていく。
「今日は虐めない。もう、明確ないじめはしない。でも、えなっちを、アタシたちを楽しませてよ」
そう言って相原は椅子に座り、腕を組む。
「じゃ、続きをやろっか」
「つ、続き?」
「うん。あたしたちの愛を育むの」
そこは同じなのか。
「カミングアウトしたことだしね、どんな反応してくれるのか楽しみだなあ」
こっちは全然楽しみじゃない。
地獄へと向かっているのだから。
芹原が僕をベッドに戻してくる。ああ嫌だ。絶対に嫌だ。
その時、ドアが開く音がした。
「なに?」
階段の音がガタガタとする。
この音は、来てくれたのか。
鈴美が来てくれたのか。
あの時僕は死を覚悟しながら電話をかけていた。
その電話が発信されることは無かったが、鈴美に異変に気付かせることに成功したのだろう。
僕から送られた、電話によって。
「ありがとう」
僕は小さな声で言った。
「えなっち、ずらかろう」
「うん、そうだね。またね陽君」
「あ、そうだ。これも言っとかなきゃならないわ」
そう言って相原がこちらを向く。
「これ、忘れてないよね」
僕の全裸写真だ。
完全に存在を忘れていた。
僕がかつて反抗できなかったのはこの写真があるからだった。
「もし警察に行ったらこれをばらまくからよろしくねー」
そう言って、彼女たちは慌ただしく去って行った。
「大丈夫?」
早速来たのは姉ちゃんだ。
「大丈夫じゃないかも」
僕は小さな声で言った。
「よく頑張ったよ」
続いて鈴美が。
「でも、どうしよう」
結局あいつらは僕を脅すための手段を持っているのだ。
「大丈夫。私が何とかする」
そう姉ちゃんは僕の頭を撫でる。
そして、姉ちゃんは僕をじっと見る。
「どうしたの?」
そう、僕が訊くと、
「嫌がらないんだなって」
嫌がる。嫌がるか。
たしかに僕は今まで姉ちゃんを避けてきていた。
「鈴美のおかげだよ。鈴美が僕を変えてくれたんだ」
「きゃん」
わざとらしい相槌?を鈴美が打つ。
「もう僕は大丈夫だと思う。トラウマを乗り越えるために僕は努力しているから」
僕の女性恐怖症、強いては人間に対しての恐怖は、芹原から来ていた。
だからこそ、今は芹原以外大丈夫だ。
そして、もし今度芹原を本当の意味で乗り越えたら、本当の意味で、過去と決別出来る事になる。
そこが難しいのだが。
「それよりも、姉ちゃんありがとう」
その言葉に、姉ちゃんが一瞬目を丸くし、にっこりと笑った。
翌日、鈴美と駅で合流をし、そのまま歩きだす。
向かう先は勿論学校だ。
だけど、とりあえず対策としてボイスレコーダーを忍ばせている。
また逃げるという手もある。だけど、証拠を集めなくてはならない。
あの時にとれなかった手だ。
「陽君、おはよう」
来ると思ってた。昨日の事は何だったのかくらいの切り替えの早さだ。
「おはよう」
僕はにっこりと返事をした。
今僕と鈴美は手を繫いでいる。
流石に恋人つなぎではないが、それでも十分に効果があるだろう。
牽制としての意味合いだ。
これで少しでも怯んでくれたらいいけど。
実際の所前とは違う部分がある。僕は今鈴美と一緒にいるという点だ。
鈴美がいれば何でもできそうだという、自身がある。
そして、
「僕は鈴美と付き合った」
僕は芹原に対してそう言い放った。
話は昨日にさかのぼる。
「私に名案があるんだけど、良いかな」
姉ちゃんが言う。
「なんですか?」
「二人、付き合わない?」
「はあ?」
意味が分からない。
急すぎるし、何の心の準備すらできてないし。
そもそもの話僕は、鈴美に対しては友達として見るのが精いっぱいだ。
これは鈴美が悪い訳ではない。
付き合うとかそう言うのは考えたことが無かったからだ。
「これは、芹原への牽制だと私は思ってる。もし二人が付き合ったとして、芹原が陽太に何かちょっかい仕掛けてきたら周りは彼女を泥棒猫だと思うでしょ」
「そういう事か」
僕は理解した。
芹原の僕へのアプローチを制限する行動だ。
「つまり偽カップルでもいいと」
「そういう事だね」
「鈴美は最初から分かっていたのか」
「うん。という事で付き合っちゃおー」
「え、それだけでいいのか?」
なんか葛藤とかは。
「大丈夫、陽太君いい男だし」
「そう、ならよかった」
「そういう事で、行こう」
「ああ」
そして僕たちは固い握手をした。
そして今に至る。
「どういう事?」
「僕は彼女と付き合う事にしたんだ」
僕はそう、はっきりと告げた。
多分声はへにゃへにゃだっただろうけど。
「ふーん」そう、芹原は腕を組み、
「それはあたしには関係ないから」
そう言って去って行った。機嫌は悪そうだ。
写真の件は言われなかったが、その時はその時で準備はしている。
いつでもかかってこい、だ。




