第26話 危機
その日の帰り道。僕は違和感に気が付いた。
僕は分かっている。
完璧に追跡されているのだ。
「鈴美」
僕はそう、口にする。
「危険だ」
「え?」
僕は鈴美の手を取る。
そして、僕は耳打ちをする。
「芹原が来てる」
僕たちの背後を芹原が追っているのだ。
明らかに、僕に対して何かを狙ってるようだ。
緊張が走る。
「どうしよう」
小さく鈴美は口から零す。
「大丈夫。何かあったら僕が守る。それにこれは、僕のまいた種なんだから」
僕が芹原から異様な愛?を受け取ってしまったことから起きたこと。
僕のせい、ではないが、僕と一緒にいるせいで起きていることだ。
僕は男だ。鈴美、友達の一人を守れなくてどうする。
「陽君!!」
早速、芹原が姿を現した。
なんだか怖い。
「陽君の家に行かせて」
やばい、どうしよう。
強心臓というか、理解力がなく、人の気持ちが分からない、一種のサイコパスみたいな物じゃないか?
「ごめん、無理」
僕は恐る恐るそう言った。
どうしてあの日、嘘告白を受けたんだ。
僕のあの日の愚かな判断が、こんな化け物を生み出してしまった。
「どうしてよ」
もう何回も言っている。
なのになんで。
「あたしはこんなに愛してるのに」
やっぱり、井達君の言っていた通り、こいつはメンヘラじゃないのか?
「僕は君とよりを戻すつもりはない。謝られても絶対に。僕を先に裏切ったのは君なんだから!!」
そう大声で言ってやった。
その声を聞いて、周りの人がこちらを見る。
「そ、そんな、あたしは」
そう言って芹原は床にへたり込む。
可哀そうアピールをしているのか?
な、なんだ。
周りの観客がこちらを見ている。
「あたしは、そんなつもりはなかった。あたしはずっと好きなのに。たったのあれしきであたしが裏切ったと思うなんて」
あれしきか。
今や完全に悪役の僕、そして被害者の芹原という構図だ。
泣いている女子、そこには被害者という感じが出る。
なんだか卑怯だ。
男が泣くと、どうしても男気がないとか、男らしくないとか言われるのに。
「鈴美、いくぞ」
僕はそう言った。
「ここにいたら、危ない」
僕はそう言って、鈴美の手を振る。
「ひっどーい」
そんな声が聞こえた。
そこにいたのは可愛らしい女子だ。
髪色が金色で、制服の胸元も上げている。
所謂ギャルみたいな人種だ。
「行こう」
「はあはあ」
鈴美と手を繫ぎながら、駅までついた。
「ここで、お別れだね」
鈴美が言う。
どうしても、怖い部分がある。
鈴美と離れることが。
それは、依存とかではなく、一人になる事だ。
流石に大丈夫だとは思う。だけど、一人だと芹原に対して上手く対処できるかどうかが怪しい。
力では勝てる。だけど、恐怖心が強いのだ。
「何かあったら連絡してよ。私すぐに向かうからさ」
「うん、そうだね」
「大丈夫。大丈夫だよ」
何も根拠がない大丈夫だよ。だけど、僕は少しだけ安心した。
その後、電車でも、周りを軽快しながらWEb漫画を読む。
だけど、何も起こらない。何も起こる気配がない。
周りを見渡しても芹原のいる気配などない。
なら大丈夫かと、少し警戒感を緩めた。
そして、電車が駅に着いたので僕は電車から降りる。
その先も、警戒しながら進む。しかし、芹原の姿は見えない。
それは家の近くまでもだ。
そして、僕は家の鍵を開け、中に入――
「ありがとう陽君。あたしを招いてくれて」
どうしてここにいるんだ。
いや、先回りしたんだろう。
彼女は、ドアをじっと支え、そのまま家の中に入っていく。
僕は咄嗟にスマホをいじる。
だが、その手を掴まれた。
「陽君、だめだよ。あたしたちの楽しい夜を過ごそうよ」
何が彼女をこうたらしめてしまったんだ。
分からない。分からないからこそ怖い。
スマホが床に落ちる。
僕の肌に蕁麻疹が出来ていくのを感じる。最近は出来るようなことが無かったのに。
怖い怖い怖い怖い怖い。どうしてこうなったんだ。
僕は人の怖さを甘く見ていた。
そんなわけがない。
そんな甘い訳がない。
僕はどこかしらで、ブレーキがあるだろうと思っていた。
「あたし、本当に君の事が好きなの。だからごめんね」
これは完全に犯罪だ。
次の瞬間、僕はベッドの上で目が覚めた。
手が後ろ手で拘束されている。縄だ。
家の中に縄なんてないのに、いつの間に持ってたんだ。
いや、冷静に思考に及んでいる暇ではない。今はここでどう助けを求めるかを考えないと。
「ねえ、陽君」
そして、芹原が僕に話しかける。
「あたしね、陽君に好かれるためなら手段を択ばないの」
「っそれはいったい」
「ふふ」
彼女は、そっと制服を脱ぎ始める。
……何をしているんだ?
いや、まさか。
身動きの取れない僕に対して、襲おうとしているのか。
っそれはやめてくれ。
それだけはやめてくれ。
今は大人の階段を上りたいとは思っていないんだ。
「あは」そう笑みを浮かべた。服は完全に脱いでいる。下着姿だ。
「陽君、またえななんって呼んで」
「っ嫌だ」
「陽君って本当に剛情だよね。そんなんだとモテないよ。でも大丈夫。あたしが愛すから」
そして、布団の中にもぐってきた。
「陽君、あたし陽君と一緒に寝たかったの。いいでしょ、こういうの」
逃げたい、逃げられない。
どうしたらいい、どうしたらいいんだ僕は。
「鈴美」
「他の人の名前なんて出さないでよ。裏切ったのは悪いって思ってるんだから」
「っやめて欲しい」
「面白くないよ。あたしのものになってくれないと」
そう言われても、どうしたらいいんだ。
芹原は胸を当てて来る。下着姿になって、服越しよりも遥かに胸の感触が強い。
勿論服越しに胸を当てられたことはないけど。
興奮したくないのに、男としての、本能がそれを邪魔してくる。
「陽君、あたしの胸を触る?」
「触るわけがないだろ」
「触ってよ、ね」
そう言って彼女は縛られている僕の手を掴み、自身の胸に当てる。
胸の感触を感じるのは初めてだ。
付き合っていた時でさえ、そんなことは一度もなかったのだ。
ドキドキ、ドキドキする。僕は一体どうなってしまうのだろう。
ああ、いやなはずなのに、いやなはずなのに、なぜか抗えない。
僕は、僕は。
「なんで君は僕にここまで執着するの?」
「君が好きだからだよ。このままエッチなことしよ」
「っ僕は騙されない」
僕は足で布団を蹴る。そのまま、芹原にのしかかる。
「っなにを、するの?」
「僕は君のいいようにはされない」
足は縛られていない。
腕だけだ。
一瞬芹原の動きを封じた後、僕は足で駆け出した。
足が縛られてないからこそ、逃走を図れる。
そして家から出て助けを呼ぼう。
腕を縛られている時点で、なにかあったのだと、近隣の方はすぐに理解してくれるだろう。
「待てよ」
僕の肩がつかまれた。
「ありがとう、相原さん」
相原、相原。僕を虐めてた人だ。
やっぱり相原さんまでかかわってきていたのか。
「ごめんね」
そして芹原は僕を抱きしめる。
その次の瞬間、僕のお腹が蹴られた。
「え?」
「こういう事」
そう言って芹原は笑った。悪戯な笑みではなく、悪魔のような笑みだ。
ああ、やっぱり変わってなかったんだな。
安心する。やっぱり芹原がクズで。




