第25話 鈴美の過去
またまた過去編なので現代軸のみを読みたい方はこの話は飛ばして、次の話からお読みくださると幸いです。
「ねえ、貴方。木佐くんと親し気じゃない?」
そう竹山恵美に言われたのが、鈴美の絶望の始まりだった。
彼女は、隣の席の木佐君と一緒に話すのが好きだった。
そこには恋愛感情など無く、友達として接するのが好きだった。
「もう、木佐君と話さないで」
どういう意味か、一瞬では理解できなかった。
「なんで?」
「私が好きだから」
その言葉に鈴美は「え」と声を漏らした。
「そうだ!!」
竹山は手を叩く。
「嫌われてよ。もう二度と喋らないでって言ってさ、名案でしょ?」
そう言って彼女は周りの取り巻きたちに同意を求めると。
「そうよ、さんの言う通りよ。あなたが邪魔してるの。陰キャのくせに」
何を言ってるの、と鈴美は思った。
彼女はこの学校で絶大な人気を誇る。このクラスの権力を掌握していると言っても過言ではない。
しかし、だ。
「そんなの嫌」
昼休み、屋上で鈴美はそう呟いた。
そんなの論外、絶対に取りたくない手だ。
誰かに支配されるなんて嫌だ。
自分自身の意思で生きたい。
なんで、竹山に自分の人生を左右されなければならないのか。
それが全くもってわからなかったのだ。
そして、その翌日。
「ねえ、昨日のアニメ見た?」
某話題沸騰中のロボットアニメの事だ。
気軽に話しかけてくれる木佐に対し、「うん!」と、鈴美は答えた。
木佐君が話しかけてくれるのが嬉しい。
そしてその光景をじっと見る物がひとり。竹山だ。
しかし、その後二日間、竹山に話しかけられることはなかった。
(やっぱり、脅ししかできないんだね)
鈴美は心の中でそう思った。
人間の悪意とは所詮それだけの物。
甘く見ていたのだ。
だが、その翌日、異変が起きた。
いじめをめっぽう受けるようになった。
朝学校に来たら机に落書きをされていた。
そして――
「御堂さん、聞いたよ」
木佐君が怖い表情でこちらを見ている。
「御堂さんって酷い人間なんだね、失望しちゃった」
何がどうなって今の状況にあるのか。
鈴美には何一つ分からなかった。
だけど、今分かるのはおそらく今からいじめられるであろうことと、唯一の心の支えが消えてしまった事だ。
失意のどん底にいると、竹山に呼び出された。
それにのこのことついて行くと――
「あんたみたいなブスが、気軽に木佐君と喋ったらいけないの!!」
そう言われ、ビンタをされた。
その日からもいじめは続いていく。
先生は見て見ぬふり。なにもしない。関わろうとしない。
その状況を受け、鈴美は理解した。
これが女子の闇だと。
男子よりも基本女子の方がカースト制度がある。
そのため、上位の女子が命ずると、地獄のようないじめが行われるのだ。
「木村、やれ!」
「ひっひゃい」
そう言うと、木村がトイレに水を突っ込んでくる。
(あなたもそっち側なんだね)
鈴美は絶望した。
泣きながらトイレに鈴美の頭を突っ込んでくる木村を見て、そう思った。
そこからはいじめをただ無関心で受け続ける日々だ。
嫌だと思ってはイケナイ。泣いてはイケナイ。
最初の方は合った反骨心も消え去ってしまった。
その代わりに増えるのは腕の傷。
痛みを痛みで上書きする、それが日常だ。
そうすると、自分の意思で生きている、そんな感じがして心なしか嬉しくなる。
だが、心の中では分かっていた。これじゃあだめだと。
だから、なのだろうか。
ある日、ついにやってしまったのだ。
「うわああああああああ」
鈴美は向かってくる人を、クラスの中の人達をとにかく殴る。
もうすべてがどうでもいい。
日頃の恨みを晴らせるのならば、その後どんな目に逢っても関係が無いのだ。
その中に、いじめを強要されていた人がいたというのも知っていた。
だけど、そんな事、狂乱した鈴美には関係が無かった。
そしてその結果、鈴美は退学一歩手前になった。
そう、実質的な、転校して欲しいという連絡だ。
なんで、だと思った。
殴ったのは確かに悪い事だと思うが、自分も暴行されてきた。
いじめられている時には見向きもしなかったのに、自分が問題行動を起こしたら、すぐに対応するのか。
不公平だと思った。
だけど、従うよりほかはない。
強制的な退学処分を受けるよりはましだからだ。
鈴美は、それに従い、家の近くの高校に行った。
そこは偏差値的には高かったが、地頭のいい鈴美は余裕でそこに入れた。
そこで最初は友達は出来なかったが、平和に過ごせた。
だが、それも長くは続かず、鈴美が暴行をふるい転校したという噂が蔓延してからは、ただ我慢し続けた。
自分の身に起ころうとする全てを兎に角我慢し続けた。
そして必死に耐え続ける事暫く、また同じことをしない様に必死で耐え続けて吐いたが、それでもつらい。
せっかく転校しても同じなのだと。
「はあ、いやだなあ」
鈴美は傷だらけの手をさすりながら言う。
昨日からリスカが止まらない。
ストレス発散のために腕を傷つけづつけている。しかし、知っているのだ。これが明らかに正解の行動ではないことを。
手を傷つけることは、自分自身を傷つけることと同義。
それを言えば当たり前なのだが、自傷行為だ。
自傷、つまり自分を傷つける行為。
それで一瞬の快感は得られるかもしれないが、後に来るのは後悔だ。
手の痛みはしばらく続く、その痛みは快感かもしれないが、それでも軽く気分は悪くなる。
そして、罪悪感だ。
これを延々に続けても意味がない。何も変わらない。
それを知ってるのに。
(無力だな、私)
必死に迫りくる絶望に抗わなければならないのに、問題を先送りにしているだけだ。
ある日、鈴美は、孤独の帰り道の中で、方向転換をした。
その先にあるのは夜の街だ。
制服でここにはいったらだめだと知っている。もしばれれば二度目の転校、という事もあり得るだろう。
トイレの中でカバンに入れていた私服に着替え、中へと入って行った。
底の景色は他とは全然別のものだった。
それは、大人の街というのが正しいだろう。
せっかくだからいつもと違う景色を見たい。
そう思いぶらぶらと歩く事暫く。
ふと、死にたいと思ってしまった。
なんでだろうか、
暗い道中を店の活気で照らしている、この奇麗な夜の景色。
それを見たら、自分の惨めさを覚えてしまった。
(あ、だめだ私)
めまいを覚えた。
手の傷が痛み、自己嫌悪の気持ちが心の底から出て来る。
消えたい、消えたい。
本気で心の底から思っている気持ちなのかは分からないが、そう完全に思ってしまった。
そのまま鈴美は床に寝転がる。
若い女が路上で一人で寝転がる。危険な行為だ。
だけど、これも一種の自傷行為だ。
道を歩く人たちが怪訝な目でこちらを見、そして離れていく。
その中で、ぎゅっと目をつぶろうとした。
「大丈夫?」
そこにきれいな女性の声が聞こえた。
その声を聞き、鈴美は目を開ける。
「そんなところで寝てたら風邪を引いちゃうよ。行こ」
「行こうって、どこに?」
「わたしの働いているところ」
よく見れば彼女の服は露出が多い。
そう言う店なのだろうか。
少しだけ怖い。だけど、えいっとついて行くことにした。
その中で席に座らされる。そして、彼女――美咲――は後ろに下がっていく。
そこで何かもめているようだった。
困ってる人を助けても店の利益にはならない、からだろう。
そう思うと、悪いことをしてしまった、と鈴美は思った。
暫くすると、美咲は戻ってきた。
説得できたのだろうか。
その中で、「お酒飲めないよね」と言われた。
鈴美は小さくうなずいた。
「じゃ、烏龍茶とアップルティーどっちがいい? あ、あとホットミルクもあるよ」
そう言われ、鈴美は軽く考える。
そして、「烏龍茶で」と答えた。
「はい、どうぞ」
二分後、美咲は烏龍茶が注がれたコップを持ってきた。
「そうだ、お代はいらないからね」
その言葉に、鈴美はえ?と声をこぼす。
「いらないんですか?」
「うん、私が勝手に連れてきたんだし」
それはそうだけど、崗円を支払わなかったら、美咲さんが怒られるのでは?
だけど、今はこの好意に甘えよう。
鈴美は烏龍茶を勢いよく飲みだした。
「それでどうしたの? なにか嫌なことがあったんでしょ」
鈴美は、頷く。
(この人になら、言ってもいいのかな?)
迷う。もしこの人にも拒絶されたらどうしよう。
だけど、決心した。
「私ね、いじめられたの」
そして、自分の気持ちをつらつらと吐き出した。
その間も、美咲はただ黙って聞いている。
それをうけ、話しやすいと、鈴美は思った。
「それで、私辛くて、どうしたらいいのか分からなかった」
そこまで話したところで、涙が出てきた。
「いいのよ泣いて。遠慮せずにね」
「今日はありがとうございました」
鈴美は頭を下げる。
おかげで自分の気持ちをある程度整理できた。
辛い気持ちを吐き出せた。
「いいのよ。良かったらまた来てくれたらいいから。ライン交換した仲だしね」
実は今日ライン交換をしたのだ。
「っはい!!」
そして、その日からもたびたび辛いことがあったら美咲さんい合いに行った。二度目以降はちゃんと烏龍茶代を払って。
そして、そんなある日、頼まれた。
「私の弟があなたの高校に転校するんだけど、支えてあげてくれない?」
「私になんて無理ですよ」
「お願いなの。あの子はあの時の鈴美ちゃんみたいな感じなのよ」
あの時、初めて美咲と会ったあの日だ。
確かのその日、鈴美は死にそうな目をしていた。
そんな感じ、それを聞けば、自分に自信がなくても、やるしかなかった。
「やります!!」
自分を救ってくれた美咲さんのためになりたい、そんな気持ちでいっぱいだ。
「ありがとう」
そう言って美咲は鈴美の手をギュッと握った。
その手は暖かかった。




