第22話 罪
そして。一時間後、鈴美さんが来た。
汗が頬を伝っている。
きっと授業が終わってすぐにダッシュしてきたのだろう。
「お待たせー。さ、歌おう」
そして、カラオケマシンを触る。
「僕はもう歌いつかれたから、鈴美さんが歌っていいよ」
「え、いいの? じゃあ私が歌わせてもらうね」
そう言って鈴美さんはそのままカラオケマシンに曲を入れる。
そして、すぐにマイクを手に取って話題のドラマの主題歌を歌う。
毎日0時に記憶を失う彼女と付き合うと言ったストーリーだったはず。
僕は見てないけど、毎週話題に上がるほどの作品だ。
そう言えば、今更ながら、彼女の歌を聞くのは初めてだな。
というかそもそも、カラオケにはあいつとも行ったことが無かった。
カラオケに他人と行くこと自体が初めてだ。
鈴美さんは果たしてうまいのだろうか。
そして彼女が歌いだす。
「あれ」
下手じゃないか。聞けないという事は無いが、音程もかなり外している。
点数は80点にぎりぎり乗るかどうかだろう。
鈴美さんには勝手ながら上手いイメージがあった。
しかしなかなかどうして、普通に音痴じゃないか。
ただ、彼女は楽しそうに歌っている。
自信満々に歌っている。
僕はその姿を見て眩しいと思った。
その歌はヘタながら僕の心にしっかりと響いていく。
カラオケは楽しいなと、ふと思った。
その後も暫く鈴美さんの歌を聞いた。
その楽しそうな歌を。
「はあはあ、流石に疲れたわ」
そう、鈴美さんが言う。
確かにもう六曲連続で歌っている。
僕も確か6曲目あたりで疲れが出始めていたんだった。
「そろそろ陽太君の歌を聞かせて」
「うん。そうだね」
僕はそう言った。
結構のども回復してきている。
「でも、その前に少しいい?」
だが、その前に、一つ彼女に伝えなければならないことがある。
「今日はありがとう」
感謝の気持ちだ。
実際、今日芹原に吐いてくれた言葉は痛快なものだったし、感謝している。
それにこのカラオケに来てくれたことも感謝している。
僕は何も言わずにカラオケに行っていたのに、心配をしてくれて、しかも自分も行くと言い出して。
しかも、何も言わずにただカラオケを楽しんでくれている。
芹原なんかよりも何十倍もいい人だ。いや、比べるのが失礼なほどだ。
芹原に出会う前に鈴美さんに出会っていたらなあ、と思ってしまう。
僕の言葉を聞き、鈴美さんがマイクを机に優しく置いた。
「私もちょっと許せなくて」
「過去の事?」
「うん。私の過去と並べちゃったの。正直今日の彼女の言い草を聞いてると腹が立っちゃって」
「僕も。正直あの時の芹原の顔は楽しんでいるように見えたから」
少なくとも僕には。
苦しみながら謝っているようには見えなかった。
許してよー、みたいなへらへらした態度が見えてしまった。
僕があれでどれほど苦しんだか、知らないのにって。
きっと彼女はあの事件をそこまで重く見てなくて、謝ったら許してくれると思ってこの学校に転校してきたのだろうか。
だが、それならば裏で守ってくれてたら良かっただけの話だ。
僕と一緒に、表立って、とまではいわない。だけど、裏で相沢さんに対抗する計画を組めばいいだけの話だ。
そもそも彼女の言葉自体が本当なのかすらも分からない。また僕を安心させてそこから地獄に叩き落してくる可能性もある。その方が大きいのだ。
「いじめは、加害者はすぐに忘れるって言ってたじゃん」
「うん」
「僕は本当にそう思う。加害者にとって苛めという行為は軽くて、いじめを受けた人にとってはしんどい事なのに。別にだから芹原に苦しんでほしいとかそう言うのではないけど、それでもやるせなさは感じるよ」
僕は芹原のことを許す許さないの問題じゃなくて、どんな理由であれ、いじめをしたという事を心で感じてほしいと思っている。
「僕は芹原には過去の罪を反省して欲しいんだ。それは、決して表面上の物じゃなくて、心の底から」
木村さんは最後、罪悪感を覚えていたと思う。
殴られたことに対して、鈴美さんが謝って、いじめの事に関して木村さんが謝る。
当時の出来事もあまり知らない立場の僕が、外からこう言うのもあれだが、正直完璧な謝罪会になったと思う。
ただ、芹原に関しては罪悪感のざの文字もなかったように思えた。
「それは私も同じ気持ち、このままなんて許されるわけないし」
「うん」
正直僕は分からない。
これから、芹原に対してどう対処していけばいいのか。
明日にはいじめが始まってるかもしれない。
油断している僕をまた、急襲して虐める計画かもしれない。
もしそうなれば今度こそ僕は通信制の学校に通う事になるかもしれない。
青春が過ごしたい僕からしたら出来る事なら全日制の学校に通いたい。
毎日、学校に行きたいのだ。
「鈴美さんも、いじめの主犯格には謝ってもらってないんだよね」
「うん、謝ってもらってないよ。ただもう謝ってほしくはないけどね。関わってほしくない。顔も見たくないし」
それは僕も同意見だ。芹原なんて永遠に見たくなかったし、相原さんも会いたくない。
「しんみりとさせちゃったな、歌おう」
せっかくストレス発散のために来たんだから、歌わないと損だ。
それに今回は、フリータイムだし。
僕は息を吸って歌を歌い始める。
僕もそこまで歌は上手くない。
だけど、鈴美さんに倣って僕も楽しく歌うぞ。
そう思い、歌い始める。
アニソンだ。最近流行りの異世界転生ものアニメだ。
僕は心から声を出して歌った。
鈴美さんを見る。彼女は楽しそうに僕の歌を聴いていた。
それを見て僕は、良かったと思った。
やっぱりカラオケは楽しいのだ。




