第20話 真実
そして、授業が終わったあと、
「芹原さん少しいいですか?」
吐きそうになりながらも僕はそう言った。
その言葉を聞き、鈴美さんもこちらに来た。
「何? 陽くん」
また、陽くん。もう芹原の口からは陽くんなんていう言葉は聞きたくない。あの付き合ってた時を思い出してしまうから。
僕にとって、それはいじめの記憶に直結するのだから。
だが、ここで話し合いを行っては問題もある。
「とりあえずここでは離せない事なので、屋上に行きましょう」
「あ、屋上デート? 懐かしい。互いに家を探したりしてたね」
「まあ、そんなこともありましたね」
僕にとってそれは忌々しい記憶と化している。
「とりあえず行きましょう」
「やった、陽君との久しぶりのデートだ」
皆に分かるように大声で言う。そのスタンスが僕のイライラを過熱させる。
僕にその勇気があれば、鈴美さんみたいに殴ってたかもしれない。
山下さんが、こちらを真っ直ぐに見ている。
そう言えば何があったか彼女には最後まで話出来てなかった。
悪いなと思いつつ、足は止めずに進んで行く。
その背後、鈴美さんがついてくる気配を感じた。
何も言ってないのに、ありがたい。
とりあえず彼女を屋上まで連れて行った。
「それで、何?」
話し合いの続きだ。
「単刀直入に……」
そのあとの言葉が出ない。
僕は言わなければならないはずなのに。
「私が言うね」
そこに救いの手が背後から現れた。
鈴美さんだ。
「貴方は、陽太君をいじめてたんですよね?」
そう、静かに鈴美さんは言った。
「うん、そうだよ」
あっさりと、認めるんだな。
「確かにあたしは陽君をいじめてたこともあった」
事もあった?
気になる言い回しだ。
「でも、それは今となっては過去の話。あたしはそれよりも、陽君とよりを取り戻したいの」
何なんだ、その言い草は。
何なんだ、何もなかったように振舞おうだって?
ふざけるな。
僕があんなに苦しんだ日々を、そんな事もあったわね、呼ばわりか?
僕は、僕は、お前を許せるわけがない。
ああ、これなら虐めるためにこの学校に転校してきたと言われた方がましだったかもしれない。
こいつは、サイコパスだ。ただのくずだった。
ふざけるなよ!!
「ふざけないで!!」
だが、先に手が出たのは、鈴美さんだった。
芹原の頬をビンタしたのだ。
「いじめをした方は、そんな事なんて言ったらダメなの。だって、いじめをした方は遊びかもしれないけど、虐められた方は、永遠に覚えているものなの。それこそ、虐めの加害者が忘れた後もね」
そう、鈴美さんは言った。
「私もいじめを受けたことがあるから、分かるの。いじめの加害者と、被害者では根本的に考え方が違うって」
そうだ。まさにその通りだ。
「だから、陽太君に近付かせるわけにはいかない」
そう、静かに告げた。
鈴美さんも鈴美さんで、自分の過去と、芹原を見比べてそう、結論付けたのだろう。
「それについては……」
芹原は自身の左腕をさする。
「申し訳ないと思ってる。ごめんね、陽君」
頭を下げられた。
この苦しみの原因足る彼女に。
「は?」
「あたしは虐めなんてしたくなかったの」
何を言ってるんだ?
何を何を何を何を。
「あたしは、虐めなんてしたくなかった。でも、相沢さんがが虐めをしろって」
中村は、芹原とつるんでいた。
「あたしが陽君に告白したのは、本当に気になっていたから。でも、それを嘘告白と茶化されたときから悲劇は始まったの」
そこから彼女の独白は始まった。
それから、彼女の話を聞くと、最初の告白自体は嘘告白だった。だけど、僕の事は元から気になっていたらしい。
段々とこのまま付き合ってもいいかなと思ったらしい。
でも、それを相沢さんたちが許さなかったらしい。
というよりも、嘘告白で、絶望するさまが見たかったから。
だからこそ、芹原は言い出せなかった。
このまま付き合いたいと。
だって、ここで彼女たちの意向を無視すると、今度は自分が虐めの対象になると。
だからこそ、あの日僕を倉庫に呼ぶしかなかった。
大人の階段を上ると偽って。
「あたしは、謝ろうと思ってこの学校に来たの」
そう言って芹原は頭を下げた。
僕から言わせたら、ふざけんなよという言葉しか出てこない。
状況としてはこの前の木村さんと同じかもしれない。だけど。まったく同じだとは思わない。
それは、僕がその対象だったからなのだろうか。
木村さんの時は、許せたのは結局謝るそぶりを見せたからだろうか。
一番思うのは、もし本当に僕の事が好きなら、なぜあの選択肢を選んだんだ?だ。
所詮愛よりも身の保身の方が先に来てしまうような人間だったんだな、という感想しか出てこない。
「僕が、」
恐怖なんて関係ない。
謎に罪悪感を持っている彼女になら言える。
「僕がどれだけ苦しんだか、分かってるんですか?」
「本当にごめんね陽君」
僕は、戦いに来たはずだ。
なのになぜ僕は無抵抗の相手を言葉でボコっているんだ。
「ごめんね」
「許すつもりはありません」
そう言って僕はやるせない気持ちのまま、屋上を後にした。




