第15話 カップル割(過去)
僕たちは、近くのレストランに向かう。
「ねえ、こういうのあるみたいだよ」
えななんが唐突に言って、僕にレストランのWEBページを見せてきた。そこには今日、カップル割という物があった。
カップルでの入店の場合、一割引きという物だった。だが、その代わり、二人で一つの物を食べなければならないというデメリットはあるが。それも一つのスプーンとフォークで。
「どうしましょうか」
「確かにあたしにも抵抗があるかもね。確かに、間接キスになるし。……でもやってみていいと思うよ」
「それは、僕に選択権をゆだねるという事?」
「うん」
なるほど。
でも、ここでいや、カップル割にしないでおこうと、言うのもどうかと思う。
だって、そんなこと言って失望させたくない。
「じゃあ、カップル割にしましょう」
「…………うん」
なんだ、今の間は。もしかして本当は嫌だったりするのか?
ただ、そんな事もはや分からない。
ここで、えななんに、「やっぱりやめときます?」なんていうのも違うだろう。
ここは、現状維持。
何しろ、嫌なんだったら、僕に任せた時点でえななんが悪いことになるし。
とはいえ、女心は難しいというし、よくわからないが。
そして、そのままレストランでカップルと告げ、中に入っていく。
「休めるっていいよね」
僕は席に座ってまずそう言った。するとそれに対してうんと、えななんもうなずいた。
「ジェットコースターもそうだし、結構並んだからね」
「意外と疲れるからね」
「そうそう。座らせて―って何回も思った」
「はは、僕と一緒だ」
「うん。……ねえ、陽君。……カップルメニューなんだか急に怖くなってきちゃったって言ったら怒る?」
「なんですか? その含みを持たしたような言い方は」
「だって、間接キスが嫌になったとか思ってるって思われたらいやじゃん」
「それは僕も怖いですよ。思えばいきなりですからね」
「そうそう、強要されてるからさ。でも、やっぱり、陽君的にはさ、お金よりも、間接キス目的でこれにしたの?」
そう言われると困る。確かに、お金は言っても一割引き。このカップルメニューが、千七百円で、普通の物より、二百円程度お得だ。だけど、二百円は大金とはいえ、ハンバーガー一個も買えない程度のお金だ。
しかも、その二百円も折半と考えれば百円だけだ。
そんなもの、缶ジュースを買ったらもうなくなってしまう。
「僕は間接キスのタイミングが欲しくて、決定したのかもしれません」
「あはは、正直ー!!! でも、あたしもそうかなだって、カップルメニュー、あたしの提案だもん」
「そう言えばそうだったな」
「うん。でもじゃあ、陽君の唾液しゃぶっちゃおうかな」
「急に変態みたいなこと言わないでよ」
「陽君はあたしの唾液しゃぶりたくないの?」
「それ、答えられないやつ」
「えへへ」
テンションでもおかしくなっているのだろうか。
「でも、カップル割セットを食べたら、カップルって感じはするよね」
「それは……そうだな」
そして、怖いけど、楽しみだという結論に至った。
早速、届いた。二人分のカルボナーラだ。
「わあああ、陽君、陽君。これを二人で食べるんだよね」
「うん。そうだな」
「楽しみだね」
そう言ったえななんが早速パスタを巻いていき、
「ほら、あーん」
「え?」
まさかいきなりカップル奥義、あーんを繰り出されるとは思わなかった。
汗がだらだらと流れていく。
だが、このあーんを受けない手なんてない。
僕はそのフォークをいきおい口にくわえる。
うん。美味しい。僕はそう感じた。
それと同時に、顔の向こうに、彼女の顔が見え、少し来あh図かしくなった。
今まで彼女の整った顔が映る。
化粧をしているから、いつもより色城になっている。
「どう?」
そう、笑顔で聞いてきたえななんに僕は、
「恥ずかしい」と返した。
「えー、恥ずかしいことは無いでしょ」
「恥ずかしいよ」
「えー」
白々しいとはまさにこのことを言うだろう。
自身の価値を理解していないいや、しているのにもかかわらず、この態度。
小悪魔だ。
やり返してやる。そう、僕は心に決めた。
そして、僕は続いてえななんのおいたフォークを手に取り、パスタを巻いた。
そしてそれを僕の口、ではなく、えななんの口にれた。
「んぎゅ」
えななんはそんな愛らしい喘ぎ声を出し、口に入れられたパスタをんぎゅんぎゅと、食べていく。
「おいっしいー!!」
えななんはそう、言って「次のあーんをお願い」などと言ってくる。
率直に言えば、なんだこの人と思った。
えななんには恥ずかしいなんて言う気持ちはないのだろうか。
周りからめっちゃみられ、絶対イチャイチャカップルだと思われている。
なん案んだ、この状況は。
今の僕の顔はきっと赤くなっている。
恥ずかしさの塊だ。
「なんというか」
うん。
「こういうのも恥ずかしいね」
僕はそう告げた。
「見られてるから?」
「うん」
「いいじゃんね」
「そう言う問題じゃないと思うけど」
「えへへ」
そして、僕たちは互いにあーんし合いながら食べていくという最高にデートな行為をした。
恥ずかしかったが、一生の思い出になるだろうなと思う。
そして、食後もいろいろな乗り物に乗って、いつの間にかもう閉演時間が迫ってきていた。
「最後にこれ乗ろうよ」
そう言ったえななんが指指したのは、観覧車だ。
「いいね」
遊園地デートと言えば観覧車だ。
そして順番はすぐに来た。
観覧車の扉が明けられ、僕たちはそれに乗る。
「ねえ、陽君」
観覧車の中で、えななんはk呟く。
「完全に二人きりだね」
その言葉にドキッとする。確かに僕たちは完全な個室に二人きりになったことがない。
互いの家にも行ったこともないし。
「ねえ、ここで何をしても誰にもばれないよ」
「何を言ってるんだ」
まるで、恋愛漫画のワンシーンのようだ。
いや、僕たちはカップルだから恋愛漫画みたいなことをしても不思議ではない。
「えななんはさ、このデート楽しかった?」
「もう、訊く事がそれ? ムードがないね」
「うっ」
それは申し訳ない。
僕にはこの完全なる個室で、えななんに何をしたらいいのか分からないのだ。
「楽しかったよ。まあでも、」
まあでも?
なぜ今それを言うのだろう。だけど、僕は分かっている。
完全なる彼氏の行動は出来ていなかったことを。
「もっと楽しそうにしてたら完璧だったけどね」
「え?」
「だって、ずっとあたしの顔色を窺ってたじゃん。それが少し気に入らなかったかな」
「それは、初デートだから緊張してたから」
「あはは、やっぱり面白い」
「それは悪口じゃないよね」
「それでいいのよ。やっぱりあたしたちはこうじゃないと」
そうか、素でいいのか。
そう思うと、思わず吹き出してしまった。
「なによ!!」
そう、僕の背中をぱしぱしと叩く、えななん。
「なんだか、ムードが無かったね」
「それはごめん」
「でも、まだ遅くないよ。だって、まだ下降し始めたところだから」
そう言ってえななんは、僕の手を掴む。
「あたしたちは、今日の一日で、仲良くなったよね」
「そうだね」
「あたしたちは、あの沈む夕日みたいに、これからも仲良くいたいけれど」
「そんな不吉な事を言わないでよ」
「当たり前よ。そんな未来お断りだし」
「ね」
そして、えななんは俺の頭を触る。
「どうしたの?」
僕は訊く。
「いえ、ね」
その顔は少しだけ赤くなっている。
「ねえ、楽しみだね、劇」
「うん」
その声に少し恥ずかしくなってしまう。
えななんは、可愛い。なんで僕の彼女になったのか分からないくらいだ。
その美貌から来るその言葉は僕の心をどきどきとさせる。




