怪談
三題噺もどき―ろっぴゃくきゅうじゅうご。
窓ガラスを叩く音が響く。
外はかなり雨が降っているらしく、一時期警報まで出ていた。
今はその時に比べたらおさまっているようだが、今日は一日中雨だろう。
「……」
その激しい雨音を聞きながら、リビングのソファに座っている。
なかなか気に入っているソファで、許されるならここで一日中座っていたいと思う程に居心地がいい。―仕事がある以上、それが許されることはそうないのだけど。
「……」
しかし今日は、早々に仕事が片付いたため、早めの休憩を取っていた。
普段ならこの時間は自室でパソコンとにらめっこをしている時間なのだが、雨のせいで散歩にも出られず、ならばその時間も仕事にあてようと……その結果、こうして余裕ができたのだ。
「……」
だから、久しぶりの読書に勤しんでいた。
ここ最近全く読めていなかったからな……あまり本を買って積むようなタイプでもないが、読めていない本は数冊あるのだ。
「……」
今日はそのうちの一冊を読んでいる。
この時期……というよりは、夏にはよくもてはやされるジャンルのものだ。
テレビ番組でもその手の特集をよく見たりするだろう。最近はそのジャンルでもまた違うような、ものが出ているらしい。が、今読んでいるのは昔ながらのなじみ深いものだ。
「……」
ホラーというジャンルに、なじみ深いも何もないと思うが。
存在自体がホラーに分類されそうな吸血鬼が、ホラーを読んでいるのもなんだかおもしろい構図だ。……忘れていたかもしれないが私は一応吸血鬼なのだ。従者は定番の蝙蝠。今はキッチンにいるけれど。
「……」
蝙蝠の姿ではなく小柄な少年になって調理をしている。
今日はシンプルなデザインのボタンで止めるようなエプロンを着ていた。身長的にその高さはつらくないのかと思ったが、そこはまぁ、自分で良いように調整しているらしい。まぁ、元々私より身長高いからな。
「……」
彼が作っているのは、毎日日課になっている休憩のお供づくりである。簡単に言えばお菓子作りだ。今日は何を作っているのかは分からないが、少し甘い匂いがしてきた。
凝視はしないようにしているけど、慣れた手つきはつい魅入る。
―見ていると目があって睨まれるので、読書に集中する。
「……」
今読んでいる本は、短編集というやつになるのだが。
まぁ、面白い。この国に百物語というのがあるだろう。それを1人で体験しているような気分になる。1人一話ずつ怖い話をして、最後の百話目に何かが起こる。
多分、それを意識してのものだろうからこの本にも百話収録されている。
「……」
今は丁度、半分ほどだろうか。
……真っ赤な口紅を引いた女に、私綺麗?なんて言われて咄嗟に応えられることあるか?私なら反射的に手が出そうだ。この口裂け女というのが出てくる話は、他の本でも見たことがある。メジャーなものなのか。
「……」
体育館というのは、学校の運動施設みたいなものだよな……そこに霊が出ることがあるのか?学校の七不思議、か。まぁ、確かに学校というモノはそれなりに古い歴史を持つものが多いだろうし、何が居ても何があってもおかしくないんだろう。この七不思議というのも場所によって違うような書き方をされている。
今度散歩がてらこの辺の学校でも見て回るかな、何かいるかもしれない。いやでも、あの少女の事もあるからなあまり近寄らない方がいいだろうか。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……ご主人」
「―――!」
びっくりした。普通に。
いよいよ大詰めというタイミングで。
いきなり声を掛けないで欲しい。
「……何驚いているんですか」
あり得ないものを見るような目で見るな。
「なんでもない」
「……準備できましたよ」
続きの気になる所だが、休憩の時間だ。
嬉しいことに今日は沢山時間があるからな。読む時間は沢山ある。
「何を読んでたんですか」
「ホラーだよ、どちらかというと怪談か」
「へえ、面白いですか」
「なかなかに」
「まぁ驚くほどですもんね」
お題:雨・口紅・体育館