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「ふむ。では一つ、課題を出すから応えてみせるがいい」
「課題、ですか……」
おっとこれはきな臭い話になるパターン?
まあ想定内の一つではあるけど……裏社会でも清廉な方と言われるノクス公爵家だけど、大きな家であればあるほどやっぱり闇深い歴史はあるからね。
いったいどこの誰の秘密を探ってくればいいのやら。
それとも盗み? あるいは……暗殺?
面倒な話じゃなきゃいいなあ、そう思いつつも私は笑みを絶やさない。
こういう時はハッタリも大事だって闇組織の人が言ってた!
「うむ。課題は――」
公爵が顎を摩るようにしてにやりと笑った。
おっとこれはかなりの難題か……!?
「我が娘、アナベルの信頼を得てみろ」
「えっ」
「そなたの言う通りであるならば、近いうちに茶会の誘いが届くのだろう。今はまだ侮られる立場にあるアナベルだが、いずれにせよそういった場には公女として足を運ぶようになる。暗殺云々は本人に伏せるが、そなたはアナベルの侍女に扮しシリウスと共にその茶会であの子を守ることで実力を見させてもらう」
「はあ」
まあ、実力についてはわかるけども。
侍女に扮してついて行って、暗殺者からお嬢様を守ればいいんでしょ?
もしくは私が捕縛側に回るんでもいいけども。
(で、それでなんで主人公の信頼?)
公爵家の使用人だから連れて行けで済む話でしょ。
しかもシリウスが一緒なら彼女だって安心でしょ。
確か小説内でも彼女はシリウスに対して、絶対的な信頼を寄せていたはず。
それはこの間の新月の暗殺者から身を挺して庇われたとかそんな感じだったと思うんだよね。
同時にシリウスは突如として現れた公女が、か弱い少女であると改めて認識してそこから恋心が……ってな感じだったはず。
くぅっ、ロマンスだねえ!
「では明日出直して参りましょうか」
「いいや、その必要はない。今この場に、あの子を呼んでこさせよう」
「えっ、いやいや雇用主のご家族にご足労いただくのはちょっと……」
私の方から出向いてご挨拶すべきでしょ。
それに私のこの格好ときたら、まさに侵入者のそれですけど!?
「いいから、とにかくそこで待て」
「はあ」
いいのかな?
まあ雇い主の言うことだから従いますけどね!
(いざって時は逃げられるように準備しとこ……)
私が読んだ小説では、アナベルはとても気の優しい女の子だったはずだ。
公爵家に引き取られて家族からの愛情を受け取ったことで打ち解けていく反面、どうしたって所作が平民のそれであることから使用人たちの一部から馬鹿にされたりなんかして落ち込む……みたいな描写があった。
それを粛清して、気持ちを立て直したところで今度は弟のレオナールと一緒に町に出てよその貴族令嬢といざこざがあって落ち込んで……その後、どうやって立ち直ったんだっけ?
(ううん、大まかな流れは思い出せんのに細かいことは無理だなあ。何度思い出そうとしても出てこないや)
前世の記憶があるっつってもこれじゃなあ。
大きな流れがわかってるだけマシっちゃマシかあ。
幸いにも公爵家が雇ってくれる方向で話も進んでるわけだし、結果よければ全てよしだよね!