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私は公爵に対して、ある程度の情報を明かした。
黒幕が誰かはわからないが、アナベルを狙うのは王子妃の座の問題であること。
第一、第二王子のどちらを王太子にするかの水面下争いが激しくなってきていること。
暗殺者界隈でも無理な勧誘などが行われ、場合によっては能力の搾取が危ぶまれていること。
嘘は一つも言っていない。
ただこれらは私が前世の記憶から得た情報であり、多少は情報屋たちから買った内容で肉付けして公爵に話しただけだ。
「能力の搾取……か。貴様もその恐れがあると?」
「はい。まあ自分で言うのもなんですが、それなりに名前をいただく程度の暗殺者であることは自負しておりますが……それでもあくまで〝それなり〟です。格上を使われて捕縛されれば、後は搾り取られるだけでしょう」
「……分相応を知る、ということか」
やや感心したように言う公爵に、私は薄く笑みを浮かべるだけに留めた。
分相応かどうかって言われたらむしろ名前ばっかり先行している気がするよって思ってます……ええ、思っていますとも。
暗殺業務も請け負うけど、どっちかってーと私は嫌がらせの方が得意なんだよね!
性格悪いわけじゃなくて忍び込んで横領の証拠とか跡形もなく盗んで町中にばらまくとかそういうのが得意なんだよ!
大臣のヅラはたまたまひっかけちゃっただけだよ!!
いやまあ、運良くヅラ吹っ飛んだからそれも利用させてもらったから……偶然による無罪、は主張しづらい、かな……へへ。
「話は大体理解した。とはいえ、我が家が貴様を庇護する理由には足りん。確かに新月の夜に襲撃があったことは認めよう。しかし情報の提供がなくとも、我がノクス公爵家で対処できる話だ」
「そうですねえ、後手に回るばかりのご様子ですが」
にこりと笑みを浮かべて挑発的な発言をしておく。
そう、ここは交渉の場なのだ。
後手に回っている……というのも、彼らは貴族社会に通じているし、当然ながら権力者として裏社会ともそれなりに懇意にしていることは私も知っている。
だからこの間の新月の夜については、彼らも事前に把握していた可能性はある。
ある、が、ノクス公爵家は強大な貴族だが、それだけに敵も多いってことだ。
そして今回の敵は複数いて、彼らが共謀して行えばそれだけ粗も出るけど同時に足取りが複数になって目星をつけるのも大変である。
相手がただの平民なら処罰して終わりだろうけれど、貴族たちとなればまた証拠だけで一方的に処罰もできず、確固たる証拠なしには処罰にすら至らない。
そうした両局面で常に相手取ってきている自負があるのだろうけれどね。
「近く、ご息女がどこぞのご令嬢から茶会の誘いをいただくはずです。ご存知でした?」
今度は愛想よく。努めて明るい声で。
頑張れ私ィ、女優よ女優!
カードを惜しまず、けど一気に切るんじゃなくてチラ見せで!
欲しいと思ってもらわなくっちゃ価値が下がっちゃうんだからね!!
「もし私を庇護下に置いていただけるのであれば、もう少し詳しく調べて参りますよ?」
こてりと小首を傾げて、無邪気を装った笑みを続ける。
さあどうだ、知りたいでしょう?
公爵令嬢が茶会の誘いを受けるのはそう珍しい話じゃないけど、まだ貴族たちの間で〝平民上がり〟と呼ばれ蔑まれている彼女に対しては情報収集をするばかりで社交界に出てくるのを待っている風潮だ。
そんな中で『誘いが来る』と断言した私に、彼らはどう対応するか。
ココが勝負!
「……なるほど。クロウ、我々の庇護下に入るならばその素顔を見せる度胸はあるのかな?」
ふわりと公爵が優しい笑みを浮かべる。
うーわ、美形イケオジの微笑みはいいねえ。
私は迷いなく仮面を外し、テーブルの上に置いた。
「何故庇護を求めた? 逃げることも可能だろう、クロウ」
「実は最近、引退を考えておりましたところで。追われた生活をするよりは、多少利用されようとも人間らしい扱いをしてくださる雇い主の方がいいかと思ったんですよ」
悠々自適な未来のためにもね!