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そんなこんなしている間に王女様はやって来た。本当に。
「歓迎嬉しく思う。しばらく面倒をかけるがよしなに頼みますよ」
紫っぽい髪色のストレートロングヘア、スラッとしたスタイル。
公爵様を前に堂々とし微笑む王女は気品に満ちている。
……と言いたいところだが、モブだなあ。
モブなんだよなあ!
いや、気品とか物言いとか人前に出て堂々としているその振る舞いとかはさすがの王族! ってかんじなんだけど、こう……モブだなあ!!
名前しか出ないモブである私(しかも本名ではなくあくまで暗殺者としての仮の名前だ)と同じ匂いがプンプンするぜぇ……!!
とはいえ私と同じ雰囲気がするったって、あちらの方が数段上であることには違いない。
なんせアナベルとかシリウスとか、サフィアン様といった物語の主要人物が麗しくて存在感が強いってのはしょうがない話。
対するカーリーン様はどっからどう見ても王女様らしい立ち居振る舞い。
確かに主役たちと比べたらそりゃ見劣りするけど、それは仕方のない話だよね。
そこに私である。
私はドがつく庶民で、アングラな生い立ちで、セリフどころか登場シーンすらない役割だったわけだから……同じモブでも比べちゃいけないのである。
モブにもモブ格差ってもんがあるんでぇ。
「公爵家の面々にこうして出迎えてもらえると嬉しいものがある。わらわは王太女でこそなくなったが、ミラベスタとアクイラ両国の友好を築くためによしなに頼む」
ちらりとシリウスに向ける視線のねっちょりさを見て私は内心うへぁ……と思ったけど、まあ気配を消すのは得意なんで!
(アレって要は『王太女じゃなくなったから、国同士の友好を婚姻で深められるぞ』って言いたいんだろうなあ~)
「カーリーン殿下に家族を紹介させていただきたく」
公爵様は完全スルーどころか面倒くさそうなの、大丈夫なのか?
まあ偉い人同士で色々と話はついているんだろうから、私が心配することもないんだろうけどね。
その塩対応にカーリーン王女も僅かに口元をひくつかせて……まあ我慢できているだけ偉い。
「当家の後嗣、アナベルが当面カーリーン殿下のお世話を務めさせていただきます。アナベルの婚約者は我が国の第二王子。きっと良き関係を築くに値しましょう」
「そうか、よしなに頼むぞアナベル嬢」
「……精一杯務めさせていただきます」
「その隣は長男のレオナール。長子のシリウスはすでにご存じでしたな。そしてシリウスの隣にいるのが婚約者のセレンです」
公爵様の言葉にカーリーン様が私に視線を向ける。
口元は笑みを象っちゃいるけど、その視線の強さは隠せない。
「セレンと申します。お目にかかれたこと、光栄と存じます」
シリウスの色を身に纏って、彼から贈られたチョーカーをつけた私はいっぱしの令嬢っぽく見えることだろう。
今にも射殺されそうな視線の強さに正直『コワッ』と思わずにいられないが、まあそこはそれ。
隣で『婚約者』って言葉に喜びを隠さない大型犬がいるので、大丈夫だろう。
……大丈夫だよね?
いきなり私を引きずるように暴走しないでよね!?




