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「……過去に、殿下の護衛としてついていた際いたく気に入られ、王女の護衛として隣国に来ないかと勧誘されたことがある。殿下方もいらした場であったのでただの冗談だろうとその場では皆笑って終わらせたんだが……」
件のオウジョサマは本気だった、と。
そのオウジョサマのお名前はカーリーン様。
三人いるオウジョサマの一番上。
隣国はうちの国と同規模の国土面積を持ち、友好関係が続く間柄。
(……確か王家の子供たちの四人は、上から順に女女男女、だっけか)
なんかの仕事のついでで隣国について調べなきゃならなかったことがあったから、その程度のことは知っている。
あちらの王子がレオナール公子と同い年、二番目の王女がアナベルの一歳年下。
そこでわかると思うがカーリーン王女、いわゆる王家のオヒメサマにしては行き遅れってやつである。
なんでも理想が高いらしく結婚相手にあれこれと条件をつけた結果、見つからなかったんだってさ。
「……確か、隣国は男児継承が優先で王子がそれなりの年齢になるまではカーリーン王女が王太女として擁立されていたんでしたっけ」
「ああ、その通りだ」
「あれっ? 私の記憶違いじゃなきゃ、王太女時代に婚約者いらっしゃいませんでした?」
「ああ、いた」
アナベルの隣で王子が大きく頷いた。
そう、行き遅れなんて表現をしてしまったが彼女にはやはり王家の人間としての責務はそれなりに課せられていたのだ。
王子が産まれてからその座を譲るまでに、家族間でどんな話があったかによっては愛憎劇とかありそうだな……なんて人ごとなのでぼんやりそんなことを思ったりなんかしちゃった。
いかんいかん、そのカーリーン王女がシリウスを気に入ってるって話だったね!!
「どうやら王女は本当にシリウスのことを気に入っていたようで、当時、私が彼女と会った場というのが王太子の交代式典だったんだが……」
隣国に挨拶に行った王子の護衛、王族同士の歓談……その場の冗談。
その程度の話だと思ったら、まさかのその直後に王女の婚約解消話、申し込まれた縁談……と来て、シリウスがそれを断ったことで事態は終わった、と思われたのだ。
というよりも王子もシリウスも『断ったんだからそれで終わりの話』と思っていたのである。
(まあ、何年も前の話だものね、王太子交代って)
レオナール公子が今十四歳。
確か隣国の交代劇は王子の十歳の誕生日に合わせてのことだったから……四年前ってことになる。
国同士としても利点がないわけでもないけど、無理に関係を結ばなくても全然大丈夫だったらしい。
断ったけれどノクス公爵家が隣国の大臣と業務提携で協力関係もしていたから、そっちで公爵家の負担を増やすことでバランスはとったらしいし……ついでに言うと公爵家からしてみれば微々たる差だっていうから……うん。
「だが……俺が恋人に結婚を申し込んだという話がどこからか伝わったらしく、先日の交流会で弟と接触してきたというわけだ……」
いや、プロポーズされたロマンス的な言い様だけど監禁して有無を言わせず受け取らせたよね?
私が納得しているからいいものの、実際はそういうことだからね?
ということは笑顔で黙っておいた。
私は空気が読める方だからね!