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(あれは~……あーらら、どうしたもんかな……)
まるで見覚えのない二人、だったら話をして撃退するなり穏やかに納得してもらうにしろ、とにかくお帰りいただけば済む話。
家の中に入れる選択肢はないよ、最初からね!
なんだかんだ言っているけど、ここはシリウスと私の家だ。
彼はここに他人が足を踏み入れることを嬉しくは思わないだろうし、私もまたそうだ。
たとえそれが、彼の家族であっても、だ。
(レオナール公子がなんだって……)
そう、あそこでギャアギャア騒いでいるのはシリウスの義弟で、アナベルの実弟……ノクス公爵家の後継者であるレオナール君である。
御年……いくつだっけ、関係ないと思って忘れちゃったな。
とにかく、シリウスが大事にしている家族の一人なので私としては是非穏便にお帰りいただきたいところだけど……わざわざこんなところまでやってきて結界を壊してまで無理に入ろうとしているあたり、きな臭さを感じずにはいられない。
(私の存在を知ってここにやって来たって考えるのが一番しっくりくるよねえ)
その内容だよ、問題は。
第一候補、尊敬する義兄が会わせてくれない女性に会いに来たってパターン。
シリウスの考えを尊重してくれるんなら、門扉のところで言葉を交わすだけで帰ってくれるかもしれない。
第二候補、尊敬する義兄が囲っているという得体の知れない女がいる、何者だ! ってパターン。
こっちは結構面倒だよね。納得してもらえるビジョンがない。
会わずに済めばそれが一番だけど、ここまで強行手段に出てくるとなると……。
(あの魔道士、結構強そうだしなあ。護衛騎士って感じじゃなくて魔法の本職、かな?)
第三候補。
一番あってほしくないけど、シリウスの考え云々はとにかく後回しで『義兄に相応しくない女を排除しなくては』っていう正義感に駆られての行動。
これだといろいろ面倒って言うか、厄介って言うか……。
(結界が保ってくれればいいんだけど、無理っぽいな~)
シリウスが帰ってくる……ことに期待してばかりもいられないし、結界を壊されたら壊されたで彼らを追い返したところで修復が私の魔力量では厳しいことを考えれば、答えは自ずと出た。
大変遺憾であるが、これはもう私が玄関の外に足を踏み出さねばなるまい。
なにせ、平穏な暮らしを守るためである。
あと、ほら、あれだ。
シリウスを困らせたくはないんだよ。うん。
大事な義弟とはいえ勝手なことをされたら彼だってさすがに腹も立つだろうし、仕事から疲れて帰ってきてこんなことになっていたら疲労も倍増しちゃうじゃない?
弟を説得して、魔法使いにむやみに人の家の結界を壊すなと注意をして、結界を直して……私だったらそんなの仕事で疲れて帰ってきて目の当たりにしたらキレそう。
「あのー……」
でもまだね、第一候補の可能性だって限りなくゼロに低いとはいえゼロじゃないんだからさ、上手くいくかもしれないじゃない?
とりあえず結界を壊さないでもらえれば、あとは対話で……。
「むっ、現れたなこの魔女め! 兄上を誑かした罪、贖ってもらうぞ!」
「え、いやいや魔女って。私はついこの間まで正式にノクス公爵家で雇われていたメイドで」
「ええい、問答無用だ! まだ結界は壊れないのか、ジョン!!」
「今やってますって……!」
いや聞けよ人の話ィ! そして壊すな!!