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あれから私は考えた。
特別すること……いや、やれることなんて何もない部屋だ。
ぼーっとするか何か考えるかしてないとやってらんねえですわ。
一応娯楽としての本は置いてあるけど、何を考えているんだか保護魔法がかけられていて破くことなどはできない。
殴打のための武器にしろって言われたらできなくもないだろうけど、別に私はシリウスを傷つけたいわけでもない。
(多分、私の好意自体はシリウスにはバレてんだよね)
別にそれはいい。
問題はそこじゃないから。
そして私が問題視している部分を、シリウスはわかっていて無視している。
たとえば、私がアナベルのように実は高貴な生まれだったとしたら問題なかったのか……と問われたら難しい話だ。
結局のところ、攻撃したい人は何かしら文句を言う。
アナベルに対しても、私が去る前も『平民育ち』って部分だけを強調して王子の相手として……みたいなことを言っているやつがいたみたいだしね?
まあ、そういう輩はノクス公爵家が対処していたみたいだけど!
(……同じように、シリウスはノクス公爵家に戻ることで、私をバカにするヤツはひねり潰していこうとしている)
家族のためにというのは間違いなく本音だ。
でも王宮騎士ではできないことが、ノクス公爵家に戻ればできる。
たとえば、平民メイドを妻に迎えることとか、ね!
だからこれは私自身が納得できるかどうかってところなんだと思う。
いやでもさあ、普通に考えて元・暗殺者が国王と肩を並べるほどの権力を持つ公爵家の長男と恋仲? あり得なくない?
アナベルが受け入れられているのは本当に公爵家の失われたご令嬢だったからであって、私が世間に受け入れられるのかっていうと微妙なラインでしかないんだよ?
いっくらシリウスが公爵家の長男でその庇護を受けられるからといって、それで万事解決というのには遠すぎる。
しかもなんといってもシリウスが美形なんだよなあ!
それだけでもやっかみを受けるに値するっていうか、妬まれて燃やされるんじゃないか私。
(……って、この世界の美醜感覚だとシリウスはいまいちなんだっけ)
平民ウケはいいけどね。
がっしりした体つきとか、精悍さって貴族女性たちからは怖がられるとかなんとかそんな……。
まあ塩イケメンがいいとか、彫りの深さが筋肉が年収が……とか美醜感覚って流行があるからね。年収は違うか。
男性側も儚いのがいいだのボンキュッボンがいいだの若ければ若い方が……とか言うからおあいこだと思っておこう。うむ。
(……シリウスが根回しもし終わったと言っていたのを考えれば、公爵様も許してるってことなんだろうな)
長男が頑固でとりあえず熱が冷めるまで好きにさせておこうと思っている可能性は否めないけど。
だってあの人、私が元・暗殺者だってわかってるわけですしね!
可愛い可愛い義理の息子(血縁上は甥っ子)の相手としてどうなの?
……って、シリウスのメイドに任命したのはあの人だったわ。
「あー……もう、シンプルに考えるか……!」
逃げても追ってくるってことはわかった。
シリウスは私が好きで、逃がす気は今のところない。
私はシリウスが好き。
このまま平行線ではこの軟禁生活は終わりが見えない。
(ならば導き出される答えは一つ……!)
乗っかるしかないよね。この状況に!
恋人になって信頼を得れば、もっと建設的な話し合いにだってなるんじゃないかな。
今は『家の中が安全』『逃がさない』『自分の傍にいろ』状態なシリウスにはもう何を言っても届かない。
信頼を得るまでは長そうだけど、なんていうか相思相愛? には違いないし?
ちょっとヤンデレているうちに矯正できた方があらゆる方向でいいと思うんだよね。
……軟禁は、ちょっとの程度に入るかってのが難題だけど。