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シリウスは宣言通り、私のことを部屋から一歩も出さなかった。
従順なフリをして外に出してもらい、この状況を穏便に打破するためになんとかしなくては……と私もいろいろ考えてはみたよ?
だってさ、軟禁されたっつってもシリウスは決して私に酷いことはしない。
食事や風呂の準備をしてくれて、お互い寝る時間まで話をし、寝るときは別の部屋へと言う紳士っぷり。
ちなみに愛の言葉はもらった。
それに対して返答はしていない。
軟禁されたところで、私はシリウスのことを見損なったりなんかはしていなかったから嬉しいとすら思った。
でも、それだけじゃだめなんだよね。
世の中では愛さえあれば乗り越えられるとか言うけど、それだけで物事が上手く行くなら裏社会も貴族社会も存在しないんだよ。
そういうのの中でちょうどいい相手と育めばそりゃいいだろうけどさ……。
(……例えば、私がこの気持ちを打ち明けたら彼はすごく喜んで受け入れてくれるだろう)
恋人となって、でもその先は?
たとえ跡目を継げないにしたって、シリウスはノクス公爵家の人間だ。
現在は当主の長子であり、いずれは当主の兄としての立場で常に公爵家を支えていく存在なのだ。
そんな彼の隣には、その立場に相応しい人間が求められるだろうし、私もそれが正しいと思う。
だから、応えられるはずがない。
そんな私の考えなんてお見通しなんだろう、シリウスは私を急かすことはなかった。
『いいさ。……どちらにせよ、セレンは俺といるのだから』
いや急かさないっていうか……決定事項だから気にしないってのが正しいな?
うーん、お願い、もうちょっと対話をだね……!
両思いだとしても、私の身分も出自も、どうにもならない。
たとえ執事の親戚の、それまた親戚の娘で奉公に来ていてお互い想い合うようになったとかそんなロマンチックなストーリーを作り上げてどこぞに養子に入って結婚したって、正統な血筋には劣るとか文句をつけてくる人はどこにでもいるんだって話だよ。
私はシリウスの足を引っ張りたくないんだよ。
幸せになったアナベルへの恋情で心が潰れない状況は良いことだと思うけど、それでもこれはなんか違うでしょ!!
(……でもそもそも、私が一方的に逃げ出しちゃったのがきっかけだろうしなあ)
元々過保護な長男気質に加えて、一途で重たい愛の持ち主であった彼はその矛先を見失ったからと言ってすぐに切り替えられるタイプではないのだろう。
ましてや、私はそれなりに名のある暗殺者であったことからどこかで生きていると彼は確信していたのだろうし、見つけ出す気しかなかったってところじゃなかろうか?
(……実力を信じてくれているのはありがたい。ありがたいけど、ね?)
信じているからこそ、私の従順さに疑いを持つ彼はそれこそ宣言通りに、仕事に出る際は私を鎖で繋いだのだ。
短時間の場合は両手をベッドに括り付けられたこともある。
長時間の場合はトイレに行けるよう長い鎖のものを片足に嵌められた。
これは一応、室内は自由に動ける長さだったけど……。
ちなみに館中の扉は魔道具で鍵がされており、その解錠は〝特定の〟魔力にのみ反応する条件――つまり、シリウスの魔力だけに反応する仕組みだそうだ。
(……徹底しすぎじゃなぁい?)
どうしたらいいのこれ。