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はっきり言って私は平凡な容姿だ。
割と艶のある黒髪は最近手入れもしっかりしているから自慢だけど、それ以外は……うん、まあ……ええと、色白なところとか?
若干こう、成長期がしんどい暮らしをしていたせいでやせっぽちではあるが幸いにも身長は一般的だと思うし、スレンダーで通せるレベル。
体のあちこちに傷跡が残ってはいるものの、普通の服を着ている限り露出した面で見えるもんでもない。
だから仮面を外し、一般人として生活する分には目立ちようもないわけ。
この世界じゃ黒髪黒目ってのは珍しくもないしね!
(魔力が強い人は属性が目や髪の色に出やすいって通説だし、実際私は魔力そのものは低めだし……)
私に限らず平民は暗い色の髪色の人が殆どだ。
赤みのある焦げ茶色の人は火の魔法が得意な傾向にあるとか、青みがかった黒だと水の魔法が使えるかも……とかそんな程度。
鮮やかな色のやつがいたら貴族と疑え!
ちなみに主人公アナベルのいるノクス家は水の属性が強く出る家系らしくて、きれいな青みがかった黒髪に、青色の目をした人が多いらしい。
アナベルは母親譲りの輝くような金髪だけど、とても澄んだ冬の青空みたいな目をしてるって設定だったはず。
私は黒髪黒目ではあるものの、魔法適性が高かったから裏の組織に引き取られて暗殺者として育てられたんだよね。
魔法適性が高いといろんな魔法が使える可能性があるから、色だけで判断せずそういう才能ある子供を早いうちから見つけて手元で育てるのは戦略的である。
でも組織が期待するほど私の魔力は増えなかったから、期待外れだったってがっかりされたのは今となってはいい思い出……ではないな、うん。
それならそれで体術覚えて組織の役に立てって死ぬほど鍛えられたからな……。
いっそ今ある貯金を使って、安全に……少なくとも物語の終盤が五年後とかのはずだから、隠れて過ごすってのはありだろう。
でも何かあった時に助けを得られる可能性が低い。
私より強い裏稼業の人間なんてたくさんいる。
その事実を考えると……一人で立ち向かうのは単なる無謀だし、隠れているところを炙り出されたら逃げる場所も……ねえ。
むむ、これが四面楚歌ってやつか……!
「あ、そっか。物語って今が始まった時期ってことか」
この世界は現実だ、少なくとも私にとって。
明日をも知れぬってほど恐ろしい世界じゃないけど、ご飯を食べなきゃ死んでしまうし、ご飯を食べるためにはお金を稼がなくちゃならない。
お金を稼ぐためには働かなくちゃならないし、働くためにはそれ相応に行動しなくちゃならないわけだ。
(暗殺者クロウ……すなわち、私がいつ主人公たちの敵勢力によって捕らえられ能力を搾取されるかなんてことは物語に書かれていなかった)
だってモブだし! 仕方ないね!
でも私には前世の知識という強みがある。
世間の動向を観察しておけば、物語通りに進んでいるかわかるってことでしょ?
(……もし、それなら)
ここがたまたま私が前世で読んだ世界と酷似しているだけなら。
その前世で読んだ小説が預言書みたいなモノだとして。
イベント的に大きな話の流れが一緒なら、私がそこに割り込む隙があるんじゃなかろうか。
(……時期を見て、主人公たちに接触して庇護下に置いてもらえばいいんじゃない?)
私の特殊技能を明かしてしまうのはちょっとリスクがあるから秘密にする。
飼い殺しは好みじゃないからね。
お金を貯めて余生は悠々自適するっていう私の将来設計を考えると、騎士団や王国のために未知の毒や物質の分析・分離で生涯を終えるとかはごめんだね!
いや正当な扱いを受けるならいいけど、暗殺者だからなあ……どう考えたってそんないい扱いしてくれる気がしないよなあ……。
過去に大臣だかなんかのスキャンダルになるような事件も仕組んだし……ヅラも暴露しちゃったし。
他にも愛人同士をぶつけるとか、横領の証拠を盗んで敵勢力に渡したりとか?
暗殺以外もそういうのやらかしてんのがなあ、地味に恨まれてそうだよなあ。
お? 捕まる以外の道が見えないな?
こっちもお仕事だったけどまあ違法も違法だしね……。
まあ物語通りに話が進まないんなら、それはそれで考えりゃいいか!
むしろそっちでありますように!!
次は18時投稿~