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 ついさっきまで姿を思い返してうっとりしていた恋しい人が、なんだかすごい覇気を纏って笑顔なんだけど絶対に怒っているなっていう雰囲気を漂わせ、バイオレンスな登場をしてきたもんだから体が勝手に反応した。


 そう――つまり。


 荷物をひっつかんで窓から逃走した。

 いやだってなんだあれ魔王が来たのかと思ったわ!


 逃げたことに対して怒っているであろう人を相手に逃げるってのはどう考えても悪手では? って飛び出してから気づいたけど、いやでもあれは無理ぃ。

 そして今はまだ対面して何をどう言い訳していいかもわかんないじゃない?


(ごめんね、シリウス!)


 心の中で謝罪をしてとっとと逃げようとする私の周辺に魔力圧を感じ、咄嗟に足を止める。

 その行動は正しかったらしく、氷柱が地面から勢い良くせり上がり私の行く手を阻もうとした。

 というかこれ一歩間違えたら私が氷付けになるヤツでは……?


 えっ、そんな殺意高くなるほど怒ってらっしゃる……!?


「ひぇえ」


 思わず出てしまった情けない声。

 けど私もそこで竦んでられないので足を魔力強化して氷柱を乗り越える。


「セレン!」


 聞こえてきたその声に振り返れば、窓から身を乗り出すようにしてこちらを見ているシリウスの姿。

 ああーあーあーやっぱりかっこいい!

 その黒い制服もお似合いですよ!!


 やっぱりここは許してもらえなくても謝罪の一言でも……。


「シリウス様……」


 しかし彼がここにいるってことは、当然ノクス公爵家の騎士たちも近くにいるのだろう。

 一斉摘発か何かなのか知らないけど、これはヤバい。


 それにこんだけの騒ぎになったのだ。

 いくら真夜中とはいえ、町の自警団だって黙っちゃいないだろう。


 一応あるんだよね、自警団。

 まあ碌でもない連中で、殆どチンピラと変わんないんだけどさ……ついでに言えば連中は長いものには巻かれろ主義なので、ノクス公爵家が私を捕まえようとするなら全力で協力するに違いない。


 この町の自警団連中と争っても負ける気はしないけど、それでも数の暴力には勝てないのは目に見えている。

 私は周囲に注意を払いながら、もう一度シリウスを見上げた。


「シリウス様、勝手にいなくなってすみませんでした!」


 でも、言いたいことを言えて良かった。

 許してはもらえないだろうけども。


 言い逃げよくないとわかっちゃいるが、私にだって事情があるのだ。

 主にこの制御し切れていない乙女心な部分とか、身分差云々で諦めているのに嫉妬しちゃいそうな恋心な部分とか、自覚しちゃってからは彼を前にときめいちゃってきっと以前みたいに気安い態度が取れないであろう部分とか!


 そんな私の謝罪に、彼は少しだけ驚いたようにあの綺麗な灰青の目を瞬かせたかと思うと――また、笑った。

 それはもう、嬉しそうに。


 でもその笑みは以前みたいな朗らかな笑みじゃなくて、私は本能的にその場を逃げ出すために踵を返す。

 少しでも遠くに行かなくちゃ、その考えだけが私の頭を占めていた。


 けどすぐにとんでもない衝撃が私の背中に走る。

 打ち抜かれるというよりは叩かれたような衝撃に、何が起きたか一瞬理解ができなかった。


 でも向けた視線の先で、シリウスが――最新の魔導銃を構えているのを見て、彼が私を撃ったのだと……それだけは、理解できたのだった。

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