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本当に、早く、帰ってきやがった……!!
こちらの気を知ってか知らずか、シリウスは当たり前のように日暮れ前に帰ってきて湯浴みと着替えを済ませ、私を伴い町に出た。
夜市はいつだって賑やかだ。
彼は私と共にいくつもの屋台であれこれ買い付けて、そのまま囓る。
この姿だけ見たら、誰も彼のことを〝悲劇の公爵家長男〟シリウス・フェローチェス・ノクスだとは思わないだろう。
今だってシンプルな白シャツにズボン、飾り気も何もないブーツ姿だ。
そんな格好で串焼き囓っててもかっこいいからずるいよなあ!
(……それにしても用件をなんも言われない……!)
途中途中で『あれ食べるか?』『喉は渇いていないか?』なんて世話されているような気がしないでもない。
私が世話する方なんだけど!? メイドなんだけど!?
おかしくない!?
「シリウス副隊長?」
賑わう中を歩いていると、ふとシリウスが呼び止められた。
家名で呼ばれると厄介だから、同僚には名前で呼んでもらっているって前に話してくれていたことを思い出した。
ということはあの人は同僚……というか、副隊長だったんだシリウス。
王子の側近で国軍に所属している王宮騎士としか聞いてなかったから知らなかった。
なるほど、高給取り……。
実家が太くて強くて高給取りで世話焼きの、義妹に恋する不遇な兄とかなにそれ属性盛りすぎじゃ……?
思わずそんなことを秒で考えていたら、シリウスから「そこで待っていてくれ」と言われたので大人しく買ったばかりの果物串を囓って少し離れた位置で待つ。
人が多いけど、念のため彼の方へ注意は払っておく。
シリウスは推定・強いから大丈夫だとは思うけど、私は彼の護衛を兼ねた戦闘メイド(暫定)ですからね!
いや私の立場ってなんだろうな?
一応ノクス公爵家の使用人ではあるし、シリウスの専属メイドみたいな感じらしいけど……よくわからんのよね……。
「可愛いメイドさんじゃないですか!」
「……あいつのことは気にしないでいい。お前も夜市を回るのはいいがほどほどにしておけよ」
おっ、私が褒められている!
まあリップサービスとして受け取っておこうじゃないか。
それにしてもシリウスは部下に慕われているんだなあ。
そりゃそうか、あんだけ男前で実力があって、世話焼き属性なら兄貴分として慕われてもなんにも不思議じゃないや。
「それにしても残念です。副隊長が辞めてしまうだなんて」
「……国王陛下も理解してくださった。これからはノクス公爵家の為に尽くすつもりだ。回り回って国の為になるのだから、お前たちと志は何も変わらない」
(えっ、王宮騎士を辞める……?)
聞こえてきた会話に思わず驚いて苺を丸呑みしてしまった。
何それ、私聞いてないんですけど?