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(……今、ストーリー的にはどの辺なのかな)
予定通りノクス公爵家の庇護下に入ったまでは計画通り。
いろいろ細々とした点で首を傾げるような些細な違いはあるものの、概ねストーリー通り物事は進んでいる……のだけれども。
正直、私は本編から離れた生活しすぎて状況がまるでわからんのよね。
まあね、ノクス公爵家の使用人になったと言っても私はあの家から出ているシリウスの専属メイド!
主人公であるアナベルが同じ平民で孤児院育ちっていう共通点から私のことをお友だち認定まではいかないものの、家族や他の使用人たちよりは相談しやすいみたいな雰囲気かもしているけど私はどこまでいってもモブなのだ!!
「うーん」
ぐるりと鍋をかき混ぜながら考える。
このままシリウスの傍で働いているのは別にいい。
むしろこの生活、手放せないほど快適。
だってお料理してお掃除して洗濯して、シリウスが帰ってきたら給仕して朝ご飯の仕込みをして明日の準備をする。
これが私の基本のルーティーンなのだ。
美味しいお酒も調味料も揃っているこの状況で好きなだけ食材使ってよくて、配達してもらえて、何の不満があろうか!
朝も昼も晩もなくこき使われることもなければ命の危険もないし、潜入その他で神経をすり減らすこともない。
快適ってこういうことを言うんだよなあ……ってこの生活をしてしみじみ思ったものだよ、うん。
今までどんな生活だったんだよって、それは聞かぬが花ってもんよ。
ちなみに本日のメインディッシュはすね肉の煮込み。
じっくりコトコト煮込んでいくぅ!!
先日シリウスが王子様にいい赤ワインをもらったって言うから、それに合う料理を作らないといけないと張り切ってみたわけよ。
まあそれはさておき、本編よ本編。
どこまで進んでいるのかなあ。
正直、細部はいろいろ違うこともあるから私の知識で事前にどうのこうのってのは難しい。
大筋が守られているから、情報屋に対して『こんな動きがあったら教えてほしい』くらいはできるけど……いつ・誰が・どんなことをするのかってのがわからないんじゃ動きようがないからね……。
(次は王子の暗殺だとは思うんだけどね……)
本来なら私を捕らえたどこぞの勢力がどんな手段を使うのかわからないけど、とにかく私の特殊技能……分析と分解を利用して、新しい毒を作りだし王子はそのせいで死の淵を彷徨うことになる。
それを救うのが我らが主人公アナベルなわけで……。
(王子が毒殺されるかも、暗殺されるかもってのは正直日常茶飯事過ぎて『狙われてるから気をつけて』なんて具体性も何もあったもんじゃないこと言ったところで呆れられるのがオチだわ……)
私がこうして自由に(?)生きているせいで毒殺じゃなくなるかもしれないし、他の誰かが犠牲になっているかもしれない。
そうなると当たり前だけどストーリーの進行はまた変わってくるだろうし、今更ながらちょっと平穏に馴染みすぎて平和ボケしてたなあと反省。
(万が一、ノクス公爵家に何かあったらそれはそれで私の人生設計が崩れちゃう)
夢の退職金が!
そいつを当てにしてんのよ、こっちは!!
(あーでも、最近やたらシリウス忙しそうにしているから……ってことは中盤から先なのかな)
確か物語的には王子が暗殺されかかってアナベルが解毒のために動き回る、その際シリウスがついていってクロウを発見。
そうして王子の命は救われ、二人は婚約。
(王子は次期当主として認められたアナベルの婿になり、シリウスはそんな王子の護衛として王宮騎士を辞めて再びノクス公爵家に戻るのよね。切ない恋心を胸に、それでも愛する人の傍にいられるなら……ってな感じで)
でも現実、シリウスは相変わらず『王子の人使いが荒い』だのなんだのぶうぶう言いながら日々を忙しく過ごしている。
ってことはまだ王子の暗殺事件は起きていないってわけだ。
(……このまま、平和にただ王子とアナベルが結ばれてくれればいいんだけど)
あれっ、でもそれだとシリウスが報われないな! どうしよう!




