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大公家は正式に私を……セレンをノクス大公家のメイドとして認定した。
そしてなんと、シリウスの専属としたのだ。
これにより私はノクス公爵家の使用人の一人としていろいろな恩恵を受けることができるし、シリウスの専属ってことで当面これまでと同じ生活を送ればいいってわけだ。
勿論、ノクス公爵が呼べば別だ。
そちらが雇い主なのでね!
「しかしこうしょっちゅう王都のノクス公爵邸に足を運ぶことになるとは……」
「まあしょうがないな。アナベルがお前に会いたがっているんだから」
「はあ、まあ、ありがたいですけど」
アナベルの血統確認はまだ行われていない。
先日の侯爵家の騒ぎもあって、王家も公爵もそちらの対応が忙しいからだ。
もっと安全を確保してからでないと、アナベルの身に何かあったら困るってね。
今度こそ守り抜くって強い意志を感じたよ。
(物語は細かい部分が違っても、まあ滞りなくってところか……)
細かい部分って言うにはかなり結構な違いだとは思うけどね?
まあ時代の流れのような大きな流れで考えれば、小さなことだと思うのよ。
そういうことにしておいた方が精神的に楽じゃない?
難しく考えてもどうしようもないしさ!
(アナベルは私に会いたいって言ってくれるけど、私は空気が読める人間だからちゃーんとシリウスに後を託してそっとその場を去るくらいできるもんね)
今の時期、小説だとアナベルの登場にシリウスは少しだけ複雑な思いを抱いていた。
それもそのはず、彼女が誘拐されなければシリウスは養子に出されることはなかった。
たられば言ったってどうしようもないし、彼にとってノクス公は伯父であり尊敬する義父だ。
弟が生まれてからも、アナベルが見つかってからも、それは変わらない。
だからこそ彼は、家族が大事に想っていた第一子――つまり、アナベルを大事にしようと心に誓っているのだ。
大事な家族が、これ以上誰も失わないように。
シリウスも両親の死と、兄との関係で失う辛さはその身をもって知っている。
この〝兄との関係〟も後々アナベルの活躍によって確か改善されるんだったと思うけど……とにかく現状、シリウス・フェローチェス・ノクスにとって〝家族〟以外に大事なものはない。
それは依存と同じような状態だ。
頼れる長兄、元跡取り、家族を大事にする以外に己に価値を見出せなくなってしまった彼がアナベルという少女を通して、〝自分〟を大切にしてくれる彼女を愛していく……というこの切ない部分!
まあ報われない恋を応援するってのはどうなのかとも思うけど、最終的に物語が大筋通りに行くんならきっと私が彼に見合う素敵なお嬢さんを見つけて紹介したところで、アナベルに恋する気持ちは抑えられなくなるはずだろう。
だってあの小説での! 大事なポイントだからね!!
とはいえ、やはり報われない秘めた恋……小説で見ている分には切なくてキュンとするであろう部分も、目の前で苦悩されるとこちらも〝知っている〟だけに可哀想に思えてならないというかなんというか……。
(まあ、できるだけフォローというか慰めというか……美味しいもの作ってあげよう!)
美味しいもの食べて過ごせばなんとかなるって! 多分!!