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記憶を取り戻した私がやるべきは、状況整理だった。
ここが前世の私が読んだ物語とよく似た世界であると仮定して、物語の方は当然ながら主人公をベースに話が進むために将来的に私が死亡する理由について、詳細はわからない。
主人公は公爵家のご令嬢ってだけでも敵が多かったって設定で、生まれてすぐ行方不明になったのもその敵対勢力のどれかが攫った……的な設定だったと思う。
加えてラブロマンスでメインヒーローとラブラブなんだけど他にも当て馬なサブヒーローがたくさんいてどいつもこいつもヒロインにメロメロなもんだから、そのメインヒーローと当て馬を好きな女性陣たちから嫌がらせを受ける……ということでヒロインは四面楚歌だな。敵多いわ。
結局どの勢力もあわよくばヒロインを亡き者にしたいって勢いだから、どいつもこいつも私を捕らえて利用してきそうな気がしてならない。
「くっそ、詰んでるとしか言いようがないじゃん……」
とりあえず私は普段仮面をつけて仕事をしているし、なんでもかんでも請けているわけじゃないからある程度の信頼ある(?)暗殺者だ。
いつまでも暗殺者じゃ食っていけないってわかっていたので、貯金もある程度はある。
「国外逃亡、いやそれは現実的じゃないな……」
生活苦の未来はちょっとな……。
かといって今すぐ足を洗ったところで罪が消えるわけでなし、そっちの理由で捕縛されてそのまま……なんて可能性もある。
そうじゃなくてもどこぞの貴族たちが腕のいい暗殺者をお抱えにしたいって何度か打診もあったことを考えれば足を洗うのだって簡単じゃないかもしれない。
それに、よその国でも同じように仕事しているから場所が変わっても状況が変わんないって言うね!
くっそ、なんで私は暗殺者なんだ……!!
幸いにして私は天涯孤独なので人質を取られるとかそういうリスクはないのだけれど、私の人生設計に問題が生じたことは間違いない。
「ぐぬぅ……」
クロウとして私の素性や能力を知る人間は限られている。
お互いそれ相応に貸し借りがあったりするので、基本的に売るヤツはいないと信じたいけれど……過信は禁物、それが裏社会のルールだ。
となると、ある程度の権力者のところに身を寄せるのがいい……が、それはそれで暗殺者として使われる未来になるので私の引退後の平穏な暮らしは難しくなる。
(……私の能力狙いってのも、気になるし)
この世界は剣と魔法の世界。
しかしながら魔法ってのは一般市民も使えるけど、貴族連中の方が強い魔法が使える。
それはお金持ちだから基礎から学べる……っていう点以外にも、国の歴史ってもんが関係してくるのだ。
国ってのは、一つの群れから始まる。
強い連中が敵を倒して群れを大きくしたり、守ったりする。
そして群れが大きくなればその貢献度で格差が生まれる。それが王や貴族の始まりだ。
つまり、今の王侯貴族は魔法などを用いて敵を退け領地を拡大した人たちの子孫なので、優秀な魔法の遺伝子その他を受け継いでいるから魔力が平民より多いって寸法だ。
だがまあ、平和な世の中が続けば平民落ちしたりご落胤がいたりもするので、たまーに傑物が現れたりする。
そういう人がまた貴族になって……ってのが繰り返されている世界だ。
そんな世界で私はいわゆる孤児で、親を知らない。
魔力が平々凡々からやや下程度であることから、親はきっと平民で、私は口減らしかなんかで孤児院前に捨てられたんだろう。
まだ良心的な人たちだったのかもしれない。知らんけど。
そんな私には特殊技能がある。その名も〝分析〟と〝分離〟だ。
特殊技能ってのは生きていると突然生えてくるとされる謎のスキルで、低確率で貴族、平民関係なしに生じるものらしい。
しかも使えるスキルか? っていうとそこまで……ではないなあってもの。
例えば頑固一徹な鍛冶職人のおっちゃんが、齢六十にして生えた特殊技能は調理だった……なんて話もあるからね。
気がついたら天啓を得るのに『あ、生えたの』くらいの反応しかされない、それが特殊技能である!
数百人に一人、それも人生いつのタイミングで生えるかもわからないのにこの扱い! 可哀想!!
でも私は違う。私はこの特殊技能を大いに活用している。
訓練の賜により精度に優れ、なんでも分析・分離ができるのだ。
使いすぎると目が充血しちゃうしめっちゃ痛くなるからあんまり集中して使いたくないけども。
ちなみに生き物は分析できても分離はできない。
そもそも相手の方が魔力が強いと分析そのものができないけどね!
ただまあ、暗殺者なんかしていると毒の分析ができるって結構助かるのよねー!
(……まあ分析ができてもそれに対して解毒の対処が一人でできるわけじゃないんだけど)
あくまで構成要素がわかったらそっから調べてなんとか、レベルだ。
だから時々、新種の毒に対して信頼できる薬師と協力しつつ解毒剤を作るアルバイトでお小遣い稼ぎをしている程度なんだけど……。
「どいつを疑えば安全なのかさっぱりわかんないな!」
私の素性を知る裏社会の連中を疑ってかかるのがいいんだろうけど、藪をつついて蛇を出したら意味ないからね!
もしやこれまでの依頼主たちで私の正体にたどり着いたやつか?
それともこれまでの暗殺対象の仇討ち連中か?
はたまた私を暗殺者として育てた、今はもうない組織の連中なのか?
なんにせよノクス公爵家を攻撃するために私を利用しようとするのは誰だ!?
あーっ! 可能性ありすぎてわかんねえーっ!!
次話は12時投下予定です