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「ヴェゼルッ、コートニーッ……何を……いったい何があった!!」


「シリウス義兄(にい)様! ヴェゼルが、あの、血を、コートニーが調べ、でも」


 オロオロするアナベルが必死に言葉を紡ぐけど、支離滅裂だ。

 まあそりゃそうだろう、彼女はよくわかっていないのだから。


 私は傷口に突っ込んだ指を抜き取って、軽く振った。

 綺麗な煉瓦敷きの歩道が汚れたが、知ったこっちゃない。


「アナベルお嬢様、シリウス様、今から言う花を摘んでくださいませんか。火急かつ速やかに必要でございます!」


「……何をしているんだ」


「説明は後ほど。ヴェゼルの命をまずは救わないと」


「……言え」


「はい」


 ヴェゼルは毒に侵されてすぐに反応したが、私はまだ(・・)大丈夫。

 ただちょっとだけ耐性があるってだけで、毒による苦しみそのものはもう出ている。

 傷つけた腕は刃物傷とは違う痛みで熱を帯び、指先はガクガクと震えっぱなしだ。


 言葉がはっきり口に出せるうちに私は必要な草を摘んできてもらい、アナベルを見る。


「これをハンカチに包んで()した汁をヴェゼルに飲ませてください」


「えっ……?」


「早く。簡易的なものですが、毒を抑え込めるはずです」


「……わかったわ!」


 私の言葉にアナベルが戸惑いつつも、覚悟を決めてぐっと草を握りしめる。

 そうして道具もないけど、特殊技能に覚醒してくれるならともかくそうじゃないなら完璧な解毒は望めない。


 アナベルが私に指示された薬草類を一つずつハンカチに入れ始めたところで、彼女はピタリと動きを止めた。

 ゆっくりとした動きで、私を見る。


「これ、神経毒……それから、出血毒?」


「そう。とりあえずそれを止める。他の混合毒についてはここでは処理しきれない」


「わかった」


 そしていきなりすごい勢いで薬草の数を選り分けたかと思うと彼女はためらいなく、ハンカチを握り潰した。

 綺麗な手が緑色の汁に塗れるのは申し訳ないけど、彼女の躊躇いのなさに私は『覚醒したんだ』と理解する。


「ヴェゼル、飲んで……!」


 そして容赦ねえ。

 あの青臭いハンカチの塊を口に押しつけたではないか。


 わあ、と思わず小さく漏らしてしまった私は悪くないと思いたい。

 けど私もその汁を分けて欲しいんだよなあとぼんやり眺めていたら、シリウスが同じように握り潰したハンカチをぐいっと押し当ててきた。


「いっっったぁ……!?」


「我慢しろ。……数があっているかはわからんが」


「いや大体で大丈夫ですよ。ちゃんと後で薬作ってもらうんで」


「何をした」


「それはここではちょっと。後ほど報告でいいですかね」


「いいだろう」


 こちらの様子に侯爵家の使用人たちが集まってくるのを感じる。

 シリウスが小さく舌打ちした。


「公子がしていい仕草じゃないですよ」


「うるさい。怪我人は大人しくしていろ。……目的は達成したのか?」


「思っていた以上に厄介そうだってことはわかりましたよ」


「そうか。……その怪我についても、しっかりと報告してもらうからな」


 使用人たちの悲鳴に、シリウスが私から離れる。

 いつも通りの笑顔だったけど、あれは怒っている。

 

(あの眼は本気で怒ってたなあ……)


 無茶するなとは事前に何度も言われていたから仕方ないんだけどさあ。

 でもこのままヴェゼルが死んでしまうのは、いろんな意味で避けるべきだと思ったからこそ最善の策をとったつもりなんだよね、私は。


 確かに自分から毒を摂取するなんて他人の目から見たら危険極まりない行動だとは思うけども……でもだからって死ぬわけじゃないし。


(はあ~~~~、これは帰りの馬車が憂鬱)


 でもま、物語通り主人公(アナベル)は覚醒したし?

 なんか……こう、もろもろイベントは細かい部分は違っても起きたは起きたし?


 これでヴェゼルの命が助かれば、オールオッケーってことになるでしょ!

 え? ならない?


 そんなあ!

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