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招かれたのは、貴族派でも上位にいる侯爵家だった。
といっても謝罪を申し出たのは伯爵家のご令嬢で、町でアナベルに無礼な態度をとったことを謝りたいということで侯爵家が仲介に入った……という形になっているらしい。
この国では国内はおおまかに王家派、貴族派、中立派、軍部派の四つの大きな派閥がある。
勿論その中でさらに細部にわたってあれこれあって、ついでに言うと各派閥に対して諸々宗教が関連していたり他国との繋がりが……なんて複雑怪奇な関係が築かれているんだけど、まあこれは平和だからこそ。
なんで平和だからこそってのはそんな派閥作ってお互い牽制してられるくらい余裕があるって感じでご理解いただけたら幸い!
まあそれはともかくとして、アナベルに謝罪を申し出たのは貴族派の侯爵家、そして伯爵家ってことになる。
ちなみにノクス公爵家は軍部派に属しているけど、王家と遠縁ということもあって王家に近しい関係なので貴族派とは基本仲がいいっていうか争わない方向らしいよ!
(正直面倒くさいね!!)
みんな仲良くしろとか綺麗事を言える人間ではないし、そんなことこれっぽっちも思っちゃいないけど面倒くさいことで他人を巻き込むのは止めてもらいたいよね。
まあ私からしてみればボーナスいらっしゃいってな感じだし、裏社会の人たちに限らず貴族お抱えの後ろめたいことを任される連中にしてみたら〝仕事〟になるからありがたい話っちゃありがたい話なんだけども。
作戦はこうだ。
お嬢様方はつい最近まで平民だったアナベルを見下しているし、自分たちの上に立つことが気に入らない。
頭角を現して自分たちを脅かす前に打ちのめしてやろうと隙あらば狙っている。
そこに義兄であるシリウスを同伴の上、公爵家でいかに可愛がられているかを見せつける。
一旦そこでシリウスは退場。
だってお茶会はご令嬢たちのものだからね!
主催者である侯爵家のご当主にご挨拶って体で席を外す。
アナベルには地味な侍女に扮した私と、護衛騎士であるヴェゼルが後ろに控えるだけとなったらご令嬢たちはしっかりと動いてくれるはずだった。
動かなくてもいいんだ、彼女たちがどう反応して、どういう対応をするのかをチェックするのも大事だからね!
怪しいのを報告して裏取りで正しかったらボーナス出してくれるってシリウスが約束してくれたもんね!!
「あら、気分が優れないようですのねノクス公爵令嬢。もしよろしければ中庭でも散策なさっては? 今は花が見頃でしてよ」
でも嫌味を言われまくってアナベルが中座する……はずが、和やかなお茶会の中で謝罪があって和解があって……おやおや? 物語と展開がちょっと違うな……?
しかも緊張しているアナベルに対して彼女たちは親切にあれこれと声をかけ、少し散歩してきては……なんて発言が飛び出してきた。
それはあまりにも不自然では……と突っ込みたくなったけど、予想外にシリウスがついてきたから彼女たちもいろいろ言動に気をつけたのかもしれないと思うことにした。
(ま、後は手筈通りアナベルが中座したところを狙った暗殺者共を捕まえれば解決よ!)
よくよく考えたら、侯爵家が開いたお茶会でアナベルが怪我やそのお付きが怪我をしても誰も得はしないんだよね。
それならただ脅してその犯人を侯爵家側が捕らえ、ノクス公爵家に恩を売るってのが一番考えられることだ。
(小説じゃどうだったかなー……とにかくあそこはアナベルの覚醒シーンだったからなあ、矛盾とか派閥問題とかはそっちのけだったもんなあ!)
でも脅しにしろなんにしろ、こっちが先に犯人を捕まえればいいんでしょ。
暗殺者の経験を生かして、同じ穴の狢……じゃなかった、私のボーナス……もちょっとアレだな。
私の功績になっていただこうじゃないですか! うん、これだ!!




