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まあ、例の……アナベルが襲われてスキルを使うっていうあのイベントが発生するお茶会、それがそろそろ来てもいいと思う頃だ。
シリウスと私の間にもいい感じに(?)信頼関係が築けた……と思うので、いや築けてるよね? 私の手料理バックバク食べてるもんね?
これでこれっぽっちも信頼していないとか言われたら泣けるよ?
(私の実力とか人間性よりもただ料理が好みだとかそういう可能性も捨てきれない……!)
ただまあ、今日まで一緒に過ごしてわかるのは、シリウスという人は小説にも書いてあったけど、大変真面目な人ってこと。
つまりたとえば私がお仕事を辞めることになって、公爵が退職金を渋ったとしても代わりに彼が払ってくれるだろう……と思える程度には真面目に上司をするような人だ。
でもちょっと過保護っていうか、私の出自を聞いてからやたらとお土産を買ってきたり連れ出そうとするところはいただけないっていうか……幼児ちゃうんやぞ?
(……まあ、愛しのアナベルを重ねたのかもしれないよね)
彼女も孤児院育ちだからさ。
今は……ノクス公爵家で何不自由なく過ごしているし、彼女のひたむきさに絆されたところで王子に遠慮する気持ちと愛する気持ちでアナベルに対してあれこれしてあげるのは彼の立場からするととても難しいところだ。
その点、私はしがらみがあるわけじゃなし、気まぐれにやって来た野良猫に餌をやる感じで気軽に構えるってところじゃなかろうか?
(懐かない猫が、みたいなこと言ってたしね)
って自分で自分のこと野良猫とか思うととても微妙な気持ちになるなあ!
いやほぼほぼ合ってるだけになんとも言えないんだけども!!
(そうよねえ、私は……飼い犬にはなれないもの)
忠義を尽くすとか、そういうんじゃない。
とりあえずビジネスとしての信頼関係的なものは築けても、私は私の自由を一番に考えている。
こういうところが、シリウスにとっては新鮮なのかもしれない。
彼は、いろいろなものに縛られた生き方をしているから。
その上で恋も愛も他人にかっ攫われるんだから報われない人だよね、ほんと!
「……ま、せいぜい美味しいもんでも作ってあげるとしましょうかね」
デザートもつけて、ふかふかのお布団用意して。
私がいつか一人暮らしするために身につけたスキルを余すことなく活用して、せいぜい自宅でくらい気を抜いてだらけた生活を送ってくれたらいいと思うんだよ。
まあ、私が去った後のことは知らんけども。
お給料分は働くのが私のポリシーだからね!!
「帰った」
「あれ、珍しく早いお帰りですね。いつもの時間かと思ってまだ食事は用意していませんが……この後、別の用事でも?」
それならそれでこっちも食材管理をしなくては。
けれどシリウスは私の方を見て、首を横に振る。
「アナベルに招待状が来た」
「それって……」
「ああ。お前が言っていた茶会の可能性が高い」
真面目くさった顔をするシリウスに、私はにっこりと笑ってみせる。
ようやくこの日が来ましたか!
いっちょ役に立つとこ、見せますよ!!