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(……とはいえ、小説になかった話は意外に重かったな~)
知らない内容だったから興味深いっちゃ興味深かったね!
ノクス公爵家の内情なんてどこの組織でも金になるから調べたがるやつらが多かったから、ある程度は裏社会じゃ有名な話なんだろうけど……。
私は興味なかったからなあ。
(それに、小説で知った気になっていた部分もあったしなあ)
当然と言えば当然だけど、人には生きてきた背景ってもんがある。
小説の中でシリウスの過去は一行二行で終わるような扱いだったけど、それはあの物語はアナベルのものであって、シリウスは彼女に恋する男の一人に過ぎないからだ。
ノクス公爵家という舞台と、彼女を愛する……それもとびっきりの事情持ちの男!
ロマンスには欠かせないよね!!
ただまあそれが現実の話となると、別なわけで。
途中唐突に登場して退場する脇役だってなかなか、世間一般で言うところの〝重い過去〟持ちに該当するわけだしね?
(まあそれはともかく、家臣団か……家臣団、ねえ)
要するにノクス公爵家内部の事情というやつで、お家騒動なんてものとはいかないまでも子供たちに対してそれぞれ働きかけてくるやつらがいると。
現在のノクス家の子供たちは、シリウスを長男として長女のアナベル、それから次男のレオナール。
ついこの間、アナベルが見つかるまではレオナールが跡目を継ぐことになっていたけど長子相続制であるこの国で、実子でなおかつ長子で考えるとアナベルに軍配が上がる。
でも貴族としての学びの点で言えばレオナール。
しかしながら、能力とカリスマ性で言うとシリウス……とまあ、ノクス公爵家の能力の高さが子供たちそれぞれに受け継がれててまあ大変! より取り見取り!!
ってなわけで、誰につくのか・誰を当主にしたら自分たちにとってメリットになるのかで家臣団の思惑が働いているってことらしい。
(貴族って面倒くさいわねえ……)
そんなお互いのメンタルすり減らして何が楽しいのかな。
私はチーズすりおろしている方が楽しいんだけど。
「……いい匂いがする」
「あ、おはようございます。二日酔いはなさそうですか」
「ああ……」
あんだけ飲んで翌日二日酔いにならないとかすごいな。
まあ珍しく昼まで寝ていたのでもしかしたらよく寝るタイプなのかもしれんけど。
妙な酔い方するタイプの上司じゃなくてよかったなあとなんとなく思いつつ、野菜たっぷりスープにすりおろしたばかりのチーズをちらす。
とろとろに蕩けたチーズと野菜のマリアージュをお楽しみください!!
「そういや確認なんですけど、シリウス様」
「なんだ」
「賄賂を使ったり脅迫したりで私を従わせようとする連中は基本相手にせずのらりくらりと躱して報告、ってことでしたけど……実力行使に出てきたりしたらそこはやり返しても?」
「……その場合は反撃を許可するが、怪我をさせるな」
「ちなみに報告一件につきボーナスとか出ますか」
「……いいだろう、考慮してやる。数が多いようなら基本給の方を上げる」
「よっしゃ! 頑張ります!!」
面倒くさいなと思ったけどお給料アップならウェルカムだよ!
特になんだったら実力行使に出てきてくれたら私としては楽だからそっちの方がいいな!!
脳筋?
いいえ、シンプルなやりとりが一番簡単ってだけですとも。